【2618】私は小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます
Q: 30歳の主婦です。結婚してから8年、子供はいません。夫婦仲は円満です。
10代の頃、うつ病とパニック障害になり、摂食障害も併発し、20~23歳頃までは入退院を繰り返していました。
また、23歳頃にてんかんを発症し、今でも治療を続けております。
うつやパニック障害の方は結婚を機に徐々に良くなり、今はストレスがたまった時に、病的ではない程度(と思っています)の気分の落ち込みややけ食いなどがある程度です。
今日ご相談したいのは、上記と関係あるのかないのかがわからないのですが、私の虚言癖?と依存症についてです。
小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます。
しかも、保身とか虚栄とかそういうあからさまなものではなく、本当に日常のささいなことから、大きなことまで。嘘をついて隠すようなことがない場面でもついてしまいます。
例えば夫に「今日の食事は何?」と聞かれて「もう○○を作ってる」という程度のささいなものです。
が、一回嘘をついてしまうと、その嘘がばれないようにしなきゃ、とあせり、嘘に嘘を重ねてしまいます。
以前は始まりは小さなことだったのに(夫にそろそろバイトを探したら?と言われたこと)、仕事が見つかったと嘘をつき、更にそれがばれるのが怖く、サラ金から借金をして給料をもらったように見せかけてしまったこともあります。
他にも数えきれないくらいのどうでも良いような嘘ばかりついてしまいます。
やめよう、やめよう、と思うのに、癖というか、無意識的に気付いたら嘘をついている、という感じで、嘘をついている瞬間はそれが嘘だという自覚もあまりありません。
とても苦しいです。自覚なくやってしまって、上塗りをしなくちゃいけない状態がとても苦しいです。
本当の自分がいったいどういう人間なのかわからなくなっています。
ネットや本を読んでみて、ミュンヒハウゼン症候群にも似ているようだと思いましたが、人に構われたいというより、何も目的がないのに嘘をつき続けている気がしてなりません。
依存症気味の傾向もあり、結婚前はサラ金からの借金を重ねて買い物をしていました。
今はセックス依存(というのでしょうか)の傾向があります。
セックスが好きなわけではないのに(むしろしたくない)、しないといけないような気分になり、出会い系サイトで相手を探してセックスする、ということをしてしまいます。終わったあとは罪悪感だけが募り、とても苦しいですが、会うまでの状態は、どっちかというと夢の中にいるような、すごくふわふわした感じです。
昔サラ金で借金をして買い物していた時も同じ感覚でした。
やめなくちゃいけないと思って、家事などを一日いっぱいやり続けると、多少はおさまります。
最近は一日数時間出会い系サイトを使ってメールをやり取りして、具体的に会う日まで決めてから、そういう自分が嫌になって、家事に没頭する、という毎日です。
夜もほとんど寝れません。
虚言と、セックス依存と、もしかしたら人格障害なのではないかと疑っております。
これは病的なことなのでしょうか。医師にかかった方が良いのでしょうか。
長くなって申し訳ありません。ぜひご見解を頂ければと思います。
林: 虚言について検討する前に、これまでつけられた診断について見直す必要があります。
10代の頃、うつ病とパニック障害になり、摂食障害も併発し、20~23歳頃までは入退院を繰り返していました。
また、23歳頃にてんかんを発症し、今でも治療を続けております。
とのこと、つまり「うつ病」「パニック障害」「摂食障害」「てんかん」と、ここまでで4つの診断名が出てきていますが、この4つが本当に併発していたというのはかなり考えにくいことです。何らかのコアとなる病名があるとみるべきでしょう。少なくとも、それ(何らかのコアとなる病名がある)をまずは仮定し、その病名によってこれまでの症状のすべてが説明できないかどうかを検討し、どうしても説明できない場合に、第二、第三の病名の検討に入るべきです。
つまり、この質問者の背景は、よくわからないということです。
それをとりあえず棚上げにして(本当は棚上げにしたら話が進まないのですが、あくまでとりあえず)、現在の問題、すなわち、虚言とセックス依存(と思われる状態)に目を向けてみますと、まず虚言については、虚言が目立つケースの一つの典型的なタイプです。
保身とか虚栄とかそういうあからさまなものではなく、本当に日常のささいなことから、大きなことまで。嘘をついて隠すようなことがない場面でもついてしまいます。
とのこと、これはすなわち、演技性パーソナリティ障害や反社会性パーソナリティ障害に伴う虚言とは異なり、いわば「純粋な」虚言症であるとみることができます。
嘘をついている瞬間はそれが嘘だという自覚もあまりありません。
何も目的がないのに嘘をつき続けている気がしてなりません。
というのも、この種の虚言症の特徴の一つです。
そして、(本人の言うところの)セックス依存ですが、
会うまでの状態は、どっちかというと夢の中にいるような、すごくふわふわした感じです。
昔サラ金で借金をして買い物していた時も同じ感覚でした。
ということとあわせると、衝動制御障害の一型の色彩がある症状であるということができます。
「一型の色彩がある症状」「虚言が目立つケースの一つの典型的なタイプ」など、わかったようなわからないような、曖昧な説明で申し訳ないのですが、この領域は、精神医学の中で、研究が遅れている分野であることが(少なくとも私はそう認識しています)、この曖昧さの背景にあります。
虚言と、セックス依存と、もしかしたら人格障害なのではないかと疑っております。
おそらくパーソナリティ障害(人格障害)の一型(また「一型」で申し訳ないですが)という診断になると思います。
これは病的なことなのでしょうか。
病的なレベルです。
医師にかかった方が良いのでしょうか。
はい。しかし、上記の通り、精神医学の中で研究が遅れている分野であるため、精神科で治療を受けても著明な改善は期待しにくいと思います。
衝動制御の障害は、依存症と共通点があります。依存症について、精神医学で最も長い歴史があるのはアルコール依存症の治療で、試行錯誤の繰り返しの結果、集団療法、認知行動療法に有効性が認められています。窃盗癖についても、ごく一部の施設でしか専門治療は行われていないものの、アルコール依存症の治療とかなり共通点がある治療法の有効性が認められています。すると、現代においては、このタイプの治療法が最善ということになると思われますが、現代の保険医療制度のもとで、虚言癖に対してまでこれを行うのは不可能に近いといえます。そうしますと、個人の医者での精神療法が唯一の現実的な可能性ということになりますが、優れた精神療法家を探すのは困難です。見つけられるとしても、都市部に限られるでしょう。これは決して地方を軽蔑して言っているのではなく、精神療法は都市部でなければ職業として成り立たないからです。
(2014.4.5.)