精神科Q&A

 【1289】リタリンがうつ病に使えなくなるのは納得できません


Q:  私は、うつ病と診断されている40歳の女です。今回精神科に通い始めてから1年半ほどになります。それ以前にも、30台半ばの頃、やはりうつ病ということで2年ほど診療を受けておりました。 

先生は「擬態うつ病」というご本を出版されていらっしゃいますが、私は擬態うつ病ではなく、おそらく典型的なうつ病だと考えております。その根拠は、 

1、私がかかっている医師の先生が、診察(問診など)が丁寧な方で、しかもベテランで、少なくともその点で信頼できる方だと思いますが、その先生が、私のことを典型的なうつ病とおっしゃっていまして(私の気質を「メランコリー親和型」と呼ばれたことがあること等も含みます)、現在までそのお考えが変わっておられないこと、 

2、抗うつ剤(三環系)の150r以上の処方が数ヶ月以上続き、病状が非常に重い時には抗うつ剤の点滴も時々受けていたこと 
(ここで「病状が非常に重い」というのは、体を動かしたわけでもないのに朝から強い疲労感とつらさがあり、この世から消えてしまいたいと思うにもかかわらず、疲労感のために、頭も回らず体も動かず自殺を実行に移せず、それがまた自己嫌悪につながり……という状態で、精神科に通う以外にはほとんど寝たきりに等しい、というものです)、 

3、上の2にも書きましたが、性格や症状としては素人の私にもうつ病らしいと思えること。私自身の言葉では信用していただけるかどうか心もとありませんが、具体的には、好調な時には、仕事などに比較的真剣に取り組んでいるつもりですし、始めた仕事には熱中するらしいのですがあまりその自覚はなく、周りに「ちょっと休んだら」と言われ、初めて「そんなに熱中していたのか」と気づく方です。けれども、調子が悪くなってくると、イライラし、だんだんと物事を始めるのが難しくなり、妙に悲しくなったり、虚無感にとらわれたりし、それで仕事に差し支えることを気に病むのですが、ついには布団から出られない状態にまで至ってしまうこと、 

などです。とはいえ、自分が怠けているだけなのでは、とか、年取って動けなくなったのでは、とか、廃人になってしまったのでは、などと思い、林先生のおっしゃる「擬態うつ病」ではないかと疑うこともしばしばですが……。ただ、そのようなことを診療を受けている先生に申し上げると、「いやいや、そんなことはない」「あなたは、やるときにはやりますよ」と言ってくださるので、その場はなんとか納得して帰宅する、といった具合です。 

そして、数ヶ月前からは、最悪の病状を脱し、抗うつ剤も、三環系抗うつ剤75r/日(現在はトリプタノール)に減っているのですが、抗うつ剤だけでは、昼間だるくてすぐ居眠りしてしまうのです。電車やバスの乗り越しは日常茶飯事で、通勤時の居眠りのために仕事(現在ではフルタイムの仕事はできませんが)に遅刻してしまったこともあります。また歩いていても眠くて、交通事故が怖いと真面目に思うこともありました。 
こういう症状に対して、先生は、抗うつ剤の種類を何度か変えてくださったり(アナフラニール・アモキサン等)、夜の睡眠不足の影響ではないかと睡眠のための薬の量を調整してくださったり、眠気が強まるということで一貫して抗不安剤は処方されなかったり、など、いろいろと工夫をしてくださったのですが、残念ながら眠気は改善しませんでした(抗うつ剤の中でSSRIという系統の薬は私には副作用が強かったので現在は処方されません)。 

先生も、何とかしなければ、ということで、3週間ほど前から、リタリンはどうかということで処方されました。先生のご説明では、「普通はあまり処方する薬ではないけれど、効くかもしれないから」「難治性うつ病・遷延性うつ病適応の薬で、あなたの病状にも合うので、試してみましょう」ということでした。実際服用すると、昼間の眠気が改善され、ほとんど寝ないで済むようになったのです。夕方近くになって少し眠くなる程度でした。その時は1日2錠、朝夕服用でした。次に受診した時(1週間ほど前)、そのことを先生にお話ししたところ、「夕方近くになって眠くなるのは、それまでずっと昼間寝ていたのを無理矢理起こしているようなもので、まだ体がついていかないのだから仕方ないでしょう」ということで、加えて「せっかく効いているのだから中途半端に処方するよりは、1錠増やしてみて、効果があるかどうかを試してみましょう」とおっしゃり、1日3錠になり、現在に至ります。結果は、1日中なんとか起きていることができるようになりました。 

ところが、ご存じのように、つい最近、リタリンを製造している会社が、「難治性・遷延性うつ病」を適応から外す方向で検討していることがニュースになりました。理由は、リタリンは覚醒剤と似た性質を持っていて、乱用者が多く、クリニックでも患者の求めに応じて大量のリタリンを処方する所があり、インターネットでも不正な販売が行われているので、そのような乱用を防ぐため、とのことですが、私には釈然としません。乱用者が多いことは事実かもしれませんが、私自身、少なくとも現在乱用者ではありませんし、昼間の眠気がおさまったことでできるようになった仕事もあり、それまで「これでは廃人同様、未来は絶望的」という暗い気持ちで人生を諦めかけていたのが、なんとかなるかもしれない、と思うようにもなり、プラスの面が大きいと思っております。また、私が診察を受けている先生も、これまでの診察からは、非常識な処方をなさる方だとは思えません。結果として私が1日中起きていられるようになったのですから、これ以上量を増やされるとも思えません。 

今回の製薬会社の検討は、一部の乱用者や乱用補助者のせいで行われたことで、すべてのうつ病の人が乱用しているわけではなく、うつ病(難治性うつ病・遷延性うつ病)を適応から外すのは、一部のうつ病の人にとってはマイナスだと思うのですが、いかがでしょうか。林先生のサイトを拝見しますと、【1059】【1146】などに、リタリンを使うべき場合もあるというご見解が書かれてありますし、私自身、リタリンのために助けられたと思っていますが、現在の先生のご意見はいかがでしょうか。 
また、私は、リタリン依存症に陥るとは現在思いませんが、それは甘いのでしょうか。 

ちなみに、私は麻薬や覚醒剤を用いた経験は全くなく、喫煙者でもありません。お酒は以前時々飲んでいましたが、それは会食の時やワイン・焼酎などの味を楽しむ時だけに限られていて、うつ病の薬を服用するようになってからは、薬の作用を恐れてなるべく飲まないようにしてきましたし、とくにリタリンが処方されてからは一滴も飲まないようにしています。社会がアルコールを認めていますので、確かに以前はアルコールが悪いものという認識はあまりなく、飲み過ぎさえしなければかまわないと思っていましたが、林先生のサイトでアルコールの怖さを教わることもできましたので、最近ではアルコールは一切やめようと考えております(この点でも、林先生のサイトには感謝しております)。 

次回以降の診療でリタリンが処方されるとすれば、保険がきかなくなるということですので、診察を受けている先生も躊躇されるかもしれませんし、今後の自分の病状が心配です。 
お忙しいところを申し訳ありませんが、ご回答くださいましたら幸いです。 


林: まずあなたの診断ですが、うつ病で間違いないと思います。擬態うつ病ではないでしょう。そう判断する根拠は、あなたご自身が1,2,3として挙げられている根拠がそのままあてはまります。
 そして、あなたの症状には、リタリンがよく効いています。これもあなたの判断の通りです。
 うつ病が治療によって回復する時、まず不安感が、次に抑うつ気分がよくなるという経過をたどるのが普通です。そして最後まで残りやすいのが意欲低下や億劫感です。それも、治療を続ければ最終的にはよくなることが大部分ですが、時には意欲低下や億劫感だけがなかなかよくならず、悩んでおられる方もいらっしゃいます。【0986】【1146】などがその例になります。この【1289】のケースもそれにあたるといえるでしょう。
 このような場合、リタリンの処方を考慮することになります。もちろんよく知られているように、リタリンには依存症や幻覚妄想などの副作用があり得ます。【0680】【0993】などがその例です。しかしその一方で、【1059】、さらにはこの【1289】のような治療成功例も数多くあります。副作用を考慮するのはいかなる薬でも同じことですから、リタリンにおいても、重大な副作用の可能性は考慮しつつ、必要であれば慎重に用いるというのが正しい姿勢といえるでしょう。

 こうした事実を前提として確認したうえで、あなたのご質問にお答えします:

私自身、少なくとも現在乱用者ではありませんし、昼間の眠気がおさまったことでできるようになった仕事もあり、それまで「これでは廃人同様、未来は絶望的」という暗い気持ちで人生を諦めかけていたのが、なんとかなるかもしれない、と思うようにもなり、プラスの面が大きいと思っております。

その通りだと思います。

また、私が診察を受けている先生も、これまでの診察からは、非常識な処方をなさる方だとは思えません。結果として私が1日中起きていられるようになったのですから、これ以上量を増やされるとも思えません。 

そうだと思います。(ここが最も重要な点です。後でまた解説します)

今回の製薬会社の検討は、一部の乱用者や乱用補助者のせいで行われたことで、すべてのうつ病の人が乱用しているわけではなく、うつ病(難治性うつ病・遷延性うつ病)を適応から外すのは、一部のうつ病の人にとってはマイナスだと思うのですが、いかがでしょうか。

その通りだと思います。うつ病の適応が外されることで、非常にお困りになるうつ病の方がたくさんいらっしゃると思います。絶望的になる方もいらっしゃるかもしれません。

林先生のサイトを拝見しますと、【1059】【1146】などに、リタリンを使うべき場合もあるというご見解が書かれてありますし、私自身、リタリンのために助けられたと思っていますが、現在の先生のご意見はいかがでしょうか。 

現在も私の見解は揺るぎません。

つまり、要約しますと、
「リタリンには重大な副作用があり得るが、それを考慮したうえで、うつ病に用いるべき場合もあり、効果は十分に期待できる」
ということになります。
わざわざゴチックで書きましたが、これは何もリタリンに限ったことではなく、どんな薬でも同じです。たとえば抗うつ薬には【0581】のような、抗精神病薬には【0204】のような、重大な副作用があり得ます。

したがいまして、あなたのこのご意見、

つい最近、リタリンを製造している会社が、「難治性・遷延性うつ病」を適応から外す方向で検討していることがニュースになりました。理由は、リタリンは覚醒剤と似た性質を持っていて、乱用者が多く、クリニックでも患者の求めに応じて大量のリタリンを処方する所があり、インターネットでも不正な販売が行われているので、そのような乱用を防ぐため、とのことですが、私には釈然としません。

にも、私は同意します。私も釈然としません。しかし、では適応から外すことに反対かどうかということになると、それはまた別の難しい問題だと思います。
つまり、あまりにリタリンの乱用が増えすぎ、食い止めるためにはもはやうつ病の適応を外すしか方法がない地点まで来ていれば、やむを得ない処置ということにもなるでしょう。
薬を使う・使わないは、それによるプラスとマイナスのバランスを考えて決める。これは、ひとりひとりの患者さんについては常にいえることですが、リタリンについての製薬会社の判断は、この原則を社会という集団に適用した例といえるでしょう。つまり、「リタリンの処方により少数のうつ病患者が救われる」というプラスよりも、「リタリンの適応にうつ病を記載することにより多数の乱用患者が発生する」というマイナスの方が大きいという判断だと思います。
「判断だと思います」というのは、製薬会社や厚生労働省の判断だと思います、という意味です。社会全体を見渡して、このプラスとマイナスのどちらが大きいかは、私には判断するだけのデータがありませんから、わかりません。

しかし、繰り返しますが、この【1289】の方のように、リタリンが処方されなくなることにより非常にお困りになるうつ病の方がいらっしゃることは事実です。いくら社会全体としてはマイナスの方が大きいからといって、リタリンの恩恵を正当に受けておられるうつ病の方にとって、処方中止が納得いかないのは当然だと思います。

このような事態を招いた最大の責任は、やはり無節操にリタリンを処方した医師にあると私は思います。この【1289】の主治医の先生のように、すべての医師が慎重な姿勢で処方していれば、リタリン乱用者の数が膨張することはなかったはずです。(ゼロにすることは出来なかったとは思いますが)
 そしてさらに言えば、本来はうつ病でないものをうつ病と診断し、投薬治療をするという、安易な診療姿勢が、その背景にあります。これは擬態うつ病にお書きした通りです。抗うつ薬にも危険な副作用はあるわけですから(【0900】などをご参照ください)、抗うつ薬についても、今後逆に適応が厳密すぎる規定になり、抗うつ薬を必要とするうつ病の方にまで処方されにくくなることも危惧されます。(すでに子どものうつ病に関してはこの事態が発生しています)
 もっとも、うつ病をめぐるこうした状況は、医師だけでなく、患者や社会にも責任があると私は考えます。擬態うつ病の61ページからにお書きした通りです。

なお、リタリンについては、誰よりも乱用した人が悪い、というのも一理はありますが、そもそも最初に処方したのは医師であったはずですから(現在はインターネットなどから不正にリタリンの入手が行なわれているようですが、リタリン服用のきっかけとしては、そうした不正入手よりも、医師の処方のほうが多いと私は推定しています。この推定が誤りの場合、話は別になります)、やはり責任は医師に求めるべきでしょう。(また、不正入手が乱用の主因であるとすれば、リタリンの適応を書き替えてもほとんど何の対策にもならないでしょう。ですから、あなたのご質問にもあるように、うつ病の適応を外す理由として、「インターネットでも不正な販売が行われているので、そのような乱用を防ぐため」というのはナンセンスです。販売元の人間が、うつ病という名目で大量に処方されているものを横流ししていると想定しているという解釈は一応は可能ですが)

長くなりましたが、まとめますと、
1. あなた(【1289】の質問者)のご意見はすべてもっともです。私は全面的に賛成です。
2. けれども、ではリタリンの適応を変えるべきではないかどうかというのは、次元の違う問題で、社会全体を視野にいれて考えなければならないと思います。


なお、最後に一つだけ指摘したいと思います。

また、私は、リタリン依存症に陥るとは現在思いませんが、それは甘いのでしょうか。

それはやはり甘いです。依存症に陥った人は誰でも、自分は依存症には陥らないと当初は信じているものです。あなたも注意が必要です。しかしここで大切なことは、

また、私が診察を受けている先生も、これまでの診察からは、非常識な処方をなさる方だとは思えません。結果として私が1日中起きていられるようになったのですから、これ以上量を増やされるとも思えません。 

この医師の姿勢です。処方する医師が、乱用や依存の可能性について慎重である限り、リタリンについてはそうした問題が生ずる可能性は低いといえます。ですから、この医師の治療を受け続けている限り、あなたがリタリン乱用や依存に陥る可能性は低いでしょう。(それでもあくまで「低い」にとどまります。ゼロではありません)

なお、さきほど最後と言いましたが、もう一つだけ、今後こそ本当に最後に付け加えます。

薬には「適応外使用」というものがあるのをご存知でしょうか。
医師が処方する薬はどれも、適応が厳密に定められています。つまり、ある一定の診断名がついていなければ、その薬を処方することは出来ないことになっています。この「一定の診断名」が、その薬の「適応」ということになります。しかし実際には、公式には適応となっていない病気に、その薬が効くことは非常によくあります。たとえば、抗精神病薬は、幻覚や妄想といった症状によく効きますが、多くの抗精神病薬の適応は「統合失調症」だけですので、せん妄による幻覚妄想(たとえば【1079】)や、他の病気や原因による幻覚妄想(たとえば【0197】)には、抗精神病薬は使えないということになります。けれども現実には、適応になっていない診断名でも、その薬を使うことが慣習として容認されているケースはよくあります。よくありますというより、ごく一般的にあるといってもいいかもしれません。効くからです。

ですから、リタリンの適応からうつ病が外されたとしても、発売中止になるわけではなく、「ナルコレプシー」という適応で、リタリンそのものは存続するわけですから、適応外使用として、うつ病が容認されることもあり得ます。そんなことをしたら適応を外した意味がないではないかと思われるかもしれませんが、現実はそういうものではありません。うつ病を適応から外すのは、乱用を減らすことが目的ですから、(いかなる対策を取っても、ゼロには出来ません。減らすことが出来るだけです)、乱用が一定数だけ減少していれば、うつ病への適応外処方は慣習として容認されることも考えられます。考えられますが、今のところ、どうなるかは予想できません。

ところで、この慣習の不条理な点は、それまで容認されていた適応外使用が、ある日突然、厳しく取り締まられるようになることがよくあることです。
そうしますと、一転して医療費の不正請求ということになります。
たとえば、この【1289】の主治医の先生が、あなたにはどうしてもリタリンが必要と判断し、あなたにナルコレプシーという虚偽の診断名をつけて、リタリンを処方し続けたとします。他のうつ病の患者さんにも、必要な場合は同様の処理をしたとします。
この処理による保険請求が、ある時までは容認されていたものが、ある日突然、容認されなくなるかもれません。
そうするとこの先生は窮地に陥ります。「○○クリニックの××医師、医療費を累積△百万円不正請求」という非難を受けることになります。新聞に出るかもしれません。

ではどうするべきでしょうか。

法を厳密に守り、うつ病にはリタリンを処方しないという規則を守り通し、病状の悪化を放置するか。
悪徳医師などの汚名を着せられるリスクを背負ってでも、治療上必要な場合にはうつ病にリタリンを処方するか。

どちらが良い医師と言えるでしょうか。



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