【4091】忘れていたことさえ忘れていた性被害を、 10 年以上経った今突然思い出しました

Q: 一人暮らしをしている20歳大学生の女性です。記憶に曖昧な部分が多く、中途半端な文章が多くなってしまいます、ご了承ください。

私は小学校低学年の頃(おそらく7~9歳の間?)に当時小学校高学年だった実の兄から性被害を受けました。
下着を下ろすよう言われ、なんの疑問も感じず言われるままにすると兄が私の性器に手を触れてきて、その時の記憶や感触まではっきり記憶に残っています。他にも臀部を触られたり、とにかく複数回やられたとは思うのですが、これが衝撃的すぎて他にほとんど覚えていません。
このとき思っていたのは「殴られたりだとか痛いことをされているわけではないけど、なんだかとてもおかしなことされてる、変だ」という感覚でした。そしてされている間、自分の体がまるでただのモノのように感じられました。自分の体が自分のものではなくなった瞬間と言いますか、とにかく生きている気がしませんでした。
同時に感じていた言語化できなかった強烈な不快感を、語彙の発達した20歳の今言語化すると、「人間としての尊厳を傷つけられた」という言葉に言い表せます。
また、キスをしようと迫られたこともあり、それも拒絶できずどこか他人事のような感覚になりながら応じていました。思い出せた性被害はこれだけです。

問題なのは、これが10年ほど経った今突然に思い出したことで、大変混乱してしまっています。もともと子供の頃の記憶が希薄で、友人たちは幼稚園や小学校の頃の記憶をスラスラ言い合っているのに私は一つ二つしか思い出せないでいました。
そんな違和感から何か自分は他の人と違うことがあるのか?と時折感じていました。

そしてその記憶を思い出した始めの頃はまるで狐につままれたかのような感覚で、この記憶は本当に事実なのか?私の身に起こったことなのか?記憶違いではないか?と繰り返し疑問が浮かんできて、虚構なのか真実なのか確かめたい気持ちを抑えられず
勇気を振り絞って兄に聞いてみました。
在宅という今、顔を合わせず音声だけの会話ということもあって踏み切れたのかもしれません。
問い詰めた結果、謝罪の言葉を何度も言われました。兄が認めたことで、「ああ、あれは本当にあったことなんだ」とようやく自覚しました。怒りというより、「本当にあったことなんだ」というホッとした安堵のような気持ちでした。
兄は性的なことに対する好奇心でそうしたことをしてしまったのだと言います。
虐待のような明白な加害意識を持っていたのではないことも私は感づいていたので、どうにも責め立てる気になれませんでした。
そして兄が言うには、私は兄にされたことを母に打ち明けることができていたようなのです。その結果兄は両親に激しく叱られ、私も兄が叱られる光景を見ていたと言いますが、私は母に打ち明けたことも兄が叱られていた光景も何も記憶にありません。
思い出せたのは被害を受けた時の記憶だけで、その前後はすっぽり記憶がないのです。
しかし、性被害を打ち明けることが難しいとされる昨今、記憶がないとはいえ母に言うことができ、かつ両親が兄を厳しく叱ってくれたこの一連の出来事がなければおそらくもっと酷い人生を歩んでいたのではないかとも感じます。

不思議なことに怒りも何も湧いてこなくて、もちろん性的な興味が当たり前のように出てくる時期の子供のやったこととはいえ許せないし一生許せません。
思い出したことによってフラッシュバックがドバドバと洪水のように襲ってくることが多くなりました。生々しい感触までまるで今味わっているかのように思い出せて、体と思考が硬直します。
思い出して以降、兄と話すとどうしても思考が硬直してまともな返事を返せずにいます。時間が癒してくれるとは思いますが、兄妹という関係から加害者と被害者の関係に変わってしまったように思えて罪悪感がすごいです。
どうして今までこのような被害を忘れて、しかも忘れていたことさえも忘れていたのかわかりません。日々他人事のように見ていた性犯罪の事例が、兄妹間で犯罪と言い切れないとはいえ自分の身に起こっていたなんて、考えも思い出しもしませんでした。近親姦ではないもののそれに酷似した行為をしていたなんて、気持ち悪さを通り越して無感情の境地です。
幼少期に性被害を受けた方は年齢を重ねるにつれてことの重大さを理解すると聞きますが、私はその過程をすっ飛ばしてしまったように思えてなりません。九九からわけもわからずいきなり三平方の定理です(?)

質問です。
色々と調べてたどり着いた結果、これは解離性健忘なのかと思うのですがどうなのでしょうか?
思い出すきっかけも思い当たりません、本当に電流が走ったかのように映像が思い出されて本当に戸惑いました。
脳が「もう私はこの苦痛に耐えられるだろう」と勝手に判断して脳の防御機能が解除され、今まで凍結していた記憶が氷解されたとでもいうのでしょうか。
全くもってわかりません。
希死念慮に苛まれたり、鬱で大学を休学したりもしましたが(鬱は現在寛解に向かっていますが、いつ崩れるかとビクビクとはしています)、自傷行為や自殺未遂は怖くて今まで一度もしたことはありません。

解離性健忘についてはなかなか信頼のおける情報が少なく、かなり知名度が低いように感じます。まさか映画や小説で見られる、過去の記憶を一部無くしたキャラクターと同じような立場に自分が立っている可能性があるかもとは到底信じられません。

また、兄が虐待意識を持って行為に及んだのではなく、子供特有の完全な好奇心の末起こったことなので憎むにも憎みきれません。10年以上も経っていきなり湧いて出てきたこんな中途半端な煮え切らない気持ちを抱えて生きていかなければならないなんて、辛いですが向き合っていこうと思っています。
長文になってしまいましたが、もしお時間ございましたらお答えいただけますと幸いです。

 

林:
これは解離性健忘なのかと思うのですがどうなのでしょうか?

その通りです。かなり典型的な解離性健忘です。
【1160】幼い頃からの記憶が曖昧なのです【1307】幼いころ父親から虐待を受けていましたがほとんど記憶にありません。過食嘔吐が長年続いています。【1948】7年前に父から受けた虐待の記憶がよみがえった などをご参照ください。

どうして今までこのような被害を忘れて、しかも忘れていたことさえも忘れていたのかわかりません。

現実であると認めることが耐え難い経験であるからこそ無意識の中に封印されたというのが解離性健忘のメカニズムです。これは厳密には証明することはできませんが、類似の多数のケースがこのメカニズムで説明できることから、正しいとみていいと思います。

思い出すきっかけも思い当たりません、本当に電流が走ったかのように映像が思い出されて本当に戸惑いました。

解離性健忘で、封印されていた記憶が蘇る場合、きっかけがある場合もない場合もあります。

脳が「もう私はこの苦痛に耐えられるだろう」と勝手に判断して脳の防御機能が解除され、今まで凍結していた記憶が氷解されたとでもいうのでしょうか。

それは興味深い仮説ですが、根拠がありません。証明することも不可能だと思います。ただし後半部分、すなわち「脳の防御機能が解除され、今まで凍結していた記憶が氷解された」という部分は正しいと思います。

希死念慮に苛まれたり、鬱で大学を休学したりもしましたが

質問文の中にいきなりこの記載が出てきているので、時間的関係などが不明ですが、性被害のエピソードが蘇ったことをきっかけにこのようなことが生じたということでしょうか? そうであるとすれば、これは一般的なうつ病とは異なる治療が必要ですので、トラウマの専門ないしはトラウマに詳しい医師やカウンセラーにおかかりになることをお勧めします。

なお、「忘れたことさえ忘れていた」というのは矛盾した表現ですが、この回答では特に問題としないことにしました。

(2020.8.5.)

05. 8月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 性に関する問題, 精神科Q&A, 虐待, 解離性障害