精神科Q&A

 【1146】億劫感だけが残っている私はうつ病? 擬態うつ病?


Q41歳の女性、自営業、夫と二人暮しです。

何度も迷ったすえ、相談をさせていただこうと作文を始めました。これを書くのに2ヶ月ほどもかかってしまいました。なんとか、この状態から抜け出したいのです。

10年ほどの間うつ病で心療内科に通院しています。その間、引越しで3回主治医が変わっており、現在はほかの病気(昨年発病した膠原病)の通院日に合わせて遠方の大学病院の精神科に通院しています。

うつ状態は、よくなったり悪くなったりで、完全に治った(と思えた)ことはありません。現在の具体的な症状は、何をするのも億劫、楽しくない、人としゃべりたくない、ほとんど外出できない、などです。難しい本を読んだりテレビを観ることは、以前は苦痛でしたが最近まぁまぁにできるようになってきました。抗うつ剤は、最初の病院で何種類も変わり、そこである程度処方が固まりました。原因不明の背中の痛みもあるので、鎮痛剤も入っています。
・パキシル 40mg/Day
・レキソタン 1mg/Day
・テルネリン 3mg/Day
頓服で
・ソラナックス0.4mg
・ボルタレン 25mg
・アモバン 7.5mg

うつになった原因は最初は仕事が忙し過ぎたことがきっかけだと思いますが、これは現在は解決しています。今も解決しない問題は2つあります。離婚が原因で多額の債務(住宅ローン)を抱えて8年ほどになります。また、ここ3年ほどで病弱になったため、ほとんど働けなくなりました。現在は貯金を取り崩して生活しています(ローンの清算ができるまでは、内縁の夫から経済的に独立していたいのです)。

先生の本を読み、サイトを拝見し、自分は擬態うつ病なのではないかとも思うようにもなりました。何故かというと、自分のような問題を抱えた人など、世の中にたくさんいるはずで、それでも皆さんちゃんと働いていらっしゃるではありませんか。それに、背中の痛みや、億劫で動けないというのが、夫によると、かなり「都合がよい」ように見えるというのです。確かに、何か面倒なイベントがあると、それを乗り切れないときもあり、たいがい身体の不調が原因です。以前はそんなことはありませんでした。

毎日目が覚めると暗い気持ちになり、何もしたくないし、誰にも会いたくないのです。夫にすら、びくびくしながら(怠けていると思われるのがいやで)生きています。外出も億劫で、月に2,3度しか出かけられません。病院の予約すら延ばし延ばしにすることもありました。予定だけはどんどん蓄積していきます。以前はそんな人間ではありませんでした。何もかも面倒ですし、この状況から抜け出せる方法が見つからないので、死にたいと思うこともありますが、色んな人に迷惑をかけると思うと、最低限片付けてからでないと死ねない、と思いとどまります。

億劫さですが、それは自分に対して甘く、心身ともに病気に負けているからだとも思いますし、夫にもそう言われます。約束した日に一緒に外出できずに何度も機嫌を損ね、自分はだめな人間だとますます落ち込みます。軍隊に入れば治る、と言われると、そうかもしれないとも思います。自分には「アドレナリン」が足りないのだと、主治医と相談し、試しにとトレドミンを最高量まで試したこともありますが、幻聴や錯乱状態などの副作用があっただけで、効果は感じられませんでした。(ルボックスも試したことはありますが、副作用の低血圧がひどく早期に中止になりました。)

先生のサイトで、擬態うつ病では?という質問に対し、うつ病の回復期に、最後まで「億劫さ」が残ることがある、というご回答を何度か見つけては、もしかすると今の私はその状態なのだ、とほっとしたりします。主治医は、焦らないでゆっくりいきましょう、と言ってくださいますが、いつまでこの状態が許されるのか、自分でも疑問です。ローンの問題などは、事情があって解決までに何年もかかるかもしれません。昨年発病した病気も、一生つきあう病気だそうです。それなりに「問題と一緒に生きていこう」と気持ちを切り替えようと努力はしています。

実は現在の主治医には話しにくくて話していないのですが、前の主治医から途中まで処方されていたリタリンがまだ残っており、どうしても出かけなくてはならない日(冠婚葬祭や引越しなど)は、それに頼っています。リタリンを飲むと倒れるまで動くことができます。常時飲みたいとは思いませんので中毒ではないと思っています。リタリンなしで動けるようにならなければいけない、何故なら主治医が一度は中止し、現在は処方されていないのだから、リタリンなしでも動けるということだ、と考えるからです。しかし、それ以外にどうしたら「億劫さ」から抜け出せるのか、まったく分かりません。ヒントになりそうなのは、必要に迫られてリタリンを飲むと、翌日疲れて寝込むこともありますが、億劫感は少し減っています。薬の力を借りたとはいえ、一応、何かをやり遂げたという事実がプラスに働いているような感じです。

現在の主治医に億劫さの件を訴えても、「ゆっくりと焦らずに」しか言っていただけません。一体、あと何年このままなのか、と思うと生活も不安でなりません。

何度推敲してもこのような文章でまとまりがなく申し訳ありません。
・「億劫さ」がつらくてたまらないが、どうやって解決したらよいのか?リタリンはいけないのか?
・原因が解決しなくても、うつ状態から脱することはできるのか?
主治医にどのように相談すべきかでも構いません、どうかご教示ください。


林: 症状としては、うつ病だと思います。ただしこのケースでは、

現在はほかの病気(昨年発病した膠原病)の通院日に合わせて遠方の大学病院の精神科に通院しています。

この膠原病が大きなポイントになる可能性があるのですが、それは後でふれるとして、まずはうつ病であるとして回答します。

先生の本を読み、サイトを拝見し、自分は擬態うつ病なのではないかとも思うようにもなりました。何故かというと、自分のような問題を抱えた人など、世の中にたくさんいるはずで、それでも皆さんちゃんと働いていらっしゃるではありませんか。

すでに回答してしまいましたが、あなたは擬態うつ病ではなくうつ病だと思います。そう判断する理由は、経過と症状がかなり典型的なうつ病に一致しているからです。
特に億劫さだけが残っているのも、うつ病らしいところです。

先生のサイトで、擬態うつ病では?という質問に対し、うつ病の回復期に、最後まで「億劫さ」が残ることがある、というご回答を何度か見つけては、もしかすると今の私はその状態なのだ、とほっとしたりします。

これは【0986】などのことを言っておられるのだと思いますが、この【1146】も、うつ病で億劫さだけが残った、比較的よくあるケースだと思います。そして、上にあなたがお書きになっているように、このような経過はうつ病ではあり得るということを知識として持っていても、それでも自分は擬態うつ病(2007年3月、復刊されました)ではないかと思う、このことも実にうつ病らしいところです。

現在の主治医に億劫さの件を訴えても、「ゆっくりと焦らずに」しか言っていただけません。

ゆっくり焦らずに、これは正しいアドバイスです。しかし、

一体、あと何年このままなのか、と思うと生活も不安でなりません。

という気持ちもわかります。
ゆっくり焦らずに治療を受けたほうがいいというのは事実ですが、この【1146】ではすでに10年が経過しており、ゆっくりといっても限度があるでしょう。

今の状態を、より早く改善するにはどうするか。それをお答えするには、これまでの治療歴についての情報が必要です。それがありませんので、お答えすることは無理です。一般的にお答えするとすれば、今の処方をみますと三環系抗うつ薬が出されていませんので、当然次は三環系抗うつ薬に切り替えるということが考えられますが、これまでにそれがなされていたのか、そしてその場合に量と期間は充分だったのか、それがわかりませんので何ともいえません。仮にこれまであらゆる薬物療法が試みられていたとすれば(それには、抗うつ薬の増強薬としてのリーマスなども含まれます)、電気けいれん療法を考慮することになるでしょう。
 それから、

・ 「億劫さ」がつらくてたまらないが、どうやって解決したらよいのか?リタリンはいけないのか?

リタリンも、慎重に用いれば、充分に効果が期待できます。頭からリタリンを否定する必要はありません。【1059】などもご参照ください。リタリンの恐ろしい副作用として【0680】【0993】などをお読みになると、リタリンは悪い薬という印象を持たれるかもしれませんが、恐ろしい副作用があり得るという意味では、リタリンに限らず他のどんな薬でも同じです。抗うつ薬では【0581】のような例もあります。慎重に用いなければ、どんな薬にも軽視できないリスクはあるということです。

・原因が解決しなくても、うつ状態から脱することはできるのか?

できます。
これについては【1000】をご参照ください。

以上、この【1146】の診断をうつ病であるとして回答してきました。
しかし最初に申し上げたとおり、診断にはひとつ問題があります。それは、

現在はほかの病気(昨年発病した膠原病)の通院日に合わせて遠方の大学病院の精神科に通院しています。

この膠原病です。
具体的には病名は何でしょうか。そしてどんな治療を受けておられるのでしょうか。病気の頻度という点からは、SLEなどが予想されます。そしてSLEでは、中枢神経系の症状として、うつ病に似た状態になることがあります。さらに、SLEの治療薬としてのステロイドでも、うつ病に似た状態になることがあります。
 つまり、この【1146】の診断は、もしかするとうつ病ではなく、SLEによる精神症状、あるいはSLEの治療薬による精神症状である可能性もあると思います。
 うつ病の治療をはじめたのは10年前とのこと、メールの文面からは、その時点では膠原病の治療は受けておられなかったと推定されますので、そうすると治療薬の副作用の線は一見消えそうですが、治療薬がうつ病を治りにくくしている可能性はまだ否定できません。

というわけで、この【1146】のケースでは、膠原病の状態と、その治療の影響を考える必要があります。だとしても、ここまでの私の回答内容は有効ですが、それに加えて、膠原病のことを考慮しなければならないでしょう。


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