【4165】出会い系サイトで男性を探して遊んでからの離人感

Q: 私は20代女性です。
伺いたいのは、統合失調症の妄想についてです。
病的な妄想とはいったいなんなのでしょうか。

ここ1ヶ月ほど、離人感?のようなものを感じることがよくあります。きっかけとしては、出会い系サイトを使い男性を探して遊んだことだと考えています。
それまでも遊びたい願望は心に秘めていたのですが、実際に行動に移したことにより、性的に奔放な自分を自分で認めた、という認識がその時はありました。

それ以来、どうも自分の脳が変わってしまったような気がしています。

意識ははっきりしており、これは自分だと分かっているのに、なんとなく自分の身体を動かしているのが自分ではないような感覚を覚えたり、テレビでニュースを見て、音声は頭に入ってくるのにそれに対してどのような感情を抱けばよいのか一度考えないと分からなかったり、といったことがあります。

出会い系サイトを使っていたとき、スマホ依存になっていたと自覚しています。
その時、他にやらなければならないことがあったのに、どうしてもスマホを覗くことがやめられず、これは何かがおかしいと背中を悪寒が走ったことがありました。

その時、自分の脳の構造が何かしら変化してしまって、自分の見える世界が変わってしまったのではないかと思っています。

今このメールを打っている自分も、かつての自分とは少し変わってしまっているような気がしています。

具体的には、自分の思ったことを躊躇なく言える気がする、人の言葉にあまり感情が揺り動かされない、といったことです。以前の自分は、いずれも真逆の人間だったと記憶しています。

しかしこれは妄想だと思います。
この妄想は病的でしょうか。私は統合失調症なのでしょうか。そしてこのメールの文章は整っているでしょうか。自分では確信が持てません。

先生のご見解をお聞かせいただきたいです。

 

林: 経過と体験の両面から判断する必要があります。(「体験」というより「症状」といった方がわかりやすいかもしれませんが、「症状」は、病気であることを前提とした表現なので、この【4165】が病気であるかどうかはまだ不明であることから、ここでは「体験」と記しました)

体験については、質問者が「離人感」と表現されている内容、それらは確かに統合失調症の前駆症状としてありうるものです。
しかしその一方で、それらはかなり漠然とした体験であって、統合失調症でなくても現れ得るものであることもまた確かです。
このような場合、本人の主観的な違和感の程度が一つの指標になります。この【4165】では「妄想」という表現が象徴するように、違和感はかなり強いことが読み取れます。そうだとすれば、この離人感は統合失調症の前駆症状であるという判断に傾くことになります。

経過については、何か強いきっかけがあったか否かが一つの重要な情報です。
もし何のきっかけもなければ、統合失調症の発症という判断にかなり強く傾きます。
何かきっかけがあった場合は慎重な判断が必要です。多くの場合、人は、何かきっかけがあれば、それに続く体験(症状に相当するとも言える体験)は、そのきっかけを原因とする心理的な反応であって決して病気ではないと考えるものです。
この考え方は自然ではあるものの危険で、統合失調症をはじめとする精神疾患の発症を見落とす原因になります。それを避けるための方法としては、その「きっかけ」と、それに続く「体験」(「症状」に相当すると言える体験。「症状」と言ってしまったほうがわかりやすいので、「症状」と言い換えても構いません)が、つりあっているかどうかについての検討です。非常に単純化したわかりやすい例を挙げるとすれば、家族が急死された場合、それに続き強いうつ状態になり、場合によっては自殺を考えることは正常な心理的な反応として理解できますが、ではペットが急死した場合に自殺を考えるというのはどうか。もちろん家族同様に暮らしていたペットであればそれもまた正常な心理的な反応として理解できますが、それほどの関係ではなかった場合は、病気が発症したのではないかという判断に傾きます。すなわちこのような場合、「ペットの急死」に続いて「強いうつ状態」になったという時間的関係については確かな事実であっても、「ペットの急死」がうつ状態の真の原因なのか、それとも単なるきっかけにすぎないのかということを、様々な情報・事実に基づいて慎重に考える必要があります。

この【4165】のケースでは、「出会い系サイトを使い男性を探して遊んだこと」に続いて離人感が現れたことが読み取れます。そこまでは事実であるとして、ではその遊びは離人感の原因か、それともきっかけにすぎないのか。これが上のペットの例と同様に問題になります。

しかしここに、さらに重要で見落としやすいポイントがあります。
それは、この【4165】の質問者が「出会い系サイトを使い男性を探して遊んだこと」自体が、すでに精神的な変調の兆しであったという可能性です。
この【4165】の質問者は「それまでも遊びたい願望は心に秘めていた」とおっしゃっています。これをそのまま素直に取れば、「もともと持っていた願望を実行に移しただけ。特に奇妙な点はない。正常の心理に基づく行動の一つ」と解釈できます。
しかし他方で、この【4165】の質問者の性格やこれまでの生活歴からみて、「出会い系サイトを使い男性を探して遊ぶ」ことが、一種の逸脱した行動と言えるかどうかを検討する必要があります。この検討は、本人の主観的感覚だけからは判断困難です。質問者本人は「それまでも遊びたい願望は心に秘めていた」ところ、今回「実際に行動に移した」ことにより、「性的に奔放な自分を自分で認めた」と認識されています。これをそのまま受け取れば、確かにそういうこともあるだろう、というように、誰にでもある一つの脱皮のような経過であるとも解釈できます。
しかし、「遊びたい願望を心に秘めている」ということ自体は非常に多くの人にあることであっても、それを「出会い系サイトを使い男性を探して遊ぶ」という形で実行することまでには飛躍があります。(ここで、飛躍があるかどうかはその人のもともとの性格等によります。上に「性格やこれまでの生活歴」を指摘したのはその意味です)
さらにはここで「遊ぶ」の具体的内容がどのようなものであったかも情報として重要でしょう。

以上がこの回答の冒頭に「経過と体験の両面から判断する必要があります」と記した理由の一端です。長文になりましたがこれは「一端」にすぎません。この【4165】の離人感が統合失調症の前駆症状か否かは、かなり時間をかけた診察を行わなければ不可能だと思います。現時点で精神科を受診したほうがいいかどうかは何とも言えません。しかし今後、同じ状態が長く続いたり、違和感が強まったり、関係念慮などの症状が現れた場合は、早めに精神科を受診することをお勧めします。

(2020.11.5.)

05. 11月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , , |