【4967】統合失調症と双極性障害の幻覚妄想は同じ仕組みで発生しますか?

Q: 私は30代女性、双極性障害で、最も症状がひどいときは妄想がありました。 (実際はしていないのに、自分は犯罪をしてしまったとか逮捕されるなどと思っていました。)

【4750】統合失調症の幻覚が現れる感覚器の種類について を読んでいて疑問に思ったことがあります。
統合失調症の幻覚や妄想は、「自分の内部に発生した思考の発生源を外部に定位する」ことが本質であるとありましたが、これは双極性障害の幻覚や妄想も同じ仕組みと理解していいのでしょうか。

「妄想、特に被害妄想は、自分の脳内に発生した不安や恐怖を、外部の空間に定位し、さらにはそれを不特定多数の人々からのものであると体験したり、あるいは特定の人物(単数のことも複数のこともあります)からのものであると体験するものとして理解することができます。」と書かれてあるように、かつての私は、自分が他人に迷惑をかけていたらどうしようと思うあまりに、「犯罪をしてしまった、逮捕される」という妄想が生じたのでしょうか。

・双極性障害の幻覚妄想と、統合失調症の幻覚妄想のメカニズムは同じなのか
・同じでないのだとしたら、双極性障害の幻覚妄想の本質は何なのか
この2点にご回答いただけますと幸いです。

 

林: 
これは双極性障害の幻覚や妄想も同じ仕組みと理解していいのでしょうか。

このご質問は、まず、「仕組み」という言葉で何を意味されているかが問題です。【4750】の回答の「自分の内部に発生した思考の発生源を外部に定位する」は、幻覚の「仕組み」と呼べないことはありませんが、むしろ、幻覚の「定義」とも言えるものです。なぜなら、幻覚について、「自分の内部に発生した思考の発生源を外部に定位する」以外の説明はあり得ないからです。オカルトを前提とすれば別ですが、そうでなければ、いかなる幻覚も、実際にそこには存在しないものを知覚したと体験するわけですから、発生源は自分の内部以外にありまえません。したがってもしこれを「仕組み」と呼ぶのあれば、あらゆる幻覚に共通しています。統合失調症であっても双極性障害であっても、そのほか、いかなる病気による幻覚であっても同じです。

ご質問は幻覚よりむしろ妄想についてであると思われ、幻覚と妄想は、【4750】の回答の最後に記した通り、「自分の内部に発生した思考の発生源を外部に定位する」という意味では共通する症状であるとみることができます。但し、幻覚の場合は、「存在しないものを知覚するという体験」ですから、自分の内部に発生した思考の発生源が外部に定位されたことによるのは明白ですが、妄想すなわち思考については、人は、事実でないことを思考することができますから、幻覚のような単純な説明が成立するか否かについては難しい点が残ります。【4967】の質問者は、

かつての私は、自分が他人に迷惑をかけていたらどうしようと思うあまりに、「犯罪をしてしまった、逮捕される」という妄想が生じたのでしょうか。 

という問いを発しておられますが、質問者のこの解釈は、一方で正しい可能性もありますが、他方では、「犯罪をしてしまった、逮捕される」という思考そのものではなく、その思考を発生させた心理(「自分が他人に迷惑をかけていたらどうしよう」という心理)に言及しておられ、この言及は事実ではなく解釈が入っていますので、正しくない可能性もあります。

・双極性障害の幻覚妄想と、統合失調症の幻覚妄想のメカニズムは同じなのか 

「メカニズム」という言葉で何を意味しているかによって回答は異なります。

・同じでないのだとしたら、双極性障害の幻覚妄想の本質は何なのか 

「本質」という言葉はあまりに多義的で回答不可能です。

(2025.7.5.)

05. 7月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 躁うつ病