【4929】通行人への不安と敵意

Q: 20代女性です。私自身は不安障害を持っており、現在も通院しています。母は未診断であるもののほぼ間違いなくASD、父は鬱病の罹患歴があります。父からは虐待を受けていたと認識しています。愛着障害の気はあります。
小さい頃から、通行人に殴られるのではないかという恐怖がありました。20歳のときに不安障害の診断を受けレクサプロを飲むようになってからは恐怖はなくなりましたが、代わりに敵意が芽生えています。例えば道を真っ直ぐ歩かない人、手を大きく振って歩く人、電車で大股を開いて座る人、駅で逆走する人に対してです。お恥ずかしい話ですが(何がいけないのかはピンと来ないのですが)駅のホームで矢印とは反対方向に歩く人がいると自分からぶつかりに行き、相手の行動を正そうとしてしまいます。または大股を開いて座る人がいるとこちらも足を組むなどして絶対に退かないようにしています。
客観的に見れば逆走する人よりぶつかりに行く私の方が迷惑なことは理解はしています。

今回はこの敵意を治したく、ご相談させていただきました。
原因として考えられるのは以下です。

①「他人」の存在が気になってしまう質である
気になってしまう以上なんらかの感情が付随せざるを得ず、私の場合は不安もしくは敵意に振り切ってしまいます。他人を気にしなくなる方法、もしくはポジティブな感情を抱けるようになる方法はあるのでしょうか。

②ストレス
学生時代は敵意がない期間もあった覚えがあります。社会人になってからストレスが溜まり、その発散として「迷惑な」通行人を断罪する、という手段を取ってしまっているのだと思います。

③生育歴の影響
両親からは人に迷惑をかけないようにする、という教育をされず、代わりにルールに則っているか否かで説明されてきた覚えがあります。特に父親は全てが父親にとって正しいかどうかにしか興味がありませんでした。その影響でルール(それも独自ルール)に基づいて行動する癖が付いてしまった面があるかと思います。先日から自分の中で親のような存在をイメージし、「ぶつかったらだめだよ」「優しくしようね」などと自分自身に声掛けすることにしています。これは効果がありそうです。

④何か別の病気の影響
不安障害以外に何か別の病気を持っていて、それが影響していることは考えられますか?だとしたらどのような病気が有り得ますか?愛着障害という診断は今のところ受けていないのですが、診断を受け治療を受けることで何か改善しますか?

長くなってしまいましたが、まとめると伺いたいのは次のことです。
・他人を気にしなくなる方法はありますか?
・気にしないのが無理なら、ポジティブな感情を抱く方法はありますか?
・ストレスがある状態でも通行人にあたらない方法はありますか?
・虐待を受けていたということを鑑みた解決策はありますか?
・不安障害以外の病気は考えられますか?

他にも林先生がお気づきになられたことがあれば伺いたいです。

自分の行動が道徳に反しているのは理解していますし、敵意を向けること自体もストレスに繋がり疲弊するため、どうにか治したいです。お力添えいただけましたら幸いです。

 

林: ご自身が「原因として考えられる」として挙げておられる①②③は、どれも可能性があり、その中のどれかが特に大きいかもしれませんが、程度の差はあってもすべてがある程度は関与していると考えられます。そのうえで、経過として特に注目されるのは、

レクサプロを飲むようになってからは恐怖はなくなりましたが、代わりに敵意が芽生えています

という事実で、そうであれば、レクサプロの影響の可能性をむしろ第1に考える必要があります。抗うつ薬の副作用として、攻撃性は、決して頻度が高いものではありませんが、ありうるものであり、この【4929】のように、服薬開始と攻撃性の発生が時間的に一致していることは、副作用の可能性を示唆する有力な手かがりと言えます。質問者の現在の攻撃性には上で指摘した①②③が関与しているとしても、レクサプロの服用を開始するまではその攻撃性は潜在的なものにすぎず、レクサプロによって顕在化したというストーリーもありえます。もしそうだとすれば、薬は「病気」にはあたりませんが、物質による脳内の化学的状態の変化という意味では④の「何か別の病気の影響」にあたると言えるでしょう。
他方で【4929】の質問者ではレクサプロが恐怖を取り除くというプラスの効果もあったわけですから、仮に攻撃性というマイナスの側面があったとしても、レクサプロをやめればいいという単純な話にはなりませんが、他の抗うつ薬にかえてみるというのが最も現実的かつ合理的な方策だと思います。このとき、もし攻撃性がレクサプロという抗うつ薬の影響なのであれば、他の抗うつ薬にかえてもそれが抗うつ薬である限り同じことではないかとお考えになるかもしれませんが、薬の効果や副作用はそのような単純なものではなく、同種の薬でも、ある一人の人が飲んだ場合、一方は副作用が強く出て、他方はほとんど出ないというのはしばしばあることです。

(2025.2.5.)

05. 2月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 不安障害, 精神科Q&A, 薬の副作用