【4099】抗うつ薬は風邪薬がわりに使えるか

Q: 初めて質問をお送りします。Q&Aは全部読んでいます。

私はアメリカ在住の50代女性で8年ほど抗鬱剤を飲んでいます。去年まではVenlafaxineを225mg飲んでいましたが、血圧がやや高くなる、動悸がするといったことがあり、また、一旦風邪をひくと何ヶ月も治らず、喉の痛み、咳、だるさがずっと続くという問題を抱えていました。そこで、精神科医と相談の上、Bupropionに変更することにしてcross titrateしました。

VenlafaxineからBupropionに移行する段階で軽い皮膚アレルギーの症状が出て、局所的に発疹ができたり、痒くなったりしましたが、Cetirizineを飲んで対処しているうちになくなっていきました。

ところが、完全にVenlafaxineをやめBupropion 300mgだけになったところで、ひいた風邪が治らなくなりました。前述の通りよくあることでしたので、3ヶ月ほどがんばってみまたが、思い起こせば今回の風邪はVenlafaxineをやめたあたりからだと思い、再度医師と相談の上、Venlafaxine 37.5mgとBupropion 150mgを飲むことにしたところ、全体的に調子が良く、そのまま4ヶ月ほどその分量で飲んでいます。

そして先週、上着を持っていくのを忘れて屋外で2時間ほど寒い思いをしたら、夜になって突然左半身が痒くなり、Cetirizineを飲んで寝たところ翌朝には痒みは治っていたのですが、代わりに風邪とも鬱とも取れる症状で全身倦怠感と眠さでぐったりし、翌日も同じ状態が続きました。そこでVenlafaxineを37.5mg から75mgにしたところ翌日には体の重さ・眠気はかなり改善しました。

ということで、どうも私の「風邪のひきやすさ」「風邪の症状」はvenlafaxineの量と関連している気がします。(そしてそれは多すぎても少なすぎてもいけないし、その時の体調によっても適量が変わるのではないかと推測しています。)

ここで質問なのですが、抗うつ剤がこれほど直接的に免疫を改善することはあるのでしょうか?そうした症例を聞かれたことはありますか?もしある場合、VenlafaxineとBupropion以外で効きそうな薬は何がありますか?(私の精神科医は免疫と抗うつ剤に関連がある、ということ自体ありえないと言っていますが、こちらから「この薬を試したい」と申し出ればtitrationを考えてくれるはずです。)

以上よろしくお願いいたします。

 

林: 抗うつ薬と免疫機能の関係については膨大な医学研究が存在します。(いくつか代表的なものをこの回答の最後に列記しました)   抗うつ薬がうつ病を改善するメカニズムとして、免疫機能の改善が関与しているというのも医学的に有力な仮説のひとつです。
ただし、だからといって抗うつ薬が、細菌やウイルスに対する免疫機能を有意に改善し、風邪などに効果があるかといえばそれは別の話です。ひとことで言えば、「そのような効果までは期待できない」と考えるのが常識です。
しかし、例外があっても不思議はありません。この【4099】の質問者は、ご自身の症状と服薬の関係を、時間的なものを含め、かなり冷静に観察しておられますので、「どうも私の「風邪のひきやすさ」「風邪の症状」はvenlafaxineの量と関連している気がします。」という質問者の判断は信頼できると思います。 そしてそれは多すぎても少なすぎてもいけないし、その時の体調によっても適量が変わるのではないか という点も、臨床の現実として首肯できるものです。

したがってご質問への回答は次の通りになります:

抗うつ剤がこれほど直接的に免疫を改善することはあるのでしょうか?

理論的にはあり得ることです。しかし例外的なケースだと思います。
(ここではこの質問文の「これほど直接的に免疫を改善する」という表現を、「臨床的に明らかなほどに免疫を改善する」という意味であると解釈しています)

そうした症例を聞かれたことはありますか?

患者さんがそのように(抗うつ薬で風邪がよくなった、など)主張されることは稀にありますが、この【4099】のような客観性・再現性はなく、偶然との区別がつかないことが大部分です。(つまり、風邪は自然経過でよくなりますので、ある薬を飲んだ後によくなったとしても、それだけでは薬が効いたとはとても判断できません)
また、医学文献上は、抗うつ薬が風邪に有効であるとする信頼できる論文は見出せません。(ただし前記の通り、また下記の論文から推測できる通り、抗うつ薬が免疫機能を改善することは十分にありえます。その改善は臨床的に目に見えるレベルではないということです)

もしある場合、VenlafaxineとBupropion以外で効きそうな薬は何がありますか?

どの抗うつ薬でも、理論的可能性というレベルであれば効く可能性はあると言えます。ただし現実レベルでは、どの抗うつ薬も効く可能性は低いです。

なお、【4100】も関連した内容が含まれていますのでご参照ください。

 

【抗うつ薬と免疫機能に関する論文】 (このテーマについての医学論文は膨大にあります。以下はその中のごくごく一部にすぎません) (一部の論文は無料で全文を読むことができます。論文タイトルをそのままGoogleで検索してみてください)

・Vojvodic J et al: The Impact of Immunological Factors on Depression Treatment – Relation Between Antidepressants and Immunomodulation Agents. Open Access Maced J Med Sci. 2019 Sep 30; 7(18): 3064–3069.  doi: 10.3889/oamjms.2019.779

・Szalach LP et al: The Influence of Antidepressants on the Immune System.  Arch Immunol Ther Exp (Warsz)  2019 Jun;67(3):143-151.
doi: 10.1007/s00005-019-00543-8

・Abelaira HM et al: Immune System Modulators with Antidepressant Effects: Evidence from Animal Models. CNS Neurol Disord Drug Targets 2017;16(4):398-406.
doi: 10.2174/1871527316666170404141620.

(2020.8.5.)

05. 8月 2020 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A