【2883】幻視や幻聴は、本当に何か見えていたり、聴こえていたりするのでしょうか

Q: 30代男性です。
いつもQAを拝見しております。
場違い、かつ、興味本位の質問ですいません。
このQAサイトに限らず、精神の病気の話題で、幻視や幻聴といった症状を耳にします。そもそも、幻視や幻聴は、本当に何か見えていたり、聴こえていたりするのでしょうか。検査でわかるのでしょうか。または、実際は見えたり聴こえたりする訳ではなく、見える、聴こるという虚言を発するようになってしまう症状なのでしょうか(虚言という表現は、本当に苦しんでいる方がいれば、悪い表現でお詫びします)。
或いは、幻が見えている・聴こえていることも、見えていない・聴こえていないこともわからないのでしょうか。また、診断では見えるかどうかの事実よりも、幻視・幻聴を訴えることのほうが重要ということでしょうか。

 
林: これは精神科診断の根本にかかわる重大なご質問ですが、答えはあっさりしたものにならざるを得ません。

「本人の主観的な症状は、本人にしかわからない。本人に見えている・聴こえているのであれば、それは本人にとって事実であり、本人以外が事実か否かを評価することは出来ない」
が答えです。

けれども【2883】の質問者が言及されているとおり、ここに虚言という重要な因子がかかわってきます。この因子を考慮すると、上記の回答は次のように修正されることになります:

「本人の主観的な症状は、本人にしかわからない。本人に見えている・聴こえているのであれば、それは本人にとって事実であり、本人以外が事実か否かを評価することは出来ない。但しここには、本人の訴えが虚言ではないという条件がつく」

さてしかしここで、「本人の訴えが虚言ではない」かどうかは、これもまた本人しかわからないという問題があります。
したがって、虚言を見抜くことは、精神科の診断において不可欠の、非常に重要な技術ですが、【2882】簡単に騙される精神科医は悪意を持った者に利用されるのでは? の回答にお書きしたとおり、これまでの精神医学ではそれがあまりに等閑視されてきていると私は考えています。

もう一つ付け加えるべき重要な点は、いま私は

「本人の訴えが虚言ではない」かどうかは、これもまた本人しかわからない

とお書きしましたが、嘘つき、虚言癖は病気か 林公一 2014年の中で繰り返し述べたように、病的な虚言者においては本人の中で 虚実の混乱、すなわち、自分の言っていることが真実か虚偽か、本人にもわからなくなっているという問題があり、話がさらに複雑になっています。

なお、
「本人の主観的な症状は、本人にしかわからない。本人に見えている・聴こえているのであれば、それは本人にとって事実であり、本人以外が事実か否かを評価することは出来ない」
という、精神科診断学の宿命的な事情を揶揄する言葉として、「うつ」は病気か甘えか。に書かれている主観至上主義があります。

(2015.1.5.)

05. 1月 2015 by Hayashi
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