【4719】AI によるアイデンティティの喪失への対応

Q: 30代男性のイラストレーターです。

私はADHDです、社会との軋轢で鬱を発症し通院しつづけています。

職も特技もなく、陰鬱とした生活を続けていましたが10年ほど前に絵を描き始めたことが大きな転機でした。
最初は本当に誰も見てくれませんでしたが諦めずに自分の心に素直に作品を描き続けているうちに少しずつ見てもらえるようになっていきました。
ここ数年ほどは特に人気が上がり、SNSで数万人のフォロワーを獲得し雑誌などでも取り上げてもらえるようになりました。
陰鬱とした人生を送ってきた私の作品に込められた思いが、人々に認められる形になったのです。 その結果、定期的に絵の仕事が入ったり長期的な雇用をしてもらえるようになり、人並みに生活も安定してきました。他は飽き性でまともに仕事が続きませんでしたが、絵の仕事はずっと続けているしこれからも続けていけるだろうと思っています。

しかし、ここ最近、AI技術の発展によりイラストそのものの価値や、絵を描けるというスキルの価値が大きく変わりつつあります。 人間が何週間も描けて作成するような絵であっても、AIを的確に用いればものの数分で作り上げることができます。 それらは私たち絵描きがかつて描いてきた何十億枚もの作品をAIが学習し、生成されるものです。

誰もが息をのむようなイラストをレンジでチンするが如く作れるようになったら…。
それは絵を描くスキルが特別なものではなく、多くの人が手に入れ、普遍化し、そして陳腐化するという事だと感じています。
絵を描かない人間にとっては素晴らしい技術発展であるのは言うまでもありません。

しかし、それは私の8年間の不断の努力で得た「アイデンティティ」が、「誰でもできるような事」になってしまう事でもあります。

自分の苦心して描いた絵、それを学習したAIによって作品が悪用されるのではないだろうか。 もしかしたら、今も自分が命を削って描いた絵とそっくりな絵を、AIで量産して名声と金を得ている人がいるのかもしれない。 あるいはAIによって生成された私にそっくりな絵を使って、だれかを貶めたりするような事が起こるかもしれない。 今の仕事も、すべてAIに取って代わられるのかもしれない。 もう誰も私の絵に興味を持たなくなるかもしれない。

そうなれば、私はまた持たざる者、かつてのうつ病の発達障害に逆戻り。
それは、現実に起こりえるかもしれませんし、妄想かもしれない、そんなことを常に頭の中で考えてしまいます。

他の趣味をしていても、頭の中では常にその不安が付きまとうのです。
TVではニュースで必ずAI発展の話が毎日流れ、活動のメインであるSNSでは毎日新たなAIの脅威を思い知らされ、職場ではイラスト作成をAIに代行させる流れを推し進め、意識的にAIの話題に触れないようにしていても、その話題から逃げることも出来ないのです。

おそらく大多数の賢い人達はAIと共存を選ぶのでしょう。しかし私は発達障害で拘りが強いせいなのか、それとも、あれだけ血のにじむような努力と苦痛を経て得た技術がああも簡単に作られることに対して納得がいかないのか、事ここに至ってもAIを用いることに踏み出せないでいるのです。

私は絵を描く行為そのものを根本的に愛しており、作品に込められる作者の情熱や労力、それを完成させる精神力という物に特に価値を見出す考えをしています。
そのため、私がAIを使って「描く」という行為を代行させることも主義に反し、日々鬱々としています。

林先生には、このような場合どう立ち回れば苦しくなくなるのかを聞きたかたのです。

が、…実はこのメッセージを打ち込み、推敲していくうちに、自分の中で本当にしたい事が明確になったような気がしているのです。
この問題には答えが無いと思っていたのですが…
いえ、答えは一つなのです、今はこの無常さ無念さ憤りを絵に打ち込む以外ないと感じています。

非常に一方的な文章になってしまった事をお許し下さい。
本来の使い方とは違うと思いますが…、このような入力フォームがある事を林先生に感謝致します。

ありがとうございました。

 

林: ご質問ありがとうございました。結果的には「質問」にはならなかったようですが、ここにお書きいただいた質問者の思いは、読者の方々にとって大いにご参考になることと思います。

(2023.9.5.)

05. 9月 2023 by Hayashi
カテゴリー: ADHD, 発達障害, 精神科Q&A