【2617】主治医もよくわからないと言っていますが、パーソナリティ障害なのでしょうか
Q: 私は30代女性です。先生の著書 境界性パーソナリティ障害―患者・家族を支えた実例集 を拝読した者です。パーソナリティ障害についてわかりやすく、興味深く読ませていただきました。ありがとうございました。
そこで、25歳の女性の友人について質問させてください。本の中に書かれているいくつかの診断基準に条件に当てはまれば、パーソナリティ障害の可能性が高いということですが、その「程度」というのはどれほどのものなのでしょうか。彼女の場合、ほとんど当てはまると言っていいくらい、びっくりするほど基準を満たすのですが、そのどれも、本に書かれているほどには顕著ではないのです。たとえば、見捨てられ不安はかなり強いのですが、リスカ、自殺未遂はありません。大量服薬もないです。むしろ、過去の経験からか精神薬に対する拒絶感は人一倍強く、断薬をしていたくらいです。自傷については、昔、母親に似ている自分の顔が嫌で切りつけたことがある(本人談)、ということだけのようです。不安になると過食する傾向はあります。過食で自分を虐めてしまう、という訴えが何度かありました。また、不安になると昼夜なく電話、メールはありますが、一晩に何十回ということはありません。多い日でもせいぜい五件ほどです。電話に出られなくても特に責められることもないです。ただし、電話出られなくてごめんね、辛いのに役に立てなくてごめんね、ということは、私から常に伝えていました。彼女のほうも、余裕があるときは、いつも迷惑かけてごめんね、と言ってくれていました。人間なら、誰でも余裕がなくなれば、人格障害の診断基準に書かれているような傾向はある、と言ってしまえばそうなので、よくわからないのです。
ただ、信頼していた人が少し距離をおこうとしたり、相手が自分の理想通りの対応をしないと、すぐに不信感を抱き、「裏切られた、見捨てられた、もう誰も信用できない。私は所詮独り」と絶望し、うつ状態になってしまいます。かなり以前から、彼女は極度の不眠、うつ状態で生活に支障が出ています。入院先や、施設(民間女性シェルター)でも、周りの人とまったくうまく行きません。これまで、相当数の病院をドクターショッピングをしている(「最低な医師にばかり当たる」と本人は言います)ようですが、どこの病院でも、これまではっきりと診断名を下されたことはないみたいです。本人のいないところで今の主治医に聞いたところ、「よくわからない」「統合失調症と診断する積極的な根拠がない、強いてあげれば不安障害だが、それも少し症状が違う。子供の頃から親の異常さにさらされて生きてきたから(母親が精神疾患で、弟が統合失調症とのこと)、非常に複雑」と言われました。本人曰く、今までの医師はみんな「さじを投げた」そうです。今の主治医は優しくて話を聞いてくれるので少しは信頼しているようなのですが、時々「傷つけられた」と言うこともあります。ただ、医師に対してすべてを素直に話しているわけではなく、どこか、医師をコントロールしようとする傾向が感じられるときがあります。たとえば内科や別の科を受けようとするとき、「そういうことを話したら、精神科に回されちゃうから言わない」と、計算して症状を話している様子があります。誰でもそういう傾向はあるのかもしれませんが…
これまでの経緯と、彼女の訴えている症状・特徴を詳しく説明させてください。手がかりが多いほうがいいかと思いましたので、余計なことも書いてあるかもしれません。長くなってしまいますが、どうかご容赦ください。
<これまでの経緯>私が彼女とはじめて会ったのは、一昨年の夏、知り合いの出版社が主催する文芸合宿でした。彼女は現代詩を書くので、そこに友人もなく独りで来ていて、私たちのグループに声をかけてきました。今から考えると精神薬のせいだと思うのですが、どこかぼんやりした印象でした。私たちは五名くらいのグループでしたが、一番年が近かったせいか、特に私に親しみを持ったようでした。彼女について一番びっくりしたのは、女性だけの部屋で、突然、自分は親から虐待を受けてきて、今は一人暮らしをしていて、恋人を亡くして…というような劇的な人生を語り出したときでした。その場にいたみんなが引いてしまい、後で他の人に聞いたところ、「矛盾してるところもあるし、この子嘘言ってるんじゃないの、」と思った、という人もいました。それから、被害妄想っぽい傾向がありました。たとえば、合宿で出会った人について、「朝二人でいたときに、酷いこと言われた」「目が合うとにたぁって笑って、怖い」と訴えてきました。それから、普段、一緒に街を歩いていても、「今の人笑ってたよね。何で笑われたんだろ、気になるな…」と言ったり、彼女が体調を崩して救急車で運ばれたとき(今年の九月)も、後から、「救急隊員の人、みんな笑いを堪えてた」と傷ついていました。私は付き添いで救急車に乗っていたのですが、そのとき、不安と心配でボロボロ泣いていたのに、そういう状況で救急隊員が笑うのは普通あり得ないし、私には少なくとも笑っていたとは思えませんでした。また、窓口や店員の対応や、医師の対応が酷くて傷ついた、と訴えることもしょっちゅうですが、私が同行するとそんな場面には出会いません。
話を戻します。合宿後はそれほど頻繁でもなくたまにメールをする程度だったのですが、今から8ヶ月ほど前になって、初めて生活の相談を受けました。内容は、「1年くらい前から生活保護を受けてるけど、生活費が全然足りない」。「福祉役員は相手にしてくれない」、「窓口の対応は酷い」、「親しい人もいなくて、他に頼れる人がいない」。「どうしたらいいのかわからない」。「このままだと、ネットで知り合った男性の家に転がり込むとかそういうことになりそう」。というので、とりあえず、私が一緒に住むことは出来ないけれど、経済的なことなら援助できるから、と、お金をいくらか貸しました。彼女はそのとき、「そういうつもりで言ったんじゃないけど、本当に余裕がないから、助かる」と言って受け取りました。それからも、また生活費が足りなくなった、と言われ、何度かお金を貸しました。ただ、彼女の方から「貸して」と言われたことはありません。「どうしたらいいのかわからない」という言い方をします。やがて、「身体が動かない」「お風呂にも入れない、歯磨きもできない」「食事も作れない、買い物にもいけない」と訴えて来たので、ほっておくわけにも行かないので、彼女の家に行って買い物などの生活のサポートをすることが多くなりました。私がそばに居ると少しは眠れるようで、話を聞いたりしているとだんだん元気になりました。しかし、日に日に症状が酷くなり、入院を勧めたのですが、入院は過去のトラウマがあるから嫌だし、薬漬けにされると言って聞かず、福祉事務所にも、「友達が援助してくれているのがわかったら保護費を止められるかもしれない」「福祉役員は酷い対応で怠慢だし、逆ギレされたこともあるから、相談しても意味がない」というので、私も、仕事帰りに彼女の家まで行くなどして、生活サポートを続けました。 しかし、それからまもなくして精神薬の断薬をはじめてから、ますます症状は酷くなり、車の音がしただけで「親が来たかも」と怯え、親族が彼女の様子を戸外からうかがいに来ているのではないかと恐怖し、あるときは、「誰かが雨戸をたたいてる。幻聴じゃないのは確か」と言って、恐怖と不安で眠れず、親に知られているこの家が怖い、ここから出たい、と泣きながら訴えたので、とにかく親の来ない安全なところに行けばよくなるかもしれないと思い、私が借りたマンスリーマンションに一時的に避難しました。そのときも一緒に住むことはせず、私は近くの実家から仕事帰りに通いました。一時は眠れるようにもなり、落ち着いてよくなったかに見えたのですが、ある日、私が地方に行く用事があり、丸一日そばに居られない日があったとき、食事を何も口にせず、救急車で運ばれるという事態になりました。その後もずっと体調が戻らず、再度救急車で運ばれるに至って、ようやく本人も入院を了解し、渋々という感じではありますが、家に近い病院に入院しました。ところが、入院したらしたで、「患者同士で派閥が出来ていて自分だけが浮いている」「まともなのになんで居るの?というような白い目で見られている」「体調が悪いのに、看護師はまったく対応してくれない」「医師は話をまったく聞いてくれない」「いちいち癇にさわる医師」「『あの先生の患者は、みんな薬漬けにされる』と他の患者や病院関係者も言っている」と訴え、「家に帰るほうがまし」と言い出して、結局、1ヶ月の予定を、二週間で自分から退院してしまいました。それほど酷い病院なのかと思えば、別の機会には、「他の患者には悪い人はいない」というし、病院内に話し相手になってくれる友達とよく外出して、何回かカラオケにも行ったとのことで、どうも矛盾を感じてしまいました。退院後は、親が住所を知っているあの家に戻ればまたうつ状態になると思い、暴力被害者のための女性シェルター(民間)に入りました。それも本人の意思ではなく、私ともう一人の共通の友人で判断して「入れた」、というのが正しい言い方です。本人はほとんど判断力がなく、私にすべてを依存しているような状態でした。「二人に迷惑をかけるくらいなら、シェルターも仕方ない」というような感じでした。そのときは、まずは親の来ない安全な場所で体調を治して、引越しなどの準備をする、という方向で考えていました。入所してから数日後、本人から留守電が入っていました。施設に内緒で公衆電話からかけたようでした。内容は、「同室の人によくないことをされている、担当のスタッフに話したけど取り合ってもらえなかった」、というものです。その後しばらくして、また本人から訴えで、「シェルターはろくな処じゃない、自己喪失でまた死にたくなった」「職員は冷淡で怖い、厭がらせが半端じゃない、虐めもある、仕事しない」「他の利用者も、『もうこれ以上は居たくない』、『シェルターはどこも支配的で人権がなくてヒト扱いされない』と言っている」「担当の○○さんを見ると寒気がして部屋で吐くようになった」「云い過ぎじゃない、二次被害だ」と訴え、今回も、「家に帰るほうがまし」と言い出しました。 共通の友人のMさんという男性がいますが、彼にも同じ内容で電話が来ていて、私個人としては、大いに疑念を抱いてしまいました。というのも、病院のときに訴えていたことと、まったくパターンが同じなのです。最初は「同室の人とうまくいっていない」「スタッフが何も対応してくれない」に始まり、次に、組織全体の批判となります。「ほかのヒトもそう言っている」と強調するところまで、そっくりです。担当の方を見ると吐き気がする、というのも、入院中に、医師の顔を見ると吐き気がする、と言っていたのと同じです。しかも、第三者からは確認のしようがない(本人にしかわからない、先方に直接聞いたところで、そんなことはありません、って言われるに決まっている)事柄に限って、そういうことが起きていますので、あまりにも不自然、としか思えませんでした。病気の症状として、あるいはうつ状態で、そういう風に話を作ってしまうということはあるのでしょうか。直接話を聞いた友人Mは、「電話口の彼女は至って冷静で、嘘を言っているようには思えなかった」。「当初は、(自分が悪いんじゃないか?)って責めて、おかしくなりかけたけど、最近ようやく他の利用者と話して、やっぱり酷い」と聞いて、完全に信じてしまっていました。どんないじめなのか、本人は内容をはっきりと明記しません。「疲れているのに早足で歩かれた」とか、「メールを打つときに馬鹿にしたような態度をとられた」など、曖昧なものばかりでした。結局、彼女にとっては、常に「今」が最悪で、魔法のような解決法や、「誰もが自分に優しくしてくれて、大切にしてくれる」夢のような場所を求めているようで、あの手この手を使って、「とにかく不安だから(=理想と違うから)」あるいは、私に引き取って欲しい(私と一緒に暮らしたい)から、後先考えずに、出たがっているとしか思えませんでした。本人は私を慕い、頼り、私の指示を待っているような状態なので、私もどうしたらいいのかわからず、とりあえず、「今の状況で家に帰るのは賛成できない」と返事したところ、「ここにいて何になるの」「こういう状態になるまで放置してたの?」と、私に対して不信感を募らせ、ついには「会いたくない」と言われてしまいました。私もその頃になると精神的負担が増大していたので、友人Mが「今は頼られるのがつらい」とフォローしてくれたところ、「傷つくからもういいです。もう誰も信じられない、結局私は独りです」と自分の殻に閉じこもってしまいました。
今も彼女からメールは来ますが、相当な人間不信に陥っていて、私に対してではないですが、周りの人(特にシェルター関係者)を罵倒するような文面も見られました(最低だ、みんなシネ、などの言葉もありました。私が知る限り、初めてでした)。
<彼女の特徴・彼女が訴えていること>
① 彼女の家族について
彼女の家族は、先述したように、弟(年子)は統合失調症で、母親は精神疾患(?)と聞きました。本人の話では、幼い頃から「親の異常さには気づいていた」といいます。親が嫌で、12歳の時に「狂言自殺」をして、精神病院に措置入院させられ(親元から離れたくて、自分から入った、と私は聞きましたが、友人には違う説明をしていたようです)、103種類(130種類、とも)以上もの薬を処方されて飲まされていた(後にその医師は「病院内でも問題になった」という)そうです。13~19歳まで入退院を繰り返していたとも聞きました。すべて本人から聞いた話です。それで、精神薬の副作用も酷かったというので、5ヶ月前から、精神科医との協議の上で、漢方薬のみの断薬治療を始めました。というのも、精神科(前の主治医)で不眠や体の不調を訴えたところ、神経疾患の恐れがあるので、このままでは精神薬が原因で(間接的に)死ぬかも知れないと言われたそうです。(その後別の病院で検査してもらい、神経疾患についてはその兆候はないと言われました)本人は、身体の不調は、「昔の主治医が誤診して精神薬を処方したからだ」といいます。このときから、精神薬は切る方向でいく、という方向になったようです。また、医師には、「思春期の悩みを精神薬で抑制し、取り返しのつかないことをしている」「精神薬を飲むのは親なのに、病気でないのに精神薬を飲んだのでは」といわれたそうです。また、他の主治医にも何度か、「あなたには薬は必要なのか?」と訊かれたとのことで、とにかく、元はまともだったのに、両親と精神科医のせいで今のような状態にされた、というのが彼女の主張です。このように、まともな人間が誤診された精神薬を大量に処方されて飲んだせいで、身体がおかしくなったり、病気のような症状が出てしまうということはあるのでしょうか?彼女の場合、不眠は四年前からで、「身体が動かず生活に支障が出ている状態」は、私が知る限り半年以上続いています。精神薬を絶って二週間以上経っても、治まらないどころか酷くなりました。今の主治医の先生(漢方薬の先生)は、断薬治療で一番辛いのは二週間目で、その後出ている症状は薬のせいではなく、彼女が本来持っている症状、という風に言われました。生活に支障が出ている以上、多少はまた精神薬を入れた方がいいと今の主治医の先生は言っているのですが、彼女は薬漬けになることを極端に恐れています。
②彼女の話
彼女の過去を知る人に私は出会ったことがないので、事実かどうかはわかりません。事実だとしたら、かなりドラマティックな人生です。彼女の両親からの虐待や酷い話は書き出すとキリがないのでやめますが、両親の虐待以外にも、「入院中に同じ患者である友人が自殺しショックを受けた」「男装して出かけていた時期がある」「男の人に襲われたことがある、女の人にも襲われたことがある」「信じていた人に裏切られた」「結婚まで考えていた人を亡くした」「昔、憑依されたことがある」と、誰もが人生に一度経験するかしないかのような出来事をたくさん経験しています。しかし、証拠は何もなくて、たとえば、以前両親に内緒で勤めていた会社を、父親が興信所などを使って突き止め、怪文書などの嫌がらせを行った、と言っているのですが、昔の会社の人に証人になってもらえないのかと聞いてみたところ、「その頃の人とは誰とも連絡とれない」「その会社自体、もうないかもしれない」と言ったりします。非常に曖昧なことが多いですが、被害妄想や作り話にしては、細部までしっかりしています。病気の症状や精神薬のせいで、自分の過去も作ってしまうというケースはあるのでしょうか? 彼女の主張の多くは、「人生の中でいいことがなかった」「楽しかった記憶がひとつもない」「裏切られてばかり」「出会う人すべてが当たり前のように自分を傷つける」というものです。
●性格について
本人の話では、昔はすごく明るくて、病院やグループホームでも人気者だった、とのことです。最近になって、根暗になってしまった自分を気にしているようです。また、自分に自信はないみたいです。褒めるととても喜びます。あと、構ってもらえない不満は大きいようです。一時期一緒に暮らしていた元彼についてや、友人について、「体調の悪い私を置いて仕事に行く」「体調悪いのに夜勤明けだからと言って隣でぐうぐう寝てる」「私がいるのに赤ちゃんのことばかり」と愚痴をこぼしていたこともありました。あとは、几帳面で真面目なところがあり、ルールはちゃんと守ってくれます。それから、不安解消のためか、ネットや携帯電話は必須で、占いが大好きです。また、お洒落にはかなりこだわります。特に化粧品についてはかなりのこだわりで、マンスリーマンションにいたときも、一時的に住むだけなのに、そんなに必要なの?と思うほど、化粧品の注文(あれを持ってきてほしい、これを持ってきてほしい、と指示)が多かったです。母親のように醜くなりたくないから、という気持ちがあるようです。
●対人関係について
親密な人はおらず、ネット仲間はたくさんいるようです。共通の友人M(男性)は私が話し相手にと紹介したのですが、Mとはまったくうまく行かず、「Mさんと話すと不安定になる」と言い、私とだけ会いたがります。ただ、一方で、生活保護になってから愛猫を里親さんに預けているのですが、その人は竹を割ったような性格の女性で、物事をストレートに言う人で、時には手厳しいことも言う人のようです。「具合が悪いときは傷つくから自分からは連絡しない」とは言いますが、そういう人ともちゃんと付き合いは続けています。 林先生の著書の中で、うつ病とパーソナリティ障害の違いのくだりで、うつ病は自分のせいにする、パーソナリティ障害は主に他人のせいにする、とあったのが印象的でした。彼女の場合、「自責ばかり」「自分を虐めてしまう」といいます。しかしその一方で、「親のせい」「誰も信じられる人がいない」「人の厭なところばかり見てきた」「裏切られて見捨てられてばかり」と、人のせいにもします。 あとは、他人に対して、困ってるから助けて欲しい、助けてもらえないのなら、今は付き合ってる余裕がない、と考える傾向があるように思います。罵倒はほとんどしません(少なくとも、私は見たことがありません)、ただ、思っていても我慢する傾向があるように思います。たとえば、入院中、医師に対して、「この人、本当に人間のクズだ」とずっと思っていたと後で打ち明けられました。医師に会うたびに、「クズが!」と吐き捨てたくなったと言います。しかし口には出さず、見限るというか、自分から離れていきます。ここでお聞きしたいのですが、言いたいのに我慢するということは、自分をコントロールできているということだから、パーソナリティー障害ではないということなのでしょうか? ただ、自分から離れたという過去の一例を聞いたとき、「あり得ないくらい、あまりにも非常識な人だったから」と悪く言う傾向はあります。事実はわかりません。自分が欲しい答えをもらえないと急変し、不安定になったり不信感を持ったりすることは多いようです。ネットで知り合った男性によると、「彼女が答えて欲しい内容にうまく答えられないと、電話口で急変したことが数回あった」とのことです。本人は、「余裕がない」「今は少しのショックも耐えられないから」、合わない人とは話したくない、会いたくない、ということが多いです。
●評価の極端さについて
すごく私を理想化していました。うらやましい、大好きだし、すごく尊敬してる、私がいるから、何とか生きていられる。私がいるから、優しい気持ちがまだ持てる、と言われたこともあります。しかし今は、私の対応が拙かったせいもありますが、「不信感」に変わってしまいました。面と向かって悪く言われたことはありません(遠まわしな嫌味はあります)が、私のことを理解できない、というのが一番大きいようです。
● 自殺願望について
自殺願望はほとんどありません。ただ、「死にたくなりました」と訴えてきたことは二回ほどありました。私が地方に終日出かけていたときと、シェルターに入ったとき…いずれも、私と離れたときです。ただ、実際に自殺未遂したことはありません。普段は、「死にたいとは思わない」、「こんな状況で、我ながらよく死にたくならないな」と思う、と自分でいうこともあります。
● 彼女が訴えている症状
メールで私に訴えてきた症状はほとんど記録を残していますが、主に「不眠」「孤独感」「恐怖感」「不安感」「身体がいうことをきかない」「記憶が飛ぶ」などで、他にも以下のようなことがあります。疲労、現実味のない生活、気が休まらない、自分がどんどん醜くなる、こわい、自分が解らない、頭がぐらぐらする、自分は元気じゃない、周りは自分を大丈夫だと思っている、消えたい、いろんな不調が出てくる、誰にも気を遣う、自分がつかめないまま空っぽに生きてる、人と接したいけど接し方がわからない、辛いし苦しいし死にたくないけど、死ぬほうが楽だとも感じる、怖くて休まらなくて呼吸器や胸が苦しい、声が出ない、パニックになると誰も信用できなくなる、人とどう接したらいいのかわからず呼吸困難になる、拒食か過食で自分を虐めてしまう、パニックじゃない時が無い、今日何が在ったかよく覚えていない、苛々して自分を責める、人が怖くて実際接して殺意を感じる、喜びは無く、負の感覚だけ、具合良いのは一日で一時間在れば良い方、自信が最低限も無い、自責も癖、対人は親、元彼だけでなく、十二年間、医者とも最悪で、散々ででも非力で泣き寝入りで、睡魔と混乱と悲しさで想う様に泣けない、狂いそう、怖いものだらけで誰かに縋りたくても誰も居ない、うまく話せない、異次元にいるみたい などです。
長くなって申し訳ありません。彼女はパーソナリティ障害なのでしょうか? それとも何か他の病気なのでしょうか? 本当にパーソナリティー障害なら、いままでやって来たこと(マンションやシェルターなど、あちこちに避難させたこと)はまったく逆効果だし、引っ越しもかえって悪化させるのではないかと思い、不安です。彼女には正しい治療を受けて、完治は無理にしても、自分なりの幸せを見つけてほしいと思っています。先生のご意見をお聞かせいただければ幸いです。 乱文失礼しました。どうぞよろしくお願いいたします。
林: 最も可能性が高いのは、境界性パーソナリティ障害です。そして虚言を伴っています。この判断根拠を記していくとかなり長文になりそうですのでそれは避け、質問文の中から、順に(重要な順ではなく、書かれている順に)いくつかを取り出してそれぞれに対して回答していきたいと思います。
彼女の場合、ほとんど当てはまると言っていいくらい、びっくりするほど基準を満たすのですが、そのどれも、本に書かれているほどには顕著ではないのです。
基準を満たすか満たさないかの判定は、精神科医など精神医学の専門家にのみ可能で、一般の方による判定は目安にすぎません。顕著かどうかも、一般の方が判定するのは無理です。もちろんだからといって質問者の判定が無意味ということにはなりません。「びっくりするほど満たす」かどうかはともかく、ある程度までは満たすことは間違いないでしょう。それは、質問文全体からの情報からも読み取れます。
たとえば、見捨てられ不安はかなり強いのですが、リスカ、自殺未遂はありません。大量服薬もないです。
「リスカ、自殺未遂はありません」、それは質問者にわかることではありません。「大量服薬もないです」、それも質問者にわかることではありません。質問者の知る限りではないということにすぎません。
人間なら、誰でも余裕がなくなれば、人格障害の診断基準に書かれているような傾向はある、と言ってしまえばそうなので、
それはその通りです。ですから精神医学の専門家以外の人が診断基準といくら照合しても、診断には至りません。
かなり以前から、彼女は極度の不眠、うつ状態で生活に支障が出ています。
これはかなり信用できる情報と思われますので、上記、診断基準に適合すると思われる面があることとあわせると、パーソナリティ障害(人格障害)の可能性は高まります。「誰でも余裕がなくなれば、人格障害の診断基準に書かれているような傾向はある」、それはその通りですが、その結果として日常生活等に何らかの問題が生じていれば、パーソナリティ障害の可能性は一気に高まるのです。
本人のいないところで今の主治医に聞いたところ、「よくわからない」「統合失調症と診断する積極的な根拠がない、強いてあげれば不安障害だが、それも少し症状が違う。子供の頃から親の異常さにさらされて生きてきたから(母親が精神疾患で、弟が統合失調症とのこと)、非常に複雑」と言われました。
統合失調症の家族歴があるというのは重要な情報です。この女性にみられるパーソナリティ障害の傾向は、もっと精密にみれば、統合失調症の診断を支持する症状ということになるかもしれないという目を持って見直す必要があります。
けれども、後にも指摘しますが、そもそも母と弟が精神疾患であるという情報は信頼できるのでしょうか。これも虚言ということになると、話は大きく変わってきます。
私が一緒に住むことは出来ないけれど、経済的なことなら援助できるから、と、お金をいくらか貸しました。彼女はそのとき、「そういうつもりで言ったんじゃないけど、本当に余裕がないから、助かる」と言って受け取りました。それからも、また生活費が足りなくなった、と言われ、何度かお金を貸しました。ただ、彼女の方から「貸して」と言われたことはありません。「どうしたらいいのかわからない」という言い方をします。やがて、「身体が動かない」「お風呂にも入れない、歯磨きもできない」「食事も作れない、買い物にもいけない」と訴えて来たので、ほっておくわけにも行かないので、彼女の家に行って買い物などの生活のサポートをすることが多くなりました。私がそばに居ると少しは眠れるようで、話を聞いたりしているとだんだん元気になりました。
このような質問者の行動は、賞賛こそされ、批判される性質のものではありませんが、お助けおじさん 的な行動になっているのではないかと、落ち着いて振り返る必要があります。(お助けおじさん については、 【0735】境界型人格障害と思しき人との金銭トラブル、 【1113】一人の女性のために職場が崩壊しそうです などをご参照ください。
それからまもなくして精神薬の断薬をはじめてから、ますます症状は酷くなり、車の音がしただけで「親が来たかも」と怯え、親族が彼女の様子を戸外からうかがいに来ているのではないかと恐怖し、あるときは、「誰かが雨戸をたたいてる。幻聴じゃないのは確か」と言って、恐怖と不安で眠れず、親に知られているこの家が怖い、ここから出たい、と泣きながら訴えたので、
ここだけを見ると、服薬中断による統合失調症の再発のようにも見えますが、全体像からみればパーソナリティ障害で、一過性に精神病症状が出ていると解釈すべきでしょう。
共通の友人のMさんという男性がいますが、彼にも同じ内容で電話が来ていて、私個人としては、大いに疑念を抱いてしまいました。というのも、病院のときに訴えていたことと、まったくパターンが同じなのです。
虚言の疑い濃厚です。
しかも、第三者からは確認のしようがない(本人にしかわからない、先方に直接聞いたところで、そんなことはありません、って言われるに決まっている)事柄に限って、そういうことが起きていますので、あまりにも不自然、としか思えませんでした。病気の症状として、あるいはうつ状態で、そういう風に話を作ってしまうということはあるのでしょうか。
パーソナリティ障害の一部には、かなりの虚言を伴う場合があります。
直接話を聞いた友人Mは、「電話口の彼女は至って冷静で、嘘を言っているようには思えなかった」。「当初は、(自分が悪いんじゃないか?)って責めて、おかしくなりかけたけど、最近ようやく他の利用者と話して、やっぱり酷い」と聞いて、完全に信じてしまっていました。
多くの人はこのように虚言に完全にだまされます。(もちろん、虚言だと仮定した場合です。この女性の話が虚言であるという絶対的な根拠はありません。しかし虚言の疑いは濃厚でしょう。そして虚言とは、その多くが、「絶対に虚言だ」とは言えない場合がほとんどです)
<彼女の特徴・彼女が訴えていること>
① 彼女の家族について
彼女の家族は、先述したように、弟(年子)は統合失調症で、母親は精神疾患(?)と聞きました。本人の話では、幼い頃から「親の異常さには気づいていた」といいます。
これがすでに虚言であるという可能性をよく検討する必要があります。
元はまともだったのに、両親と精神科医のせいで今のような状態にされた、というのが彼女の主張です。
パーソナリティ障害の人に非常によくある主張です。
しかし統合失調症の妄想でも、このような主張が出てくる場合もあります。
彼女の場合、不眠は四年前からで、「身体が動かず生活に支障が出ている状態」は、私が知る限り半年以上続いています。
これも「私が知る限り」であることの重みをよく認識される必要があります。質問者がだまされていないという保証はどこにもありません。
両親の虐待以外にも、「入院中に同じ患者である友人が自殺しショックを受けた」「男装して出かけていた時期がある」「男の人に襲われたことがある、女の人にも襲われたことがある」「信じていた人に裏切られた」「結婚まで考えていた人を亡くした」「昔、憑依されたことがある」と、誰もが人生に一度経験するかしないかのような出来事をたくさん経験しています。
虚言であることはほとんど間違いないでしょう。
被害妄想や作り話にしては、細部までしっかりしています。
それがまさに虚言(虚言による作り話)の特徴です。
統合失調症や妄想性障害の被害妄想でも、細部までしっかりしていることはあり得ます。しかし、統合失調症や妄想性障害では、ごく一部の例外を除き、やはり妄想らしい不合理さが見られるものですので、この【2617】では、他の症状ともあわせ、虚言であるとみるべきでしょう。
病気の症状や精神薬のせいで、自分の過去も作ってしまうというケースはあるのでしょうか?
薬によるということはあり得ません。「病気の症状」の「病気」という言葉を質問者がどういう意味で使っておられるか不明ですが、病的な虚言ではこのようなことは十分にあるといえます。
彼女の主張の多くは、「人生の中でいいことがなかった」「楽しかった記憶がひとつもない」「裏切られてばかり」「出会う人すべてが当たり前のように自分を傷つける」というものです。
他の言動とあわせ、パーソナリティ障害らしい主張であるといえます。
彼女の場合、「自責ばかり」「自分を虐めてしまう」といいます。しかしその一方で、「親のせい」「誰も信じられる人がいない」「人の厭なところばかり見てきた」「裏切られて見捨てられてばかり」と、人のせいにもします。
この女性の特徴は他責(他人を責める)であるといえます。パーソナリティ障害(境界性パーソナリティ障害)らしい傾向です。この女性ではしかし、自責もあるとのことですが、そもそもそれが口先だけでない本当の自責といえるかは疑わしいです。また、仮に本当の自責であったとしても、中心としては他責があり、その中に自責の傾向が一部見られても、境界性パーソナリティ障害として矛盾はありません。この場合の自責は、必ずしも演技ではなく、自殺につながることもあります。
ここでお聞きしたいのですが、言いたいのに我慢するということは、自分をコントロールできているということだから、パーソナリティー障害ではないということなのでしょうか?
パーソナリティ障害であっても、自分をコントロールすることが100%できないなどということはありません。
自殺願望はほとんどありません。
そんなことは質問者にわかるはずがありません。
メールで私に訴えてきた症状はほとんど記録を残していますが、主に「不眠」「孤独感」「恐怖感」「不安感」「身体がいうことをきかない」「記憶が飛ぶ」などで、他にも以下のような・・・
列記されている症状は、境界性パーソナリティ障害の症状として矛盾はありません。
本当にパーソナリティー障害なら、いままでやって来たこと(マンションやシェルターなど、あちこちに避難させたこと)はまったく逆効果だし、引っ越しもかえって悪化させるのではないかと思い、不安です。
「逆効果」「かえって悪化させる」、そこまでは言えません。
(2014.4.5.)