【4995】高校時代までの日々の記憶がほぼないのは解離性健忘によるものか
Q: 28歳女です。いつも興味深くQ&Aを拝見させていただいておりますが、【4331】 幼少期の記憶がほとんどない が、あまりにも自分と似た状況であったため、わたしも解離性健忘なのか?と思いメールをさせていただきました。
中学に上がる頃まで、母親から以下のような暴力を受けていました。3歳下の弟も同様です。
・馬乗りになって顔を平手打ちする、殴る
・叩く自分の手も痛くなるからと、クイックルワイパーの柄で叩く
命の危険を感じるほどではありませんでしたが、機嫌が悪いとイライラして暴力を振るうタイプでした。ただし、暴力以外の家事育児に問題はなく、旅行や外出も多くありました。(写真がたくさん残っているので事実です)
今から2年ほど前、彼氏に「どんな子どもだった?今までの人生のことを教えて」と聞かれた時に、高校時代(一部大学時代も含む)までの記憶がほぼないことに気がつきました。
学校の校舎や教室は思い出せるのですが、友人や家族との具体的なエピソードはほぼ覚えていません。
運動会や修学旅行といったイベントごとは、どんな服を着ていたかは覚えていますが、写真で見返しているからだと思います。特に日常の記憶がなく、小中高校生時代、休みの日は何をしていたのか、食卓の様子、自分の部屋のレイアウトなどが思い出せません。(記憶の普通がわからないのですが、誰しもこの程度でしょうか)
また、わたしは実家から大学に通っていたのですが、3年生の頃、最寄り駅からの知らない男に付きまとわれ、母に電話で助けを求めるということがあり、そこから毎日母か父が迎えにきてくれていたそうなのですが、それもすっかり忘れていました。ひょんなことからその話になり、当時の家族LINEを確認したところ確かに私が毎日帰宅時間を伝えている記録が残っていましたが、今でも思い出せません。
大学時代は比較的最近なのでこれには自分でも驚きましたし、こんなにいろんなことを忘れてしまっていることに罪悪感や悲しさもありました。
これは解離性健忘によるものなのでしょうか。
もう一点気になるのが、私も弟も母から虐待を受けていましたが、家族仲がいいということです。私はまだ実家におり、弟は就職で地元を離れていますが、年に2回は帰省して、家族4人で食事やドライブを楽しんでいます。周りの友人にも本当に仲がいいねと言われるほどです。過去に身体的虐待はありましたが上でも述べたとおり、それ以外は普通のお母さんでした。やりたいことを習わせてくれたり、毎日お弁当を作ってくれたり、クリスマスや家族の誕生日などイベントごとが好きで毎回ご馳走をつくってくれました。【4331】のケースでは、「虐待の記憶があるにもかかわらず、「親は昔から今もずっと優しい」と強調することは、現実否認の証であるとみることができる」とありましたが、私の家族仲の良さも現実否認の結果ということになるのでしょうか。ちなみに「わずかに残っている虐待の記憶内容が事実かどうかはわかりません」ともありましたが、私の虐待の内容は、弟や母と話をしているため、事実であることは確かです。
長くなりましたが、わたしの体験については以上です。ご回答いただければ嬉しく思います。よろしくお願いいたします。
林: 解離性健忘の可能性が高いと思います。そして解離性健忘に陥った原因は虐待を受けたことであると可能性が高いと思います。
質問者は精神科Q&Aの中の他の類似例もお読みになっていただいているようですのですでに把握されているかと思いますが、虐待と解離性健忘をめぐって必ずといっていいほど発生する難題は、事実がどうであったかがわからないという点です。仮に虐待が事実であった場合、その虐待を受けていた方から虐待の記憶が失われていれば(ここでいう「失われている」は、脳内には残っているが取り出せなくなっている、すなわち思い出せなくなっていることも含みます)、虐待自体がなかったことになりますし、虐待の記憶が部分的に残っていても、受けていた虐待の中で最も激しいものの記憶が残っていなければ、やはり最も重要な事実についてはわからないことになります。質問者も引用されている【4331】に記した通りで、「虐待の記憶があるにもかかわらず、「親は昔から今もずっと優しい」と強調することは、現実否認の証であるとみることができる」と言えます。但しそれはあくまでも「とみることができる」というレベルまでしか言えず、逆の可能性、すなわち、「わずかに虐待と解されることはあったが、それ以外は一貫して優しかった」という可能性も否定できません。この【4995】のケースについても同様です。
したがって、「事実はわからない」が正確な答えということになりますが、この【4995】のケースの記憶障害は解離性健忘としてかなり顕著ですので(但し厳密には他の原因による記憶障害でないことを検査や診察によって確認することが必要ですが、記憶障害の性質からみて、解離性健忘である可能性が最も高いでしょう)、質問者自身から記憶が失われている激しい虐待があった可能性が否定できないと思います。
(2025.11.5.)



