【4761】私は本当に統合失調症なのでしょうか。生育歴からくるパーソナリティの問題のようにも思うのですが。
Q: 20歳、現在は無職で療養中の女です。話すと長くてわかりにくいので端的に箇条書きしていきます。
・私は本当に統合失調症なのか?
→症状は当てはまるようだがいまいち実感が持てず(私の過去の苦しみのほとんどが症状として言い表せるが、さまざまな理由により私は「被害を被るような人物である」とも思うから)医者の誤診ではないかと思う。現在は病識の欠如であると認識している。
・症状は?
→小学校高学年の頃からあった。
小学校「こいつは頭おかしいから一緒に遊ばない方がいい」と仲の良かった友達に言われる。
中学校「入学二日目に見知らぬ先輩が3階の校舎から「おーーーーーいそこのブスw」と叫んできた。 学校にいると見知らぬ生徒から「ほらあいつと付き合えよw」と嘲る声が聞こえてくる。 人混みに出ると「キモい」「ブス」「太り過ぎ」などと聞こえる。相手はほとんどの場合見ず知らずの人である。 この頃から自分の容姿は世界で一番醜いと信じきり、人前ではマスクが取れず、ゆえに食事もできなくなる。
「自分の容姿は醜いので、人間の顔であると思われないように、アイロンで焼き潰そう」と思いつき、ずっとその計画を立てる。
SNSで自分の情報が拡散され、自分が住んでる街の人間全員に自分のことが筒抜けだと思う(ゆえに笑われていると思う)。
(これはのちの高校時代に実際に行われ、誹謗中傷されたので妄想ではないかもしれない)
SNSは一つ投稿したら、それ以外の全ての投稿を消すというルールがありそれに従っていた。
中学生時代に、一度、心臓が止まり生死の境を彷徨うほどの自殺未遂をした。
高校→中学までの症状は全て真実だと信じていたので、毎日が辛く、希死念慮が消えなかった。朝7時に起き、学校は9時からなのになぜか体が動かず遅刻を繰り返し、これは発達障害に違いないと思い(3歳の頃高機能自閉症、10歳の頃多動症と診断されています)心療内科にかかる。診断は ADHD、境界性人格障害。 しかし異様に活動的で、全日制高校に通いながら週5日バイトする(しかし遅刻する)。 悪口は依然聞こえ続け、希死念慮が強く、一度緊急搬送され、児童相談所に一時保護される。そこで被害妄想や幻聴なのか、あるいは事実なのかわからない体験をし、「自分はどこにも居場所がない」と感じる。
施設から家に帰った頃自然災害で家を無くし、二ヶ月ほど避難所暮らしをする。家を見つけ移り住む頃には、当時は自覚がなかったものの状態が悪化しており、心療内科での主訴も二転三転し(これは自覚がありませんでした。年金受給のための診断書に書かれていました)精神科を勧められ通院するも交通の弁が悪く元の心療内科に戻る。
また、災害以前は勤勉で、学年どころかその学校では取得した人がいないような国家資格に合格していたのに、災害以後は全く勉強しなくなる。これは卒業まで続いた。
中学から高校まで希死念慮、不安、被害感が強くほとんどの夜を泣いて過ごす。
また、自覚はなかったもののその頃親交のあった人たちからは「(同じ話を繰り返す、笑い続けて話ができない、など)様子がおかしいよ」と言われていたが自分ではそうは思わなかったため気にしていかった。
卒業から現在
悪口、笑い声が自分への嘲笑に聞こえる、視線や息遣いや口調が自分への悪意であるという認識のまま。最終的にはほとんど学校に通わず、出席日数ギリギリでなんとか卒業し、そのままアルバイトで通っていた飲食店で働き続ける。
次第に意欲が低下していき、五時間の仕事が永遠のように思え、苦痛で仕方なくなる。その店に客が来ないのは、自分がレジに立っているからだと考えて辛くなる。
ストレス発散のような、ほとんど何も考えていない状態で手首を切り九針縫う。
(個人的には仕事のストレスだと考えているが、幻聴や妄想のことを医者に話していなかったため(なぜなら幻聴だとも妄想だとも思ったことがなかった)統合失調症としての適切な治療がなされなかったためかとも思う)
仕事は辞め、医者に抑うつ状態であることを話し、抗うつ薬を処方される。その頃から症状が安定し、「もしかして今までの自分の苦しみは統合失調症による症状だったのではないか」と思い至る。医者にそのことを伝え、抗精神病薬を処方される。現在、働く意欲はまだ湧いてこないが、日常生活において介助を求める頻度が下がってきたように思う。
最近の症状らしきもの
→まれに悪口が聞こえる。笑い声は嘲笑に聞こえる。スマホを川に落としてしまう、母親との性行為という不快極まりない妄想、過去の失敗経験や苦痛の記憶が勝手に湧いてきて打ち消せない、音楽が鳴り止まない(これは無いと寂しいので消えなくてもいいです)、思っていることと真逆のことを考えてしまう。例「猫は仕事を邪魔してくるが、それが可愛い」と言う文章を読む→「猫いいなあ飼いたいなあ」と言う気持ちと、「そんな猫は殺してしまえ」という考えが同時に、即座に浮かび上がる。そしてそれは意図していない。身体が硬直する(している間は特に何も考え事はしておらず、ただぼーっとしている)
追加情報として、私の家族歴などをお伝えします。
・父方の祖父は祖母を轢き殺し、その後私の父親にあたる息子に奇妙な虐待を加え(酢以外の食事を与えないなど)その後自殺しました。うつ病と診断されていたようですが、個人的には統合失調症だったのではないだろうかと考えています。
・父親は、私ともう1人の娘(妹です)や母親の会話が悪口に聞こえる、と言って激昂し、怒鳴ったり殴ってきたりなどの虐待を繰り返しました。統合失調症なのだろうと思います。
・母親の家系は発達障害です。母方のいとこは全員発達障害です。母にもその傾向があり(未診断)また母自身も被虐待経験があり、解離の気があります。記憶や夢の中で、常に第三者視点だと言っています。
・上記の通り私はひどい虐待を受けました。私はパーソナリティにも偏りがある自覚があります。おそらく境界性人格障害だろうと思います。幼少期には発達障害で社会のルールがよくわからなかったこと、家庭も機能不全で社会と隔絶されておりルールに触れるタイミングがなかったことから放火、窃盗を繰り返しました。10歳の頃、放火しているところを見た近所の人から通報され、警察沙汰にしない条件として児童発達クリニックに何度か通いました。
統合失調症の前駆期が始まったのが大体いつ頃か目星がついています。10歳の頃、上記の事情で病院へ通院した帰路で、突然「脳内に膜が張り」、その後喜怒哀楽の感情が鈍麻し(失ったわけではなく、鈍くなりました。詩的な表現をするなら「世界がセピア色になった」とでもいうような)代わりに被害感が敏感になりました。それまでは発達障害の影響か、ひどく自己中心で周囲の人間は動く風景だと思っていたような人間だったのに、それからは他人からの悪意に敏感で本来読めないはずの行間を読む(かも悪意的に)人間になりました。その頃から自分は嫌われ者でいじめられていると感じていました。
私が自分が統合失調症ではないと考える根拠はここにあり、私は発達障害だが10歳ごろから情緒が発達を始め、今まで気づいていなかった人間というものに関心を寄せすぎているだけ、事実に気づいていなかっただけ、とも感じます。
話は変わりますが私は最近何に関しても恐怖してしまいます。橋を歩いたらスマホを落としそうで怖いし、高いところに行くと床が抜けて落ちて死にそうで怖いです。昔は高いところが大好きだったのでこの恐怖心はとても不自然だと思います。
私の疑問点は前回のメール同様、「自分は統合失調症なのか」と、もう一つ「幼少期に虐待を受け、反社会的な行為を繰り返した私は何らかのパーソナリティ障害なのか」です。
追加の情報が判断の役に立てば幸いです。
林: 統合失調症としての抗精神病薬による治療を受け続けることをお勧めします。
この【4761】は、精神病症状だけに着目すれば、かなり典型的な統合失調症です。
しかし、経過にも着目すると、自閉スペクトラム症の可能性もかなり高いです。(というより確実に自閉スペクトラム症かもしれませんが、精神病症状の記載に比べて、自閉スペクトラム症に関連する症状の記載は十分でないので、「可能性もかなり高い」と表現しました)
また、統合失調症・自閉スペクトラム症の両方の家族歴が濃厚であることも診断上重要な情報です。
【4761】の診断としては次の3通りが考えられます。
(1) 統合失調症と自閉スペクトラム症の合併
(2) 自閉スペクトラム症の症状として、統合失調症類似の精神病症状が現れている
(3) 統合失調症と自閉スペクトラム症の両方の症状が現れる精神障害
そして、 (1)(2)(3)のいずれかに、虐待歴が加重して症状がさらに複雑になっているとみることができます。
(1)か(2)であろうと考えるのが普通で、そのどちらであると考えるかは、診断した医師によって異なります。しかし(1)か(2)かを鑑別する方法は理論的には存在しませんから、「(1)か(2)と考えられるが、どちらであるかはわからない」と結論するのが科学的には正しいと思います。
(3)の可能性を考えるのは現代では異端的ですが、(3)も理論的には十分にありうるはずです。統合失調症と自閉スペクトラム症は、遺伝的に近縁であることが多くの研究で示されているという事実もあります。
なお、虐待だけを原因とするパーソナリティ障害と考えることには無理があります。虐待は(1)(2)(3)のいずれかに加重したと考えるのが妥当でしょう。
このように、診断を最終的に確定することは困難ですが、この【4761】のケースでいま最も重要な症状は統合失調症の精神病症状で、それは、診断が何であるにせよ、脳内に統合失調症類似または同一の変調が発生しているということですから、抗精神病薬で治療することは合理的な方針です。精神病症状を軽減し安定することが第一です。そのうえで次の段階として、生育歴上の問題や、自閉スペクトラム症についての適切な対応に移行していくことが勧められます。
(2023.12.5.)