精神科Q&A
【0495】 「完璧にプライバシーを守ると病院に誓約書をとってこい」という兄(【0460】の続き)
Q: 【0460】再三のいじめと中傷の末、引きこもりになった兄 (2003.7.5.) でお答えをいただいた者です。その節は、どうも有難うございました。その後のことに関し、またご相談させていただきたいのですが。
【0460】のアドバイスどおり、両親にも話しました。
最近、兄の状態が悪く、ことあるごとに気に食わないと家族にあたりちらし、お説教を延々としたり、親がバカだからもう自殺してやる、などと言うようになりました。
「○○をして迷惑かけてやる!」とは今までもよく言ってきておりましたが、実行したためしがありません。
しかし、最近の「死んでやる」という発言にはさすがに両親もあせり、兄の状態を何年も見て見ぬふりをしていたのに、やっと重い腰をあげ病院に行くという気持ちになってきてくれました。
しかし、ここで新たな状況がでてきてしまったのです。
兄は、両親に「病院に言っておまえらがまず治療してこい」とよくいうものの、いざ今回両親だけでも行こうという話になったら、
「その病院は、プライバシーは完璧に守られるのか。少しでも自分のひきこもりの情報を外にもらすようなことがあれば、自分はもうさらに外に出られなくなる。完璧にプライバシーを守ると病院に誓約書をとってこい。そして、こちらも住所、情報を明かすのだから、医者、カウンセラーの自宅の住所も明かさせろ。そうじゃないと自分は行かない。」
と言ってききません。
兄は、一番に、自分のマイナスの情報が外にもれ、今までよりさらに世間からいじめられるのを恐れているのです。
自分が病院の受診が必要であることは、こころの底では自覚している発言をたまにしてはいます。
でも、上記のようなことが守られないなら一生病院には行かない(つまり、うわさが広がる可能性が怖くて行けない)と行っている状態です。
毎日毎日兄が荒れる最近、家族で疲れきってきています。
最近では、兄弟で思ってはいけないことですが、
「なぜ自分では動かずに、自分を反省することもせず、他人ばかり責めてばかりで・・・、そんなに自殺したいなら、自殺してくれてかまわないのに・・・」
と考えてしまっています。
それも”(精神病)病気”のせいと考えるべきなのでしょうか・・・。
両親はやっと病院に行く腰をあげてくれそうですが、肝心の兄に腰をあげてもらうにはどうしたらいいのでしょうか。
とりあえず、両親が医師に兄の要求を話し、誓約書をとってくることをしてこようかと考えています。次の段階としては、それでいいのでしょうか。
林: 全体としては、良い方向に向かっていると思います。
両親も・・・やっと重い腰をあげ病院に行くという気持ちになってきてくれました
というのは、大きな進歩です。
また、お兄様ご本人が、
自分が病院の受診が必要であることは、こころの底では自覚している発言をたまにしてはいます
ということからも、治療の導入が期待できると思います。
病識というのは、不思議なものです。
自分は病気でない、と言い張っていながらも、こころのどこかでは治療の必要性を感じている。これは【0364】でも触れましたが、部分的に病識があるということもできますし、病識はないが病感はある、ということもできます。いずれにせよ、治療を開始できるという期待を持っていいと思います。
もっとも、
肝心の兄に腰をあげてもらうにはどうしたらいいのでしょうか
とあなたも心配されているように、ここから実際の治療開始まではそう簡単ではないと思います。
けれども、
とりあえず、両親が医師に兄の要求を話し、誓約書をとってくることをしてこようかと考えています
これには賛成できません。やめたほうがいいでしょう。おそらくこうやって誓約書を(仮に)とっても、お兄様がそれで納得して治療を受けやすくなるとは思えません。このあたり、理屈では説明しにくいのですが、妄想というのはそういうものなのです。
したがって、誓約書をとってくることによるプラスはほとんど期待できません。
逆に、大きなマイナスが考えられます。それは、病院との関係ということです。
病院を受診する人のなかには、いろいろな人がいます。
なかには、最初から診断や治療に対していいがかりをつけるつもりとしか思えない人もいます。もしあなたやあなたのご両親が、初診のときに病院に対して誓約書を要求したりすると、そういう人たちと同類と疑われる可能性があります。そうなったら治療関係は最初からゆがんだものになってしまいます。つまり、その後の治療がうまくいかないことが危惧されます。
まずは、ご両親が病院に相談に行くことが第一でしょう。その際、誓約書云々のことは口にすべきではありません。