精神科Q&A

 【1079】背骨の手術後の幻覚


Q: つい4日ほど前に祖母(70歳)が背骨が曲がっていたため整形外科にて手術を受けたのですが(10時間程度の手術で麻酔以外にも麻薬的な薬も合わせて使用)、2日程度たった後からわけの分からないことを言い出しました。(幻覚を見ているようです)
人の判断などは問題ありませんが自分のいる場所など完全に混乱しているようです。病院の医師はこのようなことはたまにありますと説明しそちらの精神的なケアは何もしてくれておりません。
こちらのサイトなどを見てもどう見ても「せん妄」のように思います。早期治療が必要とのことですが具体的には入院中にはどのような対応をすることが良いのでしょうか?医師は退院後の老人ホーム的な確保の準備をしたほうが良いと助言していますが...


林: ご指摘のとおり、これはせん妄でしょう。せん妄は基本的には自然に治りますので、

病院の医師はこのようなことはたまにありますと説明しそちらの精神的なケアは何もしてくれておりません。

このように放置されることも多く、それでも多くは問題ありません。
ただし、そうは言っても早く治るにこしたことはありません。せん妄への対応としては、
(1) 原因の除去
せん妄の原因は多種多様で、心身に対してストレスになるものはどんなものでも原因になり得ます。この【1079】で考えられる原因は、手術による心身のストレス、薬、手術後の状態(整形外科の手術の後では、一定時間、動くことをかなり制限されることがあります。これはせん妄につながります)、入院という環境、などです。このなかには、状況的にやむを得ないものもありますが、除去できるものはできるだけ除去することです。
(2) 不安や、錯覚につながるものの除去
せん妄は夜に悪くなることが多く、これは暗くなることで錯覚などを起こしやすくなるためと考えられます。ですから、ときには夜も電気をつけて明るくしておくことが、せん妄の防止になることがあります。また、不安を軽減するためには、ご家族がそばにいて、何事も大きな声ではっきりと伝えることが役に立ちます。
(3) 見当識を取り戻すよう促す
今がいつで、今いるところがどこで、どんな状況かがわからないとき、見当識が失われているといいます。せん妄ではほぼ常に見当識が失われており、この【1079】も例外ではありません。ご本人の目につくところに、字の大きなカレンダーや時計を置くことが、見当識の回復に役立つことがあります。
(4) 昼起きて、夜眠るようにする。
せん妄は、睡眠と覚醒のリズムの障害に関係しています。このリズムを正常にするためには、昼間にはなるべく起きているようにさせ、眠るのは夜だけにするようにすることです。
(5) 抗精神病薬
軽いせん妄であれば薬で治療する必要はありませんが、幻覚妄想や興奮が強い場合は、【1053】にお書きしたように抗精神病薬による治療が必要になります。

 以上がせん妄への対応のポイントです。
 なお、最初にもお書きしたとおり、せん妄は基本的には完全に回復するものです。せん妄そのものが原因で認知症になることはあり得ません。ただし、もともとあった認知症が、せん妄をきっかけにはっきりしてくることはあり得ます。
 この【1079】では、手術前に特に問題がなかったのであれば、たとえ現在が強いせん妄であっても、完全に治ると推定するのが常識です。ですから、

医師は退院後の老人ホーム的な確保の準備をしたほうが良いと助言していますが..

この助言は全く不可解です。何かこのメールに書かれていない、認知症の発症を疑わせる重要な情報でもあるのでしょうか。
それに、手術前の生活に戻れてはじめて手術が成功したといえるわけですから、もし手術をきっかけに老人ホームに入ることになれば、それは手術の失敗であるということになります。外科医であればそういう事態は何としても避けたいはずで(手術そのものが成功して、たとえばこの例なら腰が治っても、生活レベルが落ちてしまっては何もならないわけです。生活レベルを無視して手術そのものの成否だけを問題にするようでは、良い外科医とはいえないでしょう)、「老人ホーム的な確保の準備をしたほうが良い」という助言は、手術は失敗でしたといっているようなものですから、その意味でも不可解です。


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