【4164】 治療をやめて約10年たった息子に被害妄想が再発しているかもしれない

Q: 30歳の長男のことでのご相談です。長男は、大学に入学して後、大学院を修了するまで、自宅を離れ、一人で生活しておりました。大学一年生のときに、「誰かが部屋の中をのぞいている」、「誰も居ないのに、バカと言っている声が聞こえてくる」などと訴えて、本人が病院に行って受診して、薬をしばらく飲んでおりました。私も心配して、何度か病院に一緒に参りました。その折に「何も話していないのに、自分の考えが人に知られてしまっている」などとも申しておりましたので、医師からははっきりと病名は告げられませんでしたが、私は、「統合失調症」との判断のもとでの治療だと思っておりました。ほぼ三ヶ月程度、薬を飲んでおりました。自己臭も気になっているようでした。
その後、症状もなくなったようで、通院も服薬もやめ、就職しました。最初の会社では対人関係等に悩み、「電車に乗っていても会社の人たちが自分のことを悪く言っているのが聞こえてきた」、と言ったときには、再発したのかと心配になりました。

その後、転職をし、現在は大手の企業で会社を休むこともなく、元気に通っております。食欲もあり、不眠等に悩むこともなく、友人たちとのつきあいもあり、その当時心配したことも忘れておりました。ただし、毎朝長時間風呂に入るので、自己臭恐怖はなくなっていないのかと思われることもありました。

一人暮らしをしておりますが、つい最近、自宅に戻ってきたときに気になることを言っておりましたので、再び心配になり、メールを差し上げております。
・会社の寮は、壁が薄く、自分がなにをやっているか周囲の人たちにわかってしまい、翌朝、それが噂になっている。
・通りかかった女性たちが、自分のことを「ダサい」と言っていた。 などです。
それ以外に言動に不審なところはなく、明るく安定しているように思えます。休日などには積極的に美術館や勉強会などに行っているようです。向学心もあり、私としては、とても頼もしい青年になっていると思われるのですが、もしかしたら、被害妄想などがなくなっていないのではと心配になりました。 判断の基準等がわからず、杞憂にすぎないような気もいたしますが、いかがでしょうか。また、治療をしたら、というのは本人を傷つけるようで言いにくいのですが。 なお、親族にはそのような病気を持ったものは皆無であると思われます。 よろしくお願いします。

 

林: 息子さんは質問者のご指摘の通り統合失調症でしょう。3ヶ月ほどの服薬でかなり良くなられたようですが、

最初の会社では対人関係等に悩み、「電車に乗っていても会社の人たちが自分のことを悪く言っているのが聞こえてきた」、と言った

ということからみても、完全寛解ではなく、軽い症状が消長していたと推定できます。
そして最近の、

・会社の寮は、壁が薄く、自分がなにをやっているか周囲の人たちにわかってしまい、翌朝、それが噂になっている。
・通りかかった女性たちが、自分のことを「ダサい」と言っていた。

これらはいずれも統合失調症の症状であるとみて間違いないでしょう。

その一方で、

明るく安定しているように思えます。休日などには積極的に美術館や勉強会などに行っているようです。向学心もあり、

とのこと、症状による日常生活への影響は大きくないことが窺われます。
このような場合、この【4164】の質問者のように、ご家族として、精神科での治療を勧めるかどうかを迷われるのは理解できるところです。実際、軽度の幻覚妄想は持続しつつも、家庭生活や社会生活はほぼ問題なく続けている統合失調症の方も存在するからです。(現代の診断基準上は、そのようなケースは統合失調症とは診断できないことになりますが、脳内のメカニズムとしては統合失調症にほかならないと言えます)

するとこの【4164】のケースが、(1)このまま軽度の症状は消長しつつも基本的に安定が続くのか (2) どこかの時点で重症化するのか のどちらであるかを予想することが必要ですが、現在の精神医学の知見ではそれは予想できないというのが真実です。現実の対応としては、(2)の可能性を考えて、精神科を受診する方が安全でしょう。

なお、(3) 慢性化して人格変化が進むのか。それは治療を受ければ止められるのか、あるいは進行を遅らせることができるのか という問題もあり、これはある意味(1)(2)よりさらに重要な問題ですが、これについても予想できないというのが真実です。

(2020.11.5.)

05. 11月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |