【4996】統合失調症で通院・服薬を続けていなくてよくなるケースとは?
Q: 質問者も質問対象(Aさん)も20代後半の女性です。
Aさんは大学時代の友人で、卒業以来しばらく会っていませんでした。
しかし、最近再会したところ、2~3年前に統合失調症を発症し緊急入院していたと聞きました。
Aさんから聞くところでは以下のような経緯だそうです。
①新卒で入社した会社が合わず、ストレスが蓄積する
②眠れない、食欲がわかない症状に悩まされ始める
③眠れず一晩中考え事をしていると突然、自分は神のような存在だと気づく
④仕事を休んでハイテンションで延々と妄想をする
⑤自分は命を狙われていると気づき、夜中にパニックで外に飛び出し助けを求める。警察に保護されたあと暴れて強制的に精神科に入院となる
⑥統合失調症と診断され、一か月程度で退院となる
⑦半年くらい通院していたが、医師から「寛解したのでもう通院しなくていい」と言われる。薬も出ていない。
⑧医師から「ストレスがかからない生活を心がけて」とも言われたので、短時間だけ働く生活を続けている。しかし最近やりたいことができたのでフルタイムに復帰しようか悩んでいる。
③から⑤までが数日の間に起きたそうです。
無事回復してよかったなと思ったのですが、⑦を聞いて本当にそんなことがあるのか疑問に思いました。
これまで統合失調症は基本的に一生服薬しなければ再発するリスクがあると思っていたのですが、そうとは限らないのでしょうか。
Aさんは人から言われたことは必ず守る生真面目な人ですが、医師の方の発言を都合よく解釈しているだけ、独断で通院をやめているだけという可能性もあるとは思います。
しかしもし本当に、統合失調症なのに通院も服薬も不要になるケースがあるとしたら、どのようなケースなのでしょうか。Aさんはそのケースに当てはまるのでしょうか?
林:
これまで統合失調症は基本的に一生服薬しなければ再発するリスクがあると思っていた
それはその通りです。統合失調症は基本的に一生服薬しなければ再発するリスクがあります。
しかしながらその一方で、統合失調症にかなり類似した、あるいは事実上区別がつかないほどそっくりな精神症状を一過性に呈し、それが治った後、服薬しなくても再発しないケースが存在します。そうしたケースは現代の診断基準では急性一過性精神病性障害と診断されることになります。
但し、本当に再発しないかどうかは、一生にわたって確認しなければわかりません。したがって、急性一過性精神病性障害と診断されたからといって、再発しないとは限りません。この問題については、【4758】急性一過性精神病性障害は再発しますか の回答に記してあります。
この問題の根底には、現代の精神科診断の実態・限界があります。それは、精神科の多くの病気について、その病気を形成する脳内のメカニズムが不明であるという事実です。脳内のメカニズムが不明である以上、個々のケースについて、どのような経過をたどるかを確実に予想することは不可能です。可能なのは、同様の症状を呈する多くのケースの統計的事実に基づいて、そのケースもその統計的事実にそった経過をたどるであろうという予想までです。
その意味では、統合失調症の症状を呈し、それが薬物療法によって改善したとき、その改善がたとえ症状の完全な消失であっても、服薬を中断すれば再発する可能性が十分に高いと考えるのが当然です。
したがって、
⑦半年くらい通院していたが、医師から「寛解したのでもう通院しなくていい」と言われる。薬も出ていない。
それは精神医学的に非常識な方針です。
但し、質問者が指摘されているように、
Aさんは人から言われたことは必ず守る生真面目な人ですが、医師の方の発言を都合よく解釈しているだけ、独断で通院をやめているだけという可能性もあるとは思います。
その可能性も十分にあるでしょう。統合失調症の方には、実際には主治医から服薬を続けるよう指示されているのに、周囲の人には、「主治医が薬をやめていいと言った」と述べて、薬を飲まないことを正当化するケースが相当数存在します。このAさんもその一例である可能性は否定できません。「Aさんは人から言われたことは必ず守る生真面目な人」であるということは、その可能性を否定する根拠にはなりません。
なお、このAさんについては、服薬を中断した理由がいかなるものであれ、発症したときの症状からみて、服薬しなければ必ず再発すると思います。就職を計画しておられるようですが、就職後にまもなく再発するでしょう。
(2025.11.5.)



