【4141】境界性人格障害だと思われる母に、そのことを告げるべきでしょうか

Q: 私は34歳、母が55歳なのですが、母が境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)だと疑っています。
理由をあげると

・結婚離婚を繰り返していて、今まで4人と合計8回ほど結婚離婚をしています。
高校生のときに妊娠して結婚、私と姉を産んで5年ほどで別居、その後離婚し結婚まで行かなくても常に恋人がおり、複数いるときもあります。今も結婚しそうな相手がいます。

・怒りを抑えることが苦手どころか、不可能に近いです。怒りちらし暴れることは日常です。 一番怖かったのは、母が車を運転していて私と祖母祖父が乗っていたときです。高速道路移動中だったのですが、私が理由すら忘れるほど些細なことで怒りはじめ、なだめても大声を張り上げ怒り続け 「事故起こしてお前ら全員殺してやろうか!!」と連呼しはじめたことです。
こういった、心中してやるみたいな脅しはよくあります。ただし、怒っていないときはとても社交的で気の良いおばさんです。
私や祖父母に対しても、頼んだら色々良くしてくれますし、頼まなくても自ら「○○してあげようか?」などと言ってきます。

・嘘、見栄、誇張、事実誤認が酷いです。
母は無職なのですが、知り合ったおばさんに「私は株で儲けて生活してる」や「会社の社長をしている」と言ったり、家族や親しい仲の人に対しても、とても細かい、自分を悪く見せないような嘘をつきます。
私はずっと気づいてなかったのですが、他の家族の話とどうも食い違うことが多く、確かめる癖をつけてから気づきました。

・否定されることを病的に嫌います。
そんな母親なので、家族からも苦言を呈されることが多いのですが、絶対に非を認めないし、逆に怒り出して収集がつかなくなることが多いです。私と姉に対しては多少立場が弱く、怒りださないこともあるのですが、完全に無視するか、話をそらすか、頭が痛いからやめて!!など体調不良などを訴えてきます。

・とても仲がよく、「すごい良い人!最高に気が合う!」と言っていた人のことを急にボロクソに言い出すことがあります。早いときは1年、長くてもだいたい5年以内に、とても仲が良かった人と喧嘩別れします。

昔は、自己愛性人格障害かもしれないと考えていたのですが、年をとってからはちょっと違うところが見えてきました。
私や姉が母と喧嘩したあと、なぜか祖父母に怒り出すということが日常的にあることを知りました。
「お前らが私の悪口をふきこむから、息子に嫌われた」「お前らが変な育て方をしたせいだ」などと、私や姉とうまく行ってないことを怒りだすらしいのです。
これは境界性人格障害の見捨てられ恐怖なのかな、と思いました。見栄や嘘も、見捨てられ恐怖からきているのかもしれない、と。
それからは私との関係はかなり改善し、一応信頼されているのか、かなり弱みを見せてさまざまな相談をしてくるようになりましたし、私に直接怒ることは少なくなりました。

もう80になる祖父母を色々なところへ旅行へ連れて行ったり、病院へ連れて行ったり、倒れたときは毎日病院にお見舞いにいったり、尽くすときは熱心に尽くす母ですし、特に問題がないときはうまく行っています。

私はもう慣れたし、めんどくさくならないよう適度な距離感を保っているので問題になっていないのですが、とても頻繁に癇癪を起こすことで祖父母や親戚がストレスになっていることや、交際相手とまたうまく行かないこと、これからの母の人生も考えるとどうにかしたいとも思います。

ですが、母親は高校中退で文章などを読むのも苦手ですし、自分に否定的な話はきかないしすぐ忘れます。
精神科に行ってといってもはぐらかすか怒るかだと思います。
気が向いたときに行ってくれると良いのですが、人格障害への理解もないですし、逆に「私は精神病なんだ!頭がおかしいんだ!」と、自尊心が傷つけられ、さらに悪化するかもという懸念もあります。
それに、精神科に行ったところで人格障害が治るのか?という疑問もあります。

 

林: お母様には、確かに境界性パーソナリティ障害の特徴が認められます。
また、

昔は、自己愛性人格障害かもしれないと考えていたのですが、年をとってからはちょっと違うところが見えてきました。

とのことですが、そもそも境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害はかなり近縁のものです。診断基準に記載されている項目を比較すると全く別ものに見えないこともありませんが、実際の臨床例ではどちらであるか区別不能のことも多いものです。そして公式の診断基準ではどちらもB群パーソナリティ障害に分類されています。(B群パーソナリティ障害には、これらのほかに、演技性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害含まれます)。B群パーソナリティ障害は、いずれも、感情的・演技的といった特徴を持っています。そんな中で、たとえば自己愛性パーソナリティ障害であれば、特に自己愛が強いという側面を持っている一群ということになりますが、この【4141】のケースのように、時期によって自己愛が前面に出たり境界性パーソナリティ障害らしさが前面に出たりという経過を取ることは少なくありません。

境界性パーソナリティ障害は、若いときにかなり激しい精神症状を呈していても、年齢とともに落ち着いていくケースもかなりあることがわかっています。(B群の他のパーソナリティ障害の経過については、まだ信頼できるデータの蓄積がないのでわかりません)
しかしこの【4141】のケースは55歳でこの状態だとすると、残念ながら著明な改善は望めないというのが現実的な推定でしょう。だからといって精神科受診が無駄であると断ずることはできません。たとえば怒りの爆発を抑える方法などを、時間をかけて身につけていただくことは期待できます。しかしそのためには長期にわたる通院が必要ですので、それができるという見込みがなければ、受診してもあまり意味がないでしょう。

(2020.10.5.)

05. 10月 2020 by Hayashi
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