【3010】単に気分変調症なのでしょうか
Q: いつも興味深く拝読しております。30代の女性です。
私は一度就職したものの、月に150〜200時間の時間外労働が続いた上に、残業代は殆ど未払いで、その結果体調を崩して仕事を辞めました。
しばらく実家に戻って療養を続け、ある程度回復したのでアルバイトを探していますが、恥ずかしながら、探し始めて2年経っても決まらずにいます。
正直なところ、働いていた頃は大企業の営業職で表彰されるなど、それなりに活躍していたので、いわゆるブラックバイトですら採用されない現状は屈辱的です。勿論それが態度に出ていたとしたら、私の方が問題だとは思いますが。
そんな状態が続く中、気になっていることがあります。
ごくごく稀にですが、家族の前でイライラといった負の感情が爆発してしまうことがあるのです。
昔は全くそのようなことはありませんでした。
泣くことも怒ることも、とにかく負の感情は人前には出さないように努めて、実際にそれができていました。
しかし最近では爆発して家族(主に父)に怒鳴り、物を投げたり倒したりしてしまいます。
壊れるようなものは投げないし、家族に向けて投げたりはしないので、無意識に判断しているのかな、とも思いますが、エスカレートしていけば、いずれは破壊すると思います。
そして、その爆発している間中の感覚がありません。自分が自分では無いような感覚です。一応記憶はあるのですが、実感としてはなく、あやふやな感じです。
これまでの経過としては、仕事を辞めた時点では中程度のうつ病と診断され、その後躁転してからは、軽躁と鬱を繰り返しているので双極性㈼型を疑われながら、診断は気分変調症に変わって現在に至ります。
子供の頃からアトピー性皮膚炎や花粉症で、最近ではアレルギー性鼻炎、薬疹が出たりと、アレルギー体質が悪化しています。特に皮膚が弱く、銭湯などは怖くて行けません。カンジダ性皮膚炎や口角炎もよく発症します。
血液検査では異常は無いのですが、低血糖や貧血のような症状、偏頭痛なども度々みられます。
また、最近では肩や手首、足首が常にゴリゴリと音を立てるほど凝っており、腰も頻繁に違和感を感じます。
運動は比較的している部類だと思いますし、食事内容も気を遣っています。肩甲骨ストレッチなどもするようにしています。姿勢も特に良くも悪くはなく、時々気をつけて背筋を伸ばします。
最初に発症した頃に月経は止まり、今は月経不順です。
上記のような、寝込むほどではないような不調がたくさんあります。
精神的なもので心当たりがあることは、昔から殆ど親の言う通りにしてきたことです。
家の空気が悪く、姉はそれに反発していたので、私は従順になりました。進学先も、姉は私立でしたが、私は自分の希望とは違う国立大学にしました。
父親は自分の収入がなければ行けなかっただろう、と言いますが、無ければ私の成績なら免除や奨学金も十分受けられたはずです。
自分の考えを言うと、殆どは否定されたり、馬鹿にされました。
そして、親元を離れると態度は冷たくなり、病気になると優しくなりました。
いい大人が親のせいにするのはみっともないですし、私自身の問題であることは確かなのですが、そういったことの積み重ねに原因がある気がしてなりません。
納得のいく説明があるならばいいのですが、未だに理不尽に感じ、色々なことに苛立ちます。その中には仕事が見つからないことへの苛立ちもあると思います。
うつ病ではないと思いますが、これは単に気分変調症なのでしょうか。
別な治療が必要なのでしょうか。
林:
これは単に気分変調症なのでしょうか。
というご質問ですが、「気分変調症」であることと「単に」という修飾語は本来つながるものではありません。質問者は、文脈からは、「うつ病」より「気分変調症」は軽いと考えておられるようですが、「うつ病」も「気分変調症」もどちらも正式な病名であり、どちらが重く、どちらが軽いということはありません。病名から持たれる印象と、その病気の実態とは、この例に限らず、一致しないものです。
まず以上を認識されたうえで、以下の回答をお読みください。
これまでの経過としては、仕事を辞めた時点では中程度のうつ病と診断され、その後躁転してからは、軽躁と鬱を繰り返しているので双極性Ⅱ型を疑われながら、診断は気分変調症に変わって現在に至ります。
この経過は、精神科の診断名の変遷としてはある意味典型的なものです。次の通りです。
仕事を辞めた時点では中程度のうつ病と診断され
この時点で下されたうつ病の診断は、この時点の診断として適切だったと思われます。
その後躁転してからは、軽躁と鬱を繰り返しているので双極性Ⅱ型を疑われながら
軽躁と鬱を繰り返しているのであれば、双極性Ⅱ型という診断は適切です。経過によってうつ病から双極性障害に診断名が変わるのは、ごく普通のことです。
但し、「軽躁と鬱を繰り返している」と書かれているだけなので、それが本当に軽躁と言える症状だったのか、本当に鬱と言える症状だったのかが問題です。これらが確認できて始めて「軽躁と鬱を繰り返している」ということができます。
診断は気分変調症に変わって現在に至ります。
「気分変調症」は、「気分の波はあるが、双極性障害などの診断基準を満たすには至らない」ものを指します。この場合、病気とまでは言えない単なる波の場合もあります。けれどもこの【3010】では、(1) 中等度のうつ病 と診断された既往があり、 (2) 「軽躁と鬱を繰り返して」きたことからは、病気の範疇にあって、但し厳密には他の診断基準を満たさなかったと判断されます。((2)だけカギ括弧をつけたのは、(1)の中等度のうつ病 というのは医師の診断であるのに対し、(2)の軽躁と鬱を繰り返してきた というのは自己申告にすぎませんので、(2)に関しては病的かどうかの判断を保留したことによります)
しかし、このメールの記載内容が正しいとすれば(細かい表現まですべて正しいと仮定すれば)、気分変調症という診断は誤りです。中等度のうつ病と診断された既往がある以上、この【3010】は気分変調症ではありません。そして、「軽躁と鬱を繰り返してきた」というのが事実であれば(自己申告ではなく、診察した医師から客観的にみて事実だということです)、双極Ⅱ型障害です。
そうだとすれば、このメールに書かれているいくつもの悩みの、すべてではないにせよ多くの部分は、うつ病または双極性障害(おそらく双極Ⅱ型)の症状です。つまり、適切な薬物療法により改善が期待できます。
(2015.7.5.)