【4993】私は二重人格ですか
Q: 20代前半女性です。解離性障害と診断されています。私は二重人格なのでしようか?
1年前に自殺未遂をした後に不思議な症状がありました。自殺未遂後、母親が精神科の診察に同席した際、母親を心配させたくないという気持ちが浮かびました。
すると、その瞬間突然スイッチが入ったかのようにテンションが上がり、私の意思とは別に私がペラペラと勝手に話始めました。口調が幼くなっているとも主治医に指摘されました。
その時の私は自分の事を斜め後ろから観測しており、「恥ずかしいからやめて!」と思っていました。
別の日も友人と話してる時に同じような現象が起きました。
それ以降も解離が起きている時は母に「幼児退行している」と言われました。これは私の中にもう1人、人がいるということでしょうか?
林: 「私は二重人格」と「私の中にもう1人、人がいる」は同一ではありません。質問文からは質問者がこの二つを同一と考えておられる可能性が読み取れますが、そうだとすれば質問者の認識は誤っています。
「二重人格」(あるいは「多重人格」)は、現代の精神医学用語では「解離性同一性障害」にあたります。質問者はご自身の体験について
それ以降も解離が起きている時は
と表現しておられますので、ご自身の体験が「解離」であることは認識しておられるのだと思います。そのご認識は正しいです。
解離性同一性障害は、解離の症状の一つです。解離の体験(症状)が、ある一定の基準を満たしたときに、解離性同一性障害と診断されることになります。その意味でこの【4993】のケースは、解離性同一性障害とは診断できません。解離性同一性障害の診断基準を満たさないからです。
但し実際には、診断基準を満たさなくても、解離性同一性障害にかなり近い症状は存在します。つまり、「解離性同一性障害である」ことと「解離性同一性障害でない」ことは、診断基準上は明確に区別されますが、実際には明確に区別できないケースがあるということです。
この【4993】のケースは、解離性同一障害にかなり近いとは言えませんが、当事者である質問者が「私は二重人格なのでしようか?」という疑問をお持ちになるのは自然で、そのことはつまり、解離性同一性障害とは診断できなくても、さらには解離性同一性障害にかなり近いとも言えなくても、解離には、二重人格すなわち解離性同一性障害のニュアンスがありうるということです。その文脈から言えば、「私は二重人格なのでしようか?」というこの【4993】の質問に対しては、「そのニュアンスはあります」が答えになります。
他方で、「私の中にもう1人、人がいるということでしょうか?」については、文学的なレベルで答えるのであれば肯定できるかもしれませんが、医学的な意味での二重人格や解離性同一性障害は、「私の中にもう1人、人がいるということ」とは全く意味が異なります。人の中に別の人が存在することはあり得ません。
(2025.10.5.)