【4902】気分変調症に躁状態はあるのか
Q: 私は20代女性で、8歳の頃より精神科に通院しております。幼少の頃には自閉症、現在は気分変調症と診断され、投薬とカウンセリングによる治療をしております。
そこで、先生に質問があります。
私には、明らかに躁状態がみられるのです。それも定期的に、繰り返し。程度もかなり酷く、多額の借金をしたり対人トラブルを頻発させたり、2週間まったく寝ず一滴の飲食もせず仕事や趣味に打ち込み大声で歌い続け早口で話し、もうとにかく酷い有様なのです。それを理由に閉鎖病棟へ入院したこともあります。その際入院理由の欄にはしっかりと躁状態、多弁、興奮、と書かれておりました。
しかし、病名は変わらず気分変調症のままでした。診断書なども書いていただいていますが、ずっと気分変調症です。
また抗うつ薬との相性も非常に悪く、今までパキシル、レクサプロ、トリンテリックスなどを服用してきましたが、そのすべてで躁転がみられ、処方が直ちに中止されてきました。
私は、躁状態を有するものは双極性障害だと思っていたのでとても驚き、躁状態を含む気分変調症についてインターネットや本で調べ始めました。ですが結果は芳しくなく、手がかりになるような情報は見つかりませんでした。
もちろん主治医の診断を疑うつもりはありませんし、気分変調症らしく抑うつ症状が持続しているのも確かです。
そして、精神科の治療においておそらく大事なのは病名ではなく病態で、病名にこだわるのがそもそも野暮だとはよくわかっております。
しかしどうしても気になって仕方がありません。このQ&Aは医療相談ではなく事実を答えるのみだとありましたので、「気分変調症の患者に躁状態がみられることはあるのか、あるとすれば珍しいものなのか」について、先生に事実をお答えいただければと思います。
参考になるかはわかりませんが、現在服用中の薬も書いておきます。
炭酸リチウム、ラツーダ、リボトリール、ロラゼパム、リスペリドン、フルニトラゼパム、ゾルピデム
林: 「気分変調症」にしても「双極性障害」にしても、そのほか、現代の精神医学で「公式」とされている診断名はいずれも、「操作的診断基準」と呼ばれるもので、それは、「定められた一定の基準を満たすものをその診断名で呼ぶ」という取り決めです。ご質問の気分変調症はDSM-5に収載されている診断名で(ICD-10も基本的には同じです)、その診断基準の中に「躁病エピソードが存在したことは一度もない」と明記されていますから、明確な躁状態(=躁病エピソードの診断基準を満たす躁状態)があればその時点で気分変調症の診断は否定されます。この【4902】では、
私には、明らかに躁状態がみられるのです。それも定期的に、繰り返し。程度もかなり酷く、多額の借金をしたり対人トラブルを頻発させたり、2週間まったく寝ず一滴の飲食もせず仕事や趣味に打ち込み大声で歌い続け早口で話し、もうとにかく酷い有様なのです。それを理由に閉鎖病棟へ入院したこともあります。その際入院理由の欄にはしっかりと躁状態、多弁、興奮、と書かれておりました。
ということですので、気分変調症ではなく双極性障害であることは明白です。
また抗うつ薬との相性も非常に悪く、今までパキシル、レクサプロ、トリンテリックスなどを服用してきましたが、そのすべてで躁転がみられ、処方が直ちに中止されてきました。
このことも、双極性障害であることを裏付ける事実です。
このような事情ですから、
「気分変調症の患者に躁状態がみられることはあるのか、あるとすれば珍しいものなのか」
上記は質問としてすでに成り立たない矛盾したものです。躁状態があったらその時点で気分変調症ではありませんから、この質問はいわば、「熱い冷水というものはあるのか、あるとすれば珍しいものなのか」というのと同じ、矛盾した文章ということになります。
(2024.12.5.)