【4758】急性一過性精神病性障害は再発しますか

Q: 40代後半、PTSDで通院中の女性です。現在服薬はしてません。
最近こちらのサイトを知り大変勉強になりました。長年継続されてることに敬意と感謝を表します。

44才のときに夢幻様状態、幻覚、妄想で警察も来て措置入院になり一ヶ月ほど入院しました。
顔面神経麻痺で耳鼻科を受診しプレドニンを2週間服用後に発症しました。耳鼻科医には「PTSDなんですが服用しても大丈夫ですか?」と念を押して確認しましたが最悪の結果に。。
調停中に発作を起こし、翌日から妄想がひどくなり、頭に異変を感じ家族に訴えました。その後は壮大な夢を何本も見ていた感覚で現実の記憶がありません。夢の内容は今もありありと思い出せます。現実よりも強烈な記憶です。
母によると「ここはハワイ?」「電磁波にやられる」と言ったり、何か書く、泣く、物を投げるなどしたらしいです。
父に「どこにいってたんだよ!」と怒りだし明らかに様子がおかしく救急車を呼んだそうです。

幻覚は入院翌日には消えたものの妄想はやや続いてました。喘息発作も起きました。
最初にレキサルティが処方され、バルプロ酸が追加されるが薬疹で投薬中止に。入院中興奮と薬疹の痛みかゆみでほとんど眠れず、強い電波を流されてるような酷い頭痛も夜中中ありました。

また入院してからひどい聴覚過敏になり4年以上経過した今も治らず苦しんでいます。
車やトラックの走行音が辛くて窓を開けることもできません。家のなかにいても辛いです。
金属、プラスチックのぶつかる音、工事、スーパー、家電など辛い音がたくさんあります。音でイライラしたり痺れたりします。

主治医には措置入院時の症状は「ステロイド精神病」と診断されましたが、厚生労働省の審査ではPTSDが悪化した「急性一過性精神病性障害」で薬の副作用ではないと判定されました。
(副作用救済制度の審査です)
退院後、軽い躁が半月ほど続いた後は半年間ほとんど寝てる状態だったことが副作用ではないと判断されたようです。調停中だったのでPTSD悪化と判断されたのかもしれません。
プレドニンの添付文書はPTSDは禁忌になってないのに。。診断書に協力して頂いた先生方にも申し訳ない気持ちです。
ちなみに、別の病院に入院したので主治医は急性期の症状を診てません。厚生労働省は診断書やカルテなど書面からの判定です。
(母は日光アレルギー、母の姉(叔母)は薬のアレルギーがあり麻酔ができず歯科治療もできないと聞いてます)

多くの方の実例を読むと自分は統合失調症なのかな?と思えてきました。
34才の頃、うつのような慢性疲労症候群のような状態になったことがあります。ほとんど寝たきりで起きると家の中をウロウロ歩き回る、同じ言葉を繰り返す、氷をガリガリ食べるなどの症状がありました。薬漬けにされるのが怖くて病院に行かず半年の静養で自然治癒しました。両親が滝に連れてってくれそれから劇的に回復に向かいました。
その後仕事もしましたが色々あり辞めました。43才からPTSDで通院してます。
PTSDの原因となる出来事は26才の時と38才の時に起こりました。性被害です。
中高時代いじめにも遭いました。

34才時のうつ症状は統合失調症の前駆症状だった?とこちらのサイトを読んで初めて気づきました。転職のストレス、疲労からの体調不良だと勝手に判断してました。
もっと早く知っていれば措置入院は防げたかもしれないと悔しい思いです。

林先生に質問させて頂きたいのは厚生労働省の判定通り急性一過性精神病性障害ならば、再発する可能性はあるでしょうか?
薬の副作用だと思ってたのに違うとなると再発が不安です。身体拘束と隔離病棟、本当に辛かった。
もしも再発したら先生のおっしゃる「壊滅的」な状態になりそうで怖いです。

長文を読んで頂きありがとうございます。
私が話下手なこともあり、精神科の短い診療時間では説明できないことも多くこのような場を設けて頂いたことに心より感謝申し上げます。

 

林:
急性一過性精神病性障害ならば、再発する可能性はあるでしょうか?

「急性一過性精神病性障害」は、文字通り、「急性」で「一過性」の「精神病性障害」であるということを示すもので、それ以上の意味は本来ありません。したがって、障害(病気)の本質については何も示していませんので、再発する・しない という可能性については何も予想することはできません。
このことは、現在の公式の診断基準による病名のすべてに本当は言えることです。「本当は」というのは、そうは言っても、病名がある程度までは本質すなわち生物学的・脳科学的特徴を反映している場合もあるからです。たとえば「統合失調症」はその一つですが、けれども、だからといって、統合失調症という診断名がついたとき、その後の経過を正確に推定することはできません。きれいに治る場合もあれば、慢性化して人格変化が進行する場合もあり、それはつまり本質の異なる病気が統合失調症という病名の中に含まれているということです。現代の公式の診断基準はそうしたもので、そしてその中でも診断名によっては、本質を全く反映していないものがあり、「急性一過性精神病性障害」はその代表的な一つです。より具体的に言いますと、精神病症状が一生で一回だけ一過性に現れるケースもあれば、実は統合失調症であるというケースもあります。【4516】私は急性一過性精神病性障害と統合失調症のどちらなのか【3882】インフルエンザに罹患した後、急性一過性精神病性障害と診断されました【3361】急性一過性精神病性障害と診断された弟が退院してから仕事に行かれなくなった などもご参照ください。

但し、症状が「急性」で「一過性」の「精神病」であっても、原因が明確に同定できる場合は、急性一過性精神病性障害ではなく別の病名がつきます。この【4758】のケースは、ステロイド開始してまもなく発症していますので、ステロイド精神病であった可能性は否定できません。否定できませんが、確実ともいえませんので、審査ではステロイドの副作用とまでは公式には認定できなかったということだと思います。他方、【4758】のケースには、時期的にみてもステロイド服用とは無関係の精神症状もあるようですので、今後、精神科通院を続け、精神病症状再発の兆候があったときにすぐに対処できるようにすることが必要だと思います。

(2023.12.5.)

05. 12月 2023 by Hayashi
カテゴリー: PTSD, 精神科Q&A, 統合失調症, 薬の副作用 タグ: , , |