【2982】10年以上無治療の兄、このまま放置するのも兄の人生でしょうか(【0460】、【0495】のその後)
Q: 2003年に【0460】再三のいじめと中傷の末、引きこもりになった兄、【0495】「完璧にプライバシーを守ると病院に誓約書をとってこい」という兄 でお世話になった者です。ありがとうございました。
もう10年以上たってしまって、先生のサイトを最近他者よりすすめられ、こんな相談をこの頃からしていたのだと思いだしました。
結局、両親も説得しきれず、兄の猛烈な拒絶により病院につなげられず、こんなに年月がたってしまっていました。
【0460】、【0495】を読み返してみて、あまりに今と変わらない過去の状況の投稿に驚いています。
兄は、現在も家におります。アラフォーです。
その後の約10年の間、ひきこもりはつづき、しかしここ数年バイトにて複数の会社で働けていました。
全て同僚や上司への不満や、いつもバカにされる、と言いくたくたになって辞め次を見つけていました。
全て周囲が悪い、自分は悪くない、との視点です。
自分はいじめにあい、もう自分ばかり変われはおかしい、他人が変われとのことで、以前相談した時と何も変わっていません。
今日までに本気でないアピール的な自殺未遂が増えました。
両親を長時間責める頻度も増えました。
相変わらず盗聴妄想もあります。
家で物にあたることも増えました。
怒る沸点が益々低くなり、が、機嫌が直ると両親に悪かったと謝ります。
言っていることはまともで、おかしなことを言い出すなどはありません。
会話は普通にでき、家の仕事は少しですが時々手伝うようにはなりました。
両親は高齢になり、しかし驚くことに介護はこんな兄に期待をしています。
兄は親が死ぬまで、親の年金で生きられるだけ生きようと思っているようです。
もう外では働けないと思っているけれど、生活保護や障害年金の申請も今はなぜか拒絶しています。
家来のように怒られ言いなりになっている両親も心配、兄の状態も心配しています。
親は、動いてこれ以上悪くなるのを今だ怖がっており、何もせず死んでいくつもりのようです。
手を打とうとしているのは、自分のみ、おせっかいなのかなとこれにも悩んできました。
最近の様子が以前より少し悪化したと心配し、自分のみでいろいろな機関、病院をいくつか回りました。
診断は様々でした。どこも兄の受診、または、親の協力が必要なようでした。
とにかく、家にいることは、何の病気であれよい状態でないと思っています。
その思いを兄と両親にやんわりですが伝えるごとに、大拒絶にあいつづけています。
遂には、もう病院の話をしないでくれと両親に請われ、兄からも自分を病気扱いするなと激怒され、これ以上話を進めたら実家に出入り禁止になりそうです。
ただ一人心配して動くことに限界を感じつつあります。
画家のゴッホも弟の援助を受けて、ひっそりと暮らし死んでいったと聞きます。
何かそれに似た、諦めのような気持ちをもちつつあります。
最近の兄の様子は、境界性人格障害が出ているのかもと読んだ本により思いました。
もしそうならば、もう一生治らないのではないかと思っています。
あきらめすぎでしょうか、まだ道はありますか?
今後このまま10年たってしまうは避けたい、でもそれも兄の人生でしょうか?
家族がこのような状況にて、今後、自分の立場でとるべき道がありましたら
ご指導いただけたらありがたく存じます。宜しくお願いいたします。
林: 経過のご連絡をいただきありがとうございました。ご苦悩をお察し申し上げます。
質問者がこれまでできる限りの努力をして来られたことがよくわかります。
どこも兄の受診、または、親の協力が必要なようでした。
ご相談された機関からのこの回答は当然ながら正当で、「本人の受診も親の協力も得られないから相談しているのだ」とおっしゃりたくなる気持ちを本当はお持ちかと思いますが、しかし現実には本人の受診はともかくとして(受診しなくていいということではなく、手順として)、ご両親のご協力がなければどの機関も動きようがないでしょう。
したがって、ご両親にこの現実をわかっていただくことが先決ですが、
その思いを兄と両親にやんわりですが伝えるごとに、大拒絶にあいつづけています。
遂には、もう病院の話をしないでくれと両親に請われ、兄からも自分を病気扱いするなと激怒され、これ以上話を進めたら実家に出入り禁止になりそうです。
このような状況では、もはや打つ手はないと言えます。
なお、
最近の兄の様子は、境界性人格障害が出ているのかもと読んだ本により思いました。
これは全くの誤りです。おそらく本の中の境界性人格障害の症状だけをお読みになり、あてはまる点がいくつもあると感じられたのだと思いますが、人格障害とは(さらにはいかなる病気も)、症状があてはまるからといってその病気にあたるというものではありません。そのような判定法は、診断基準の典型的な誤読です。
しかしそれはともかくとして、
あきらめすぎでしょうか、まだ道はありますか?
結局はやはりご両親のご協力が得られるか否かがポイントです。
それに向けて努力したほうがいいかは、考え方次第です。
通常なら「考え方次第」などという回答はせず、どこまでも努力を続けられることをお勧めするところですが、質問者はすでに並々ならぬ努力をしてこられていますので、「さらに努力を」と言っても、むなしく響くだけでしょう。
すると
今後このまま10年たってしまうは避けたい、でもそれも兄の人生でしょうか?
という考え方もあり得ると言わざるを得ません。
但し、このように無治療のまま放置された統合失調症が、悪化に悪化を重ね、最終的に自分や人を傷つけるという結末があるという事実は無視できないでしょう。
統合失調症の人が他人を傷つけたという事件はしばしば報道されています。統合失調症の人が結果的に他人を傷つけるのは、無治療か、または、治療を中断していた場合が大部分です(林の奥 の ワシントン海軍施設での乱射事件 がその悲惨な一例です)。ですから起きてしまった事件に目を向ければ、「またきちんと治療を受けていない統合失調症の人がこんなひどい事件を・・・」ということになります。ここまでは否定し難い事実です。
しかしだからといって、「無治療か、または、治療を中断していた統合失調症の人は、人を傷つける率が高い」と言えるかどうかはまた別の問題です。まさにこの【2982】のケースがその実例で、10年以上無治療ですが、決して人を傷つけているわけではありません。このようなケース (この【2982】のように、長年にわたり無治療だが、人を傷つけたわけではないというケース) は、潜在的には世の中に相当な数存在すると思われます。
今後このまま10年たってしまうは避けたい、でもそれも兄の人生でしょうか?
この問いに対する答えが「考え方次第」というのは、上記のような事実に基づくものです。このままの状態を容認するか、それとも相当な無理をしてでも受診・治療開始の努力をされるかは、上記の事実ももとにしてお決めください。
(2015.6.5.)