精神科Q&A

【1000】原因が解決しないとうつ病は治らないのでしょうか


Q:  私は35歳の女性です。1年半前に、主人(同じ年)が、勝手に好きな女性ができたといって家を出ていき、それ以来、不眠、食欲不振、無力感、なにもしたくない、うごきたくない、だれにもあいたくない、自殺願望、常に焦燥感におそわれていてもたってもいられない、という状況が続き、昨年春に心療内科を受診しました。 

私には子供はおらず、フルタイムで働いており、主人とはいわゆるDINKSで結婚6年目で、夫婦仲はうまくいっていたと思っていたところの晴天の霹靂な出来事でした。 
そのショックと、突きつけられた現実を認められることができず、うつ状態(うつ病)になったのだと思います。 

その時受診した医師からは、レキソタン、ルボックス、ドクマチールを処方されました。具体的な量は覚えていませんが、安定剤などを飲むのがはじめてということもあり、最小限の量だったと思います。 

しかし、のんでも余計に気分が悪くなり、きいている感じがまったくせず、しかも眠くて仕事にならないので、1週間ほどで服用をやめました。最初の医者にカウンセリングをされて、「よくならないのは病気を盾にしてご主人に戻ってきてほしいから自分から直ろうとしないせいだ」といわれたことで、心療内科に対して非常に不信感を抱いてしまったのもあると思います。 
最初に病院にいったのが2年前の春、すぐに薬はやめ、その後1年2か月は薬なしでくらしてきていたわけです。 

投薬をやめたのは薬に対する抵抗感があったのも事実です。その後、バッチフラワーや、ホメオパシー、アロマテラピーなど代替療法をためしたりしてごまかしごまかし1年2か月をすごしてきました。本当になんとか1日1日を、死なずに終わらせるのが精一杯、という感じでした。少しずつ軽くはなってはいるものの、不安感、焦燥感に襲われ、仕事中や友人とあっている時でも涙が突然でてきていてもたってもいられなくなったり、休日はベッドから一歩もでずに過ごす、という日々でした。 

その間、私が勤務していた会社に大規模リストラがありその対象となって失業者になったりで、人生自体に大きな異変がありました。それでもなんとか「自分が働いて生きていかなければならない」という意志と、たったひとつ私に残された飼い猫のために「ここで死ぬわけにはいかない」という命の責任を感じて頑張れたということもあると思います。 

それでもなんとか昨年の春には新しい職につくことができ、新しい環境に慣れることに意識がいき、それから3ヶ月は薬がなくとも不安感も焦燥感も不眠もなく、かなり正常な精神状態で過ごすことができました。新しい職場の人間関係も仕事にもさして不満もストレスもなかったのが本当に幸いだったと思います。 
この時期はこれまでのうつ状態が嘘のように、スポーツクラブに通ったり、友人と旅行にいったり、それまでとは考えられないほど躁状態ですごしていました。 仕事が終わったあと、くたくたなのにかかわらずスポーツクラブでエアロビクスを1時間もやったり、心身共にかなり躁状態でした。 
この時期は自分が病気である、ということは考えもしませんでした。時折病気のことを思って「自分の病気は直ったのだ」とさえ考えました。 

ところがその反動だったのでしょうか? 昨年の夏、ささいなことがきっかけで、またうつ状態に入ってしまったのです。突然おそう焦燥感、不安感、不眠。 会社でも会議中に急に涙が流れたり、過呼吸で会社で倒れてしまったことさえありました。当然仕事の能率もさがり、せっかく得た新しい職場でも働き続けられるか不安で、それが相乗効果となり、さらに不安スパイラルにおちていきました。 

この状態は1年前の状況よりもきついものに感じられ、心配してくれた友人の薦めもあり、今度は違う心療内科を受診しました。 
これまでの事情を説明し、ルボックスなどの薬があわなくて気持ち悪くなったこと、などを話し、今度はアモキサン2錠(1日に)、パキシル(1日に2錠)を処方されました。 

まず1週間ほど飲みました。これが驚くほど劇的にきいたのです。ただ、アモキサンは飲むと眠くて仕事にならず、便秘など不快な症状もあったので、医師に処方を変えてもらいパキシルだけにしたら、1日1錠の服用だけで、それまでが信じられないほど、元気になったのです。主人との問題が起こる前の、生き生きした自分に戻れたとまでいっていいほど、まるで霧が晴れたかのようでした。 
いったい自分はなんであんなに苦しかったんだろうと。 

それから4か月、パキシル1日1錠を飲み続けました。まったく問題なく、以前のような躁状態もなく、本当に正常な精神状態で生活できたことがとてもうれしかった。 
ただ、副作用なのか、寝汗をかいたり(これまでにそんなことはほとんどなかった)、うなじに火照りをかんじたりその部分だけ過剰に汗をかいたり、ということはありました。でもそれ以外は副作用もなく、「こんな薬があるなら1年半前にのみたかった」と医師に話したほどです。その間、海外旅行にいけるまで回復しました。あれだけ無気力で動けなかったのがウソのようでした。 

しかし「自分はいつまでこの薬をのまなくてはいけないのだろう」という不安が持ち上がってきたのも事実でした。自己判断で薬をやめるのは悪い、とは思いながらも、仕事が多忙になっていたこともあって、2週間に1度の受診を怠り、1週間、薬なしで過ごしたのです。自分でおぼろげに「でも4か月あれだけ元気な自分を取り戻したのだからもう治りつつあるから薬やめても大丈夫かも」という意識もありました。 

ところがちょうど薬をやめた1週間後の今朝のことです。ひさしぶりに不快なめまい(軽いものですが)がおそい、くらくらして自分でも「これはまずいかも」と感じだしました。そう思い出すとどんどんまたネガティブな感情がおそってきます。涙がでてきて、焦燥感からわけなく友人に電話かけて泣き出している自分がいました。耐えられなくなり、以前の経験からアモキサンは速効性があったのを思い出し、残っていた1錠を服用し、なんとかしのいでるところです。 
やはり自分はまだパキシルはやめてはいけなかったんだと、理解しています。 

長くなりましたが、以上が私の病状の経緯です。お聞きしたいのは 

(1) 医師にも「あなたはパキシルがあっているようだから飲み続けるのがいい」といわれて自分でもそう思っています。でもいつまで、飲み続ける必要があるのでしょう? 
(2) こういったうつ状態は、根本的な自分の問題、つまり私の場合なら、主人との問題が、自分が納得のいくほうに解決(わたしは主人とやり直したいと思っています)しなければ、「治る」ことはありえないのでしょうか?薬だけで、現実の状況が変わらなければ、完治ということはないのでしょうか?つまり主人とやり直せなければ一生治らないのでしょうか? 薬だけでは完治は無理ですか? 
(3) もともと私は健康で薬をほとんどのんだことがなく(花粉症の薬程度です)、歯科医で抜歯する麻酔も子供の分量で十分きくくらいなのです。だからパキシル1錠という、他の方からみたら非常に少ない処方量ですが、きいてるのだと思います。しかし今後耐性ができ、増えていくことも考えられますか? 
(4) 代替治療を試してみましたが、一般的にうつ病に効果は認められるのでしょうか?自分ではきいたのかきいてないのかわからないけど根本的には直っていません。 
(5) 最後ですが、私のような、非常にわかりやすいきっかけがあってうつ状態になった、というものも「うつ病」とよんでいいのでしょうか?根本的な原因(主人の女問題)が解決すれば完治するのかもしれませんが。 

このサイトの先生のお話を読んでいると「うつ病の発症原因は単なるトリガー(きっかけ、誘因)にすぎなくて、もともと発病する要因が気質の中にあったのだ」とあります。 
これが自分にはどうしてもそうだとは思えません。 
となれば私のような事情でうつ病になる方を私は何人かお会いしてきましたが、彼らももともとの気質に「うつ」をあったということなのでしょうか?逆に同じような状況であってもうつにならない人はうつ気質はもっていない人間、ということなのでしょうか? 
先生の見解をお聞かせ願えたらとおもいます。 



林: 
(1) 私のようなうつ状態は、根本的な自分の問題、つまり私の場合なら、主人との問題が、自分が納得のいくほうに解決(わたしは主人とやり直したいと思っています)しなければ、「治る」ことはありえないのでしょうか?薬だけで、現実の状況が変わらなければ、完治ということはないのでしょうか?つまり主人とやり直せなければ一生治らないのでしょうか? 

これは、うつ病とうつ状態の違い、さらにはうつ病の原因と誘因の違いに関係した問いで、精神医学にかかわる根本的な重要問題といえます。したがって解説しようとすると複雑になるのですが、あえて簡明にお答えすると、あなたのうつ病は、ご主人との問題が解決しなくても治ると思います。その理由は、あなたも書いておられるように、うつ病の「原因」のように思える出来事は、実は原因というより「誘因」にすぎないからです。【0859】もご参照ください。
 けれども、あなたは次のように書いておられます。

このサイトの先生のお話を読んでいると「うつ病の発症原因は単なるトリガー(きっかけ、誘因)にすぎなくて、もともと発病する要因が気質の中にあったのだ」とあります。 
これが自分にはどうしてもそうだとは思えません。 


つまり、うつ病についての知識として、その発症原因は「誘因」にすぎないということは知っていても、納得できないということですね。その理由をあなたは次のように書いておられます。

となれば私のような事情でうつ病になる方を私は何人かお会いしてきましたが、彼らももともとの気質に「うつ」をあったということなのでしょうか?

この一文には、あなたの誤解があると思います。私がそう考える理由は、「私のような事情でうつ病になる方を私は何人かお会いしてきました」という部分です。特に医療関係者でないあなたが、うつ病の人に何人もお会いしてきたということは、普通は考えられません。あなたがお会いしたとおっしゃる「うつ病」と称する人々の多くは、単なる落ち込みとしてのうつ状態、あるいは擬態うつ病であったとみなすのが妥当だと思います。うつ病は、一般に言われているほど非常に多い病気ではないからです。
私のような事情で」とは、あなたの経験された出来事(何のまえぶれもなく、配偶者に見捨てられる)に匹敵する出来事を指していると読み取れます。だとすれば、そのような事情があれば誰でも落ち込むのは自然です。ここまでは、その人の本来の気質にはあまり関係はないでしょう。しかし、その結果うつ病になるかどうかということになると、明らかに個人差が出てきます。あなたのケースでは、うつ病を発症していたと判断できます。それは、やはりあなたの中にそうした気質が存在したとみなすべきです。

逆に同じような状況であってもうつにならない人はうつ気質はもっていない人間、ということなのでしょうか?

その通りです。そして、これが「その通り」というのは、単なる学説とか考え方などの問題ではありません。逆にお聞きしますが、「同じような状況にあってもうつにならない人」が存在することの理由を、他の何かで説明できるでしょうか。論理的に不可能です。となれば、もともとの気質によって、うつ病になるかならかないかは決まるということになります。
 この「気質」の本態が何であるか、これは現在世界中で精神医学の研究テーマになっています。脳内に何らかの違いがあることは確かです。その違いは、もともと持っていた遺伝子と、それまでの生活史の相互作用によって作り出されたことも確かです。これらが実際には何であるかが明らかになれば、うつ病のより有効な治療や、さらには予防法の開発にもつながるでしょう。きわめて重要なテーマであると言えます。


(2) 医師にも「あなたはパキシルがあっているようだから飲み続けるのがいい」といわれて自分でもそう思っています。でもいつまで、飲み続ける必要があるのでしょう?

うつ病がよくなってから、どのくらいの期間抗うつ薬を飲み続けるべきかについては、はっきりした定説がないことはうつ病の相談室p.119〜にもお書きしたとおりです。一般には、何ヶ月かは続けることが望ましいと私は考えています。再発を何としてでも防ぎたい場合には、同じ量をずっと飲み続けることが確実であることを証明した研究はいくつもあります。けれども実際にはずっと飲み続けることが勧められるのはむしろ稀です。
ただあなたのケースでは、薬を中止するのが早すぎ、その結果、うつ病が治りにくくなっているようです。

自己判断で薬をやめるのは悪い、とは思いながらも、仕事が多忙になっていたこともあって、2週間に1度の受診を怠り、1週間、薬なしで過ごしたのです。自分でおぼろげに「でも4か月あれだけ元気な自分を取り戻したのだからもう治りつつあるから薬やめても大丈夫かも」という意識もありました。

このような形で薬を早期に中止し、その結果再発するというのは残念ながらよくあるパターンです。あなたの経過もその典型例と言えます。今後は主治医の先生とよく相談しながら慎重に薬物療法を続けることをお勧めします。

(3) もともと私は健康で薬をほとんどのんだことがなく(花粉症の薬程度です)、歯科医で抜歯する麻酔も子供の分量で十分きくくらいなのです。だからパキシル1錠という、他の方からみたら非常に少ない処方量ですが、きいてるのだと思います。しかし今後耐性ができ、増えていくことも考えられますか? 

まず考えられません。

(4) 代替治療を試してみましたが、一般的にうつ病に効果は認められるのでしょうか?自分ではきいたのかきいてないのかわからないけど根本的には直っていません。 

うつ病に有効な代替治療は現時点では存在しません。時間とお金の無駄です。

(5) 最後ですが、私のような、非常にわかりやすいきっかけがあってうつ状態になった、というものも「うつ病」とよんでいいのでしょうか?根本的な原因(主人の女問題)が解決すれば完治するのかもしれませんが。 

これは(1)にも関連する重要な問いです。ここでもあえて簡明にお答えしますと、あなたのケースもうつ病とよんでいい、というより、うつ病であるといってまず間違いないでしょう。メールに記載されている症状がほぼ典型的なうつ病であることからそのように言うことが出来ます。繰り返しになりますが、あなたの「非常にわかりやすいきっかけ」は、うつ病の原因ではなく誘因です。

根本的な原因(主人の女問題)が解決すれば完治するのかもしれませんが。

このようにお考えになる方が多いのですが(そして、このようにお考えになるのは全く自然のことですが)、誘因(「根本的な原因」ではありません)が解決して、これで完治するはずだと思ったのに、意外にもそれだけでは完治しないのが、うつ病が病気である所以です。そして逆に、誘因が解決しなくても、うつ病という病気は治ります。

ただし、ここまであえて説明せずにすましてきたのですが、ここまでの回答はすべて「うつ病」に関することです。つまり「うつ病」という病的な状態に関することです。
 うつ病より広い範囲を指す言葉であるうつ状態になると、事情は少々違ってきます。あなたのように非常に悲しい出来事を体験された場合、それによるいわゆる「心の傷」は、表面的にはほとんど見えなくなっても、心の深いところにはいつまでも残っているかもしれません。これはある意味で文学的、とまでは言えないまでも、非科学的な言い方にも思えますが、案外逆にもっとも科学的な事実かもしれません。

それはそれとして、病的な状態であるうつ病のほうは、誘因が解決されなくても、正しい治療を続ければ治ります。これからも慎重に治療を続けることをお勧めします。



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