【4930】弟が知的障害であったことから異常なパーソナリティを獲得した気がする

Q: 25歳男性の会社員です。件名に関しては適切な題名に修正していただけたらと思います。私は、今のところ日常生活に支障がでているわけではないので精神科には通っていません。ただ、『弟が知的障害であったことから異常なパーソナリティを獲得した気がする』という奇妙な感覚を覚え始めています。

このような感覚にいたった原因を説明するには、まず私の育った家庭環境について説明する必要があります。私には二歳下の自閉症を伴う最重度知的障害の弟がいます(私は「きょうだい児」ということになるのだと思います)。母の話によると、母方の祖母の代にも当時の状況から診断こそされませんでしたが、同様の症例を持った姉妹がいたと聞いています。
おそらく、遺伝要因による発現ということだと思います。

両親は、知的障害の弟がいることから兄である私には『まとも』に育ってほしかったでしょう。両親は大学院までの学費を払ってくれて、私に修士号を得るための道を与えてくれました。また、「弟に縛られず、自分の人生を歩んでくれ」と就職先を自由に選ばせてくれました。肩書上は全くの真人間になったと思います。両親にも感謝しています。

ただ、家庭環境のために家族旅行を経験しませんでしたし、弟を見せたくなかったことから友人を家に上げることも多くありませんでした。弟の癇癪で遮られるために音楽も聴けませんでした。学校にありがちな「昨日見たテレの話」もついていけませんでした。そして良くないことですが、「あなたに兄弟はいますか?」という質問に対して、「その場しのぎの健常者としての弟」を作り出しては嘘をついてきました。これは、『障碍者の兄』という偏見から逃れるための子供の頃からの知恵でした。理解がある方に正直に伝たこともありますが、社会派ドキュメンタリーみたいな腫れ物に触るような態度になったことに嫌な気持ちを覚えました。

幼少期の私は、『私が母の胎内から栄養分を奪ったために、弟は障碍者になった。故に、弟も私も特別な存在である。栄養を奪った兄である私は人よりも能力があるだろうから頑張らなくてはならない。』と考えていました。勉学に励み、「頑張り屋で真面目な正直者」と評価されるようになりました。
仕事でもあらゆる人に「弁が立ち、物分かりがよく期待している」と言われました。他方でこの評価を死守しようと、やりたくないことも笑顔で承諾して、帳尻あわせをするように成果を上げました(質が悪いことに、結果が伴っているので外面上では嘘をついたようには見えないのです)。

いつしか私は、
A:学業や労働の面において弁が立つ正直者
B:生活背景、内面について全く話せない嘘つき
という矛盾したようなパーソナリティを獲得するに至りました。

はじめに「日常生活に支障がでているわけではない」と記述したのは、不眠や幻聴、妄想があるわけでもなく、他者に迷惑をかけていないからそのように記述しました。いわゆる虚言癖にも該当していないと思います。仮に診断するためにテストを受けた場合にも、設問上は「正直者の健常者」の回答結果が出てくると思います。これはそのものズバリな適切な設問がないことが予測されるためであり、私自身が「健常者としての私」を保とうとするためです。

そして弟とともに過ごし、数々の説明不能な奇行を目にしてきたおかげかわかりませんが、他人に比べて平常(正気)と異常(狂気)の境界の感覚がそもそも薄い気がします。

長々と書かせていただきましたが、今回質問させていただきたいのは下記になります。
①生活に支障が出ていない場合でも、学問上は精神疾患と診断できるのか
②テストや面談で検知できない精神疾患は存在するのか
③私が精神疾患であった場合、環境的要因か遺伝的要因であるか
④祖母の代、私の代で発現していることから自閉症はメンデル的な遺伝で発現するのか

 

林:
①生活に支障が出ていない場合でも、学問上は精神疾患と診断できるのか

精神疾患の定義は非常に曖昧なものです。ご質問の「学問上」という語も非常に曖昧で多義的ですが、仮に「公式の診断基準上は」と解釈するとしますと、何らかの支障が出ていない限りは精神疾患とは診断できないことになっています。しかしその「支障」とは、その人の置かれた状況によって、出るか出ないかは様々ですので、時代によっても国によっても地域によっても、さらには家庭やその人が主として生きるコミュニティによっても異なります。

②テストや面談で検知できない精神疾患は存在するのか

もちろん存在します。テストには非常に大きな限界がありますから、むしろテストで検知できる精神疾患の方が少ないといっても過言ではありません。面談については、テストよりはるかに検知力は高いのが常ですが、面談する側の技術によって大きく異なりますし、また、どのくらいの時間をかけて行うか、さらには、本人以外からの情報をどれだけ得ることができるかによっても異なります。

③私が精神疾患であった場合、環境的要因か遺伝的要因であるか

質問者が精神疾患と言えるかどうかはともかく、質問者の状態は、このメールに書かれている生育歴で(それは要約すれば「きょうだい児であること」ということになるでしょう)説明できますので、環境的要因が大きいように見えます。けれどもご質問にあるように、遺伝的要因の関与も否定できません。この【4930】のケースに限らず、環境的要因は目に見えますし、ストーリーとして納得しやすいので、同居しているご家族の中に精神疾患の方がいらっしゃる場合に、環境要因だけで十分に説明がつくと考えやすいですが、実際には遺伝的要因を無視することができず、むしろ遺伝的要因の方が大きいこともしばしばあります。したがいましてこの【4930】の質問者の場合も、言えるのは「環境的要因が大きいように見えます」までで、「そう見えるけれども実際は遺伝的要因の方が大きい」という可能性が否定できません。けれどもそうしたことを勘案しても、【4930】では環境的要因の方が大きいと考えるほうが妥当でしょう。

④ 祖母の代、私の代で発現していることから自閉症はメンデル的な遺伝で発現するのか

自閉症は多因子遺伝です。また、そもそも「自閉症」と呼ばれているものは単一疾患ではありませんので、遺伝的には様々なものが含まれています。

(2025.2.5.)

05. 2月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 発達障害, 精神科Q&A タグ: |