【2884】精神科クリニックの6-7割は「ダメなクリニック」ではないか
Q: 【2304】統合失調症と解離性障害の鑑別についてでお世話になった精神科医(30代男性)です。その節は有難うございました。
ところで以前から精神科Q&Aを見ていて,非常に気になっていた点があります。先生はよく「精神科にかかって下さい。そうすれば楽になります」「主治医の先生によくご相談下さい」とお書きになります。それは基本的には正しい返答だと思いますが,一方で「その医師がそのような説明をしたのが事実であれば,精神科医としての基本的な知識に欠けていると思います」「唖然とします」などという言葉で,精神科医の力量の問題を批判的に指摘なさることもしばしばあるようです。
小生も決して,自分のことを優れた治療者だと自惚れるつもりはありませんし,小生の外来では改善しなかった患者が,医者の手を替えて良くなったケースも枚挙にいとまがありません。これまでの精神科医人生の中で,大きな誤診も何度かして参りました。しかしながら,現実問題として,初診の患者に10分程度の雑な診察と自己記入式の評価尺度だけで診断を下し,あとはひたすら薬を盛るだけの診療がまかり通ってしまっているのが現在の日本の精神医療の状況ではないでしょうか。その薬物についてすら,適切な使い方がなされているとは言い難いケースが,あまりに多すぎるように感じています。不遜な言い方かも知れませんが,精神科クリニックの6-7割は「ダメなクリニック」ではないかというのが,小生の実感です。
精神科Q&Aに投稿する人で,精神科未受診の方の中には,かなり追いつめられた心境の中,やっとの想いで質問をしている人も多いように思います。そうした人が,「精神科に行けば楽になる。救われる」と期待を胸に受診し,「現実の精神科はこんなものなのか」と落胆するだけならまだしも,「やっぱり自分が悪いんだ。自分が間違っているんだ」という想いを強めてしまう恐れを,時々感じながら読んでいます。
先生が「精神科にかかって下さい。そうすれば楽になります」とお書きになる時,力量あるいは治療意欲に乏しい医師に患者がかかってしまう可能性について,考えてはいるものの,飲み込んで書いておられるのでしょうか?
あまり質問としてまとまっておらず,申し訳ありません。今後のさらなるご活躍をお祈りしております。
林: 精神科Q&Aの方針の核心にかかわるご質問をありがとうございます。
先生が「精神科にかかって下さい。そうすれば楽になります」とお書きになる時,力量あるいは治療意欲に乏しい医師に患者がかかってしまう可能性について,考えてはいるものの,飲み込んで書いておられるのでしょうか?
このご質問への答えは(1)(2)の二つです。
(1) それは確率の問題です。ご指摘のとおり「可能性」はあります。しかしあらゆる可能性を見越して回答することはそもそも不可能です。
(2) 事実を答えるという、精神科Q&Aの基本方針に基づきます。この【2884】の質問者はおそらく気づいておられると思いますが、私が「精神科にかかって下さい。そうすれば楽になります」「主治医の先生によくご相談下さい」等と回答しているのは、決して無作為ではなく、質問文から予想される病名と、質問の時点での症状に基づいてのことです。これらの根拠に照らすと、精神科を受診する、あるいは主治医に相談するのが唯一ともいえる適切な対応である場合に、事実としてそのような回答をしています。
以上、精神科Q&Aの方針からすれば、むしろ(2)が(1)に位置するべきかもしれません。けれどもそれは「事実」とは何か という問いをどう考えるかにかかっています。その観点から、この【2884】への回答においては、上記(1)(2)の順番が適切と考えました。
(この一文、曖昧で多義的であることを承知で記しています。承知でそのようにしていることには理由がありますが、開示することはできません)
それはそうと、
精神科クリニックの6-7割は「ダメなクリニック」ではないかというのが,小生の実感です。
については、どのレベルをもって「ダメ」とするかにかかってくるでしょう。【2885】のように、犯罪レベルの「ダメ」なクリニックも確かに存在しますが、日本の精神科の6-7割がそのレベルということはあり得ません。では何割が「ダメ」かは、「ダメ」の閾値によると思います。
けれどもこの回答はあまりにあたり前すぎますので、閾値云々のことはとりあえず棚上げにして、私の個人的な印象をお答えしますと、現代の日本における「ダメ」な精神科クリニックは1-2割くらいではないかと思います。ここでいう「ダメ」とは、「すぐに別の医師にかえたほうがいい」と回答せざるを得ないレベルを指します。
精神科Q&Aの回答は、「ダメ」がもっと多くなっているかもしれませんが、それはそもそも精神科Q&Aにメールをいただくのは、その時点での治療でよくなっていなかったり、その時点での主治医に不満があったりする場合であることが多いという、いわば母数に起因していると考えられます。
この【2884】の質問者の印象である「6-7割」と、私の印象である「1-2割」の差が、両者の閾値の違いを反映しているのか、あるいは両者の周囲のクリニックの実際の違いを反映しているのかは不明です。
(2015.1.5.)