【2882】簡単に騙される精神科医は悪意を持った者に利用されるのでは?

Q: 10代女性です。【2800】精神科医が騙されるなんて思わなかったのですがを読みました。
精神疾患の方々に対する強い偏見を林先生は気にしておられましたが、精神病の認定を受けることで優遇を受ける部分も多く存在していると思います。
障害者年金の不正受給、刑法39条の適用などです。
特に後者は重大な事件であるほど鑑定人の責任が大きくなるのではないのでしょうか。
【2800】への回答の最後で林先生は、

自分が精神疾患であると診断されることは誰も望まなかった時代には表面化しなかった問題が、偏見が弱まり、精神疾患(中でも、うつ病)と診断されることをむしろ望む人さえ見られるようになったことで、大きく表面化してきたといえます。

と書いていますが、時代が進んだのに精神鑑定、精神科の診療は追いついていない気がします。
騙されても仕方ない、信用するしか無い、当の精神科医がこのような意識を持っているようでは社会の秩序はめちゃくちゃになってしまうのではないでしょうか。
治療法や薬剤の開発だけでなく、そのような問題への対策も進めていくべきではないのでしょうか。

 
林: 質問者は、精神科の診察と鑑定を混同しています。この二つは全く別のものです。

時代が進んだのに精神鑑定、精神科の診療は追いついていない気がします。

そう考えるのは質問者の無知に起因しているところが大です。精神科の診察と精神鑑定を混同しているという一点だけからも、それは明らかです。

それはそうと、とりあえず精神鑑定については別として(精神鑑定では詐病を見抜くことは非常に重要です)、通常の精神科の診察において、詐病を見抜くという技術に関して、現代の精神科医は不十分であるということは言えると思います。
その背景には、【2800】の回答の通り、かつては精神科の病気であると診断されることの不利益があまりに大きかったため、詐病をする人は少なかったという事情があります。けれども時代が変わり、通常の精神科の診察においても、詐病を見抜く技術がおおいに求められる状況になってきているといえるでしょう。この【2882】の質問者が言及している障害認定は、それが求められる顕著な場面です。

Evaluating Mental Health Disability in the Workplace: Model, Process, and Analysis Liza H. Gold、 Daniel W. Shuman
Springer-Verlag  2009.

には、障害認定において詐病を見抜くポイントが、malingering red flag としてまとめられています。
また、

「うつ」は病気か甘えか。 村松太郎著 幻冬舎 2014年

には、詐病警報としてまとめられています。

このような時代背景を別にしても、詐病、そして、詐病とまでは言えないレベルの症状の誇張などは、精神科診断学の根幹を揺るがす問題といえます。これまでの精神医学ではそれがあまりに等閑視されてきていると私は考えています。

嘘つき、虚言癖は病気か 林公一 2014年

のまえがきに私が、

虚言についての医学的研究は驚くほど少ない。虚言は精神医学の死角にある。

とお書きした通りです。

ですから、この【2882】のタイトルである

簡単に騙される精神科医は悪意を持った者に利用されるのでは?

に対する端的な答えは
イエス
です。

(2015.1.5.)

05. 1月 2015 by Hayashi
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