【4100】自己免疫系疾患とうつ病の関連について

Q: 30代男性です。 【3962】甲状腺疾患と統合失調症様症状についてについて、自分にも思い当たることがあり、質問させていただきます。

現在、私は尋常性乾癬、橋本病、うつ病の3つを患っております(それぞれの診断や経過については後述します)。
お聞きしたいのは、これら3つの病気(尋常性乾癬、橋本病、うつ病)が、それぞれ別のものではなく、より大きな(大局的な、という意味合いです)病気の諸症状ということは考えられますか?

相互干渉的な面がある(特に橋本病とうつ症状)ことは承知しています。ここでは相互干渉ではなく、1つの(見逃されている)病気の諸症状である可能性をお尋ねしたい次第です。

【経過1.尋常性乾癬】
最初に症状が出たのは尋常性乾癬で、22歳頃より頭皮や臀部がカサブタ状に剥がれることから、この診断となりました。現在も症状は続いておりますが、ステロイドとボンアルファの外用によりコントロールしている状態です。

【経過2.うつ病】
次に症状が出たのはうつ病です。26歳頃(当時大学院生)に倦怠感ややる気が出ないなどで通学・研究にかなり支障が出たため精神科(A)を受診し、うつ病と診断されました。抗うつ薬(種類は忘れてしまいました)と睡眠薬の投薬治療となりましたが、私自身に治そうとする気概があまりなく、いい加減な服薬であまり症状も改善しないままでしたが、指導教員の計らいによりなんとか修了し、その後就職しました。(【3984】 「治りたくない」人はいるのですか?に書かれている学生そのものでした。)
就職後も徐々に遅刻や欠勤などが目立つようになっていましたが、ただの怠けと思って治療は受けていませんでした。31歳頃に人事異動の話をきっかけとして生活に支障が出る程度に倦怠感や不眠が出たため、精神科を受診し、うつ病と診断され休職となりました。最初の精神科(B)ではサインバルタやレクサプロを中心とした投薬治療を受け、体調が改善して復職→徐々に悪化して再休職を2回繰り返しました。
B精神科は個人のクリニックで投薬以外の治療ができなかったことと、産業医の奨めもあり、大きな精神科単科病院(C)へ転院しました(34歳頃)。C病院では投薬だけでなく認知行動療法や作業療法を受けたほか、地域の就労移行支援も受け、再発予防に力を入れた取り組みにより現在は復職、仕事も軌道に乗っています。投薬は現在も継続中で、レクサプロ、ラモトリギン、ミルタザピンと睡眠薬を服用中です。主治医には尋常性乾癬と橋本病のことは伝えております。

【経過3.橋本病】
甲状腺の症状は、30歳頃に出ました。当初は、発熱が続き、総合病院で検査を受けた結果甲状腺ホルモンの値が高いということで甲状腺専門の病院を紹介され、「亜急性甲状腺炎」と診断されステロイド内服で治癒しました。その後も経過観察で半年に一度程度通院していたのですが、今度は徐々に甲状腺ホルモンの値が低くなっていることが判明し、橋本病と診断され、現在はチラージン内服により甲状腺ホルモンは正常範囲内にコントロールされています。(先生によると、亜急性甲状腺炎で甲状腺がダメージを受けて橋本病に転じることはしばしばあるとのことでした。)また、うつ症状についてお尋ねしたところ、「橋本病によりうつ症状が出ることは確かにあるが、私の場合ホルモンの量は正常範囲内にコントロールされているため、橋本病の症状とは考えにくい」との答えでした。

【愚考】
尋常性乾癬と橋本病はともに自己免疫系疾患だと聞きました。私のこの2つの疾患が、自己免疫の異常として関連があるか、偶然であるかはわかりません。
しかし仮に関連があったならば、その一連の疾患の中でうつ症状が出ている可能性はないか?もしそうだとすれば、うつ病としての治療では不十分で、大もとの自己免疫系疾患にアプローチしなければならないのではないか?また逆に、大もとの自己免疫系疾患が手付かずであるがゆえに3つの疾患がいずれも完治せず治療中である可能性はないか?そして、その「大もとの疾患」があるとすればどこ(何科)を受診すれば良いか?
各疾患の主治医の先生は全面的に信頼しており、既往をお伝えしておりますが、大局的・分野横断的(言葉遣いが適切でないかもしれませんが)な例はあまりない(または見過ごされている)のではないか?
という疑問があります。

【質問】
以上をふまえ、冒頭にお尋ねした通り、これら3つの疾患(症状)がなにか別の「大もとの疾患」の諸症状である可能性はありますでしょうか?

 

林:
これら3つの病気(尋常性乾癬、橋本病、うつ病)が、それぞれ別のものではなく、より大きな(大局的な、という意味合いです)病気の諸症状ということは考えられますか?

考えられます。これは質問者の洞察力が感じられるご質問だと思います。

うつ病の生物学的研究の中で、免疫機能は一大テーマの一つです。そして臨床的には、自己免疫疾患とうつ病は合併することが多く、すると、最も根底には共通する神経免疫的な異常があり、それが症状レベルになると様々な表現型を取っている、という仮説が有力なものとして浮上します。質問者のおっしゃるところの「より大きな病気」は、そのように捉えることができるでしょう。

但し、「より大きな病気」というのは多義的な表現ですので、質問者がそのような意味(共通するメカニズムが根本に存在する)で用いておられるかどうかは不明です。また、質問者は

相互干渉的な面がある(特に橋本病とうつ症状)ことは承知しています。

という表現も取っておられますが、ここでいう「相互干渉的」も多義的で、様々な解釈の余地があり、やはり質問者がどのような意味で用いていられるのか不明です。

それはそれとして、上記の「最も根底には共通する神経免疫的な異常があり、それが症状レベルになると様々な表現型を取っている」は有力な仮説ではありますが、実際に検証するのは容易ではなく、不可能に近いと言ってもいいかもしれません。理由はいくつもありますが、たとえば、「自己免疫疾患とうつ病は合併することが多い」のは、狭義の生物学的な意味での合併ではなく、自己免疫疾患という病気に罹患したことで、心理的に気持ちが落ち込み、それがうつ病と類似した形を取っているというだけかもしれません。少なくともそのような要素も関与していると考える必要があるでしょう。そして治療薬としてのステロイドの影響(ステロイドの副作用としてのうつ病)も病像を複雑化しています。このように交絡因子が多数あり、純粋に生物学的な因子(ここでは脳内のメカニズムを指して「純粋な生物学的因子」といっています)だけを抽出するのは至難の業です。
そうはいっても、たとえばこの【4100】の尋常性乾癬のように、自己免疫疾患の中でもうつ病を合併しやすい疾患があるというのもまた事実ですから、共通する生物学的な因子が見出される可能性が強い自己免疫疾患と、そうでない自己免疫疾患があると言うことができ、解明への突破口がそこに存在する可能性は十分にあります。

(2020.8.5.)

05. 8月 2020 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A