【3058】死にたい気持ちがあるが、抗うつ薬が処方されない(【3025】の補足)
Q: 【3025】双極性2型か、それとも抗うつ薬の副作用か の40代男性です。回答いただきありがとうございました。
お尋ねの点を含め補足等をお送りします。
>この時点でうつ状態が明らかとなっています。「徐々に不安が増し」の背景が書かれていないので不明ですが、その不安に見合った原因がなければ、この時点で診断は内因性の気分障害(うつ病 または 双極性障害)の疑いが濃厚となっていたと思います。
記憶が定かではないのですが、受診とほぼ同時に職業訓練を受講したものの就業に至らず自宅に引きこもりがちになったことや、離別した相手のことを忘れられずもがいていたことなどが思い浮かびます。しかしながら先生のご指摘通りこれらはエピソードに過ぎず、実際は内因性であったのかもしれません。ただ、医師からそのような話はありませんでした。集合住宅の自宅で騒音に過敏になり不眠が加速したため、クリニックのデイケアルームで知らずのうちに眠り、揺すって起こされるまで起きないほどに眠ってしまっていたことが多々ありました。
>これも、背景情報が不明ですので(つまり、職場に何らかの原因があって「気持ちが切れ集中できなく」なったのか。また、「揉める形で退職しました」も職場に何らかの問題があったか、などが不明です)、判定困難ですが、ここまでの経過、そして後の経過も総合すれば、双極性障害のニュアンスのある気分の不安定さがこの時点で現れていたと推定することができます。
就業直後は薬の副作用の為に居眠りが多く評価が低かったのですが、新規案件が入ってきた際に以前の職で培った経験が活かせたために中心におかれ責任が重くなりました。また、顧客からの変更指示が多く納期に間に合わない可能性が出てきて案件に携わる人員が増大し、部下への指示に追われ、捗々しくない状況に上司も社内で横槍を入れられ、そのあおりを私が受けたりするなど、疲労困憊の状態に陥ってしまいました。睡眠時間も減っていました。横槍を入れられた為に上司は案件の指揮権を失い、上司と私のやり方で業務が継続できなくなり、最後は上司とではなく別の従業員と喧嘩をして上司の引き留めを無視して退職しました。
>追加の薬を処方される前の処方が記されていませんので、コメントは困難です。X+5年12月には抗うつ薬のパキシルが処方されており、それがX+6年6月の処方では消滅していますので、この半年のどこかの時点で中止されたと思われますが、その中止の時点と、「X+6年4月頃から死にたいという言葉が頭の中でめぐるようになり」の時期の時間的関係を知りたいところです。
転医とともにパキシル服用中止、リーマス服用が決まり、パキシルを徐々に減らすことになりました。
転医してすぐ(X+6年1月)の処方は下記のとおりです。
・ドグマチール50mg×2
・パキシル30mg×1
・パキシル5mg×1
・リーマス100mg×3
・レキソタン2mg×1
・レスリン25mg×1
その後(X+6年2月)の処方は下記のとおりです。
・パキシル5mg×2
・リーマス100mg×3
・レキソタン2mg×1
・レスリン25mg×1
・アモバン7.5mg×1
同年2月半ばにはパキシルの服用を中止しています。医師はもう少し時間をかける予定だったようですが、減薬しているうちにパキシルを飲むと吐き気や頭痛がするようになった為に中止しました。
また、【3025】にある通り、自律神経の異常と思われる症状が酷く、頭痛薬などを処方されていまして、表現が難しいのですが、世界がぐるぐるまわるような生きた心地がしないような日々が春ごろまで続いていました。
それらが落ち着いた頃に死にたいような気持がわいてきました。同時に自宅に一人でこもっていることに耐えられず誰かと電話で話したいという強い欲求がありました。そのことを医師に話したところX+6年4月末にセロクエル25mg×0.5を処方され、5月に同25mg×1になりました。
X+6年5月の処方は下記のとおりです。
・リーマス100mg×3
・レキソタン22
・レスリン25mg×1
・セロクエル25mg×1
>X+6年4月以後には抗うつ薬の処方はレスリン25mgのみとなっていますが、仮にX+6年4月以後もうつ状態が持続していれば、さらに抗うつ薬の追加も考えられるところです。
うつ状態はX+6年5月〜同年6月が酷く、その間に抗うつ薬の追加はありませんでした。
自宅で一人で過ごすことが困難になり、X+6年7月は親元で数週間生活することにしました。
それを前提に医師に不安を強く訴えたところ漢方製剤を処方されました。
(漢方は効いた実感がなく自己判断で服薬を中止しました)。またレキソタンを増やしてほしいと願い出て増薬してもらいました。
X+6年6月末頃の処方は下記のとおりです。
・リーマス100mg×3
・レキソタン23
・レスリン25mg×1
・ジプレキサ2.5mg×1
・アモバン10mg×1
・ツムラ甘麦大棗湯2.5×1
林先生の基本的お考えは現在診察を受けている医師の意見が最優先だということですので、医師が抗うつ薬を処方しないのはそれが適切だと判断しているからだと思って処方通り服薬を続けるつもりです。ただ、もし、患者として医師に伝えるべき事柄があるように見受けられましたらご指摘頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
林: 詳細に補足情報をいただきありがとうございました。
>この時点でうつ状態が明らかとなっています。「徐々に不安が増し」の背景が書かれていないので不明ですが、その不安に見合った原因がなければ、この時点で診断は内因性の気分障害(うつ病 または 双極性障害)の疑いが濃厚となっていたと思います。
記憶が定かではないのですが、受診とほぼ同時に職業訓練を受講したものの就業に至らず自宅に引きこもりがちになったことや、離別した相手のことを忘れられずもがいていたことなどが思い浮かびます。しかしながら先生のご指摘通りこれらはエピソードに過ぎず、実際は内因性であったのかもしれません。ただ、医師からそのような話はありませんでした。集合住宅の自宅で騒音に過敏になり不眠が加速したため、クリニックのデイケアルームで知らずのうちに眠り、揺すって起こされるまで起きないほどに眠ってしまっていたことが多々ありました。
この時点で、「内因性の気分障害の疑い濃厚」とまでは言えると思います。
>これも、背景情報が不明ですので(つまり、職場に何らかの原因があって「気持ちが切れ集中できなく」なったのか。また、「揉める形で退職しました」も職場に何らかの問題があったか、などが不明です)、判定困難ですが、ここまでの経過、そして後の経過も総合すれば、双極性障害のニュアンスのある気分の不安定さがこの時点で現れていたと推定することができます。
就業直後は薬の副作用の為に居眠りが多く評価が低かったのですが、新規案件が入ってきた際に以前の職で培った経験が活かせたために中心におかれ責任が重くなりました。また、顧客からの変更指示が多く納期に間に合わない可能性が出てきて案件に携わる人員が増大し、部下への指示に追われ、捗々しくない状況に上司も社内で横槍を入れられ、そのあおりを私が受けたりするなど、疲労困憊の状態に陥ってしまいました。睡眠時間も減っていました。横槍を入れられた為に上司は案件の指揮権を失い、上司と私のやり方で業務が継続できなくなり、最後は上司とではなく別の従業員と喧嘩をして上司の引き留めを無視して退職しました。
双極性障害のニュアンスのある気分の不安定さあり とまでは言えると思います。
>追加の薬を処方される前の処方が記されていませんので、コメントは困難です。X+5年12月には抗うつ薬のパキシルが処方されており、それがX+6年6月の処方では消滅していますので、この半年のどこかの時点で中止されたと思われますが、その中止の時点と、「X+6年4月頃から死にたいという言葉が頭の中でめぐるようになり」の時期の時間的関係を知りたいところです。
転医とともにパキシル服用中止、リーマス服用が決まり、パキシルを徐々に減らすことになりました。
これ以後の具体的な処方の内容を見ますと、主治医の先生の方針が、「双極性障害と診断したからには、抗うつ薬は中止する・処方しない」というものであることが読み取れます。これは現代の精神医学では正しいとされている方針です。この時点で、【3025】のケースにおいてこのような方針を取ることは適切だったと私は考えます。
また、【3025】にある通り、自律神経の異常と思われる症状が酷く、頭痛薬などを処方されていまして、表現が難しいのですが、世界がぐるぐるまわるような生きた心地がしないような日々が春ごろまで続いていました。
それらが落ち着いた頃に死にたいような気持がわいてきました。同時に自宅に一人でこもっていることに耐えられず誰かと電話で話したいという強い欲求がありました。そのことを医師に話したところX+6年4月末にセロクエル25mg×0.5を処方され、5月に同25mg×1になりました。
これは解釈・治療ともになかなか難しい症状です。実際の臨床では、双極性障害に限らず、このような難しい展開になることはよくあります。一人の患者の長い経過を見れば、教科書的な症状が続き教科書的な治療で対応できるのはその一部であって、全経過をそれで対応しきれることはなかなかないものです。
そしてこのケース、この難しい展開における主治医の先生の対応は適切であったと私は考えます。
>X+6年4月以後には抗うつ薬の処方はレスリン25mgのみとなっていますが、仮にX+6年4月以後もうつ状態が持続していれば、さらに抗うつ薬の追加も考えられるところです。
うつ状態はX+6年5月〜同年6月が酷く、その間に抗うつ薬の追加はありませんでした。
自宅で一人で過ごすことが困難になり、X+6年7月は親元で数週間生活することにしました。
この後の処方経過を見ますと、主治医の先生は、抗うつ薬の処方は控え続けていることが読み取れます。
それに対し、私の【3025】の回答は、上記引用の通り、 うつ状態が持続していれば、さらに抗うつ薬の追加も考えられる でした。
ここは意見の分かれるところです。
先にお書きした通り、現代の精神医学においては、「双極性障害と診断したからには抗うつ薬は中止する・処方しない」というのが正しいとされており、治療ガイドラインにもそのように明記されています。双極性障害では、たとえうつ状態であっても、抗うつ薬を処方すると、うつ状態の改善というプラスよりも、躁転を引き起こすというマイナスのほうが大きいという統計的データなどに基づくものです。
けれども、この【3025】のケースのように、双極性障害に適切とされている治療を続けていてもうつ状態が長引く場合は、抗うつ薬を処方すべきだと私は考えています。これは林がそう考えているということにすぎず、現代の治療ガイドラインには反するものです。けれどもそのように考えている精神科医が多数存在するとは事実で、現に双極性障害であっても抗うつ薬が処方されているケースは膨大に存在します。
ここは先にお書きした通り 意見の分かれるところ で、抗うつ薬を処方しないのが正しいか、するのが正しいか、一概に決めることはできません。
この【3025】【3058】の主治医は、抗うつ薬を処方しないという方針を取っておられるようです。
それは私の方針とは異なりますが、
林先生の基本的お考えは現在診察を受けている医師の意見が最優先だということですので、
その通りですので、
医師が抗うつ薬を処方しないのはそれが適切だと判断しているからだと思って処方通り服薬を続けるつもりです。
それが最善であると思います。
ただ、もし、患者として医師に伝えるべき事柄があるように見受けられましたらご指摘頂ければ幸いです。
主治医の先生は、「双極性障害では抗うつ薬を処方しないという強い方針を持っているが、よほどうつ状態が強い場合は例外的に処方する」というご方針ということも考えられますので、うつ状態が非常につらければ、それを正確に先生にお伝えすることは必要だと思います。(たとえそれでも抗うつ薬は処方されないとしても、何らかの対処はしてくださるでしょう)
(2015.9.5.)