精神科Q&A

 【1160】幼い頃からの記憶が曖昧なのです


Q私は24歳女性です。現在実家を離れ、東京にて同棲をしています。
何から相談をすればいいか分からず、何を伝えたらいいかも分からず、今まで病院を訪れる事が出来ませんでした。

此処に相談されている方を始め多くの精神的に病気を抱えて居る方は、ご自分の症状等や今現在苦しんでいる事が割と明確な気がするのですが、私にはそれが分かりません。
なんだか幼い頃からの記憶が曖昧なのです。
それまでは本当に全く忘れていたのに、ある時急にふっと湧いて出た様に記憶が湧いて出てくるのです。
湧いて来た記憶には関連性があり(忘れていた記憶というのはつい最近の物も多々あります)、ほとんどは辛い事ですが、楽しい事も含まれています。
そしてその記憶は家族や友人に聞くと、ちゃんとした私の出来事であり、写真等も存在します。
しかし私にはその記憶が自分に起こった事の様には思えないのです。
旅行等の記憶でさえ、実体験の気がしません。

話しが前後しますが、私の関係は父が自営業、母は医療関係で、金銭的には裕福な家庭で育ちました。 
それから兄が一人いるのですが、兄は幼い頃からちょっとおかしいところ(小動物をいたぶって殺したり、小さい子を虐めたり、エアガンで人を狙う、落ち着きが無く、自分の興味がない事には無関心、興味があるテレビゲームは何時間でもやる。等) があって、私は小さい頃から慢性的に兄からの暴力を受けていました(それも実感がありません)。今でも顔に傷があります。また性的ないたずらもされていたようです。
私は父、母の三人家族で生活していた様な気がしてやまないのですが、私が15歳までは確かに4人で生活していました。
今でも兄が居る実感はありません。
しかし母は手の掛かる兄に付きっきりで、当時は淋しく思ったり、嫉妬していた様な気もします。
兄からの暴力から守ってくれたのは同居していた祖母でした。(なのに祖母がいた実感もないのです)

母は過干渉、被害妄想が強く、父は心配性また浮気ぐせがあり、夫婦仲は非常に悪かったと思います。
私は母が苦手で父は大好き位に大好きです。
また私は感情に乏しく常に大人の顔色を伺う気配があったみたいです。

つらつらと幼い頃の事を書きましたが、その頃経験した事が辛いとは今は全く思いません。
思春期の頃は男性恐怖症っぽい事があった様に思いますがよく分かりません。

今は悩みもなく、あったとしてもすぐ忘れてしまいます。24年生きてきて24年も生きた実感がないのが辛いのです。
自分という存在が凄く希薄なのが辛いです。他人に自分の事を聞かれ咄嗟に答えられない時に、辛い思いをします。すぐにどうでもよくなりますが。
幻聴や鬱、妄想もありません。アルコールも滅多に飲みません。三年前に薬を多量に飲み自殺未遂をした事があるらしいのですが(現在も同棲している男性が通報してくれました)余り覚えていません。なんでそんな事をしたかも分かりません。
そういった事を思い出す時は、必ず私が私自身を上から見ている感じで思い出します。
今現在は全くそういった事はないのですが(同棲相手に確認済み)、一日の大半が無意識というかそういった感じなのが嫌なのです。
以前はたくさん辛い思いをした様な気がするのですが、余りこういった事は無かった様な気がします。今は辛い思いがない変わりに記憶が曖昧です。
本来なら辛い時に受診すれば良かったと思うのですが、当時は非常に自分の身に起きた事が恥ずかしかった様に思います。
長文で尚かつ分かりにくい文章なのですが、受診すべきか、また疑われる病気を教えて頂きたく思います。よろしくお願いします。


林: 解離性健忘の可能性が最も高いと思います。

なんだか幼い頃からの記憶が曖昧なのです。

私は小さい頃から慢性的に兄からの暴力を受けていました(それも実感がありません)。今でも顔に傷があります。また性的ないたずらもされていたようです。


あなたが解離性健忘であるという診断は、メール全体からの情報から出てくるものですが、特に重要なのは上の部分です。つまり、あなたは幼い頃、お兄様からかなりの虐待を受けていた可能性があると思われます。そのような場合に、その記憶が失われている、あるいは曖昧になるのは、しばしばあることです。たとえば【1009】の方は、小学校時代のいじめの記憶が失われています。また【0876】の方は、小学校時代の体罰の記憶が曖昧で、思い出そうとすると不安や頭痛、呼吸が苦しいなどの症状を体験しておられます。【1161】も類似したケースといえます。【0276】もご参照ください。
 一方、虐待が忘れられず、成人してからも強い恨みを持っておられる【1162】のような例もあります。どちらが重篤かは難しい点もありますが、恨みの感情が描写されている【1162】のようなケースよりも、それを思い出すことさえ出来ないこの【1160】の方がはるかに重いという考え方もあります。

そして現在のあなたの症状、

三年前に薬を多量に飲み自殺未遂をした事があるらしいのですが(現在も同棲している男性が通報してくれました)余り覚えていません。なんでそんな事をしたかも分かりません。

一日の大半が無意識というかそういった感じなのが嫌なのです。


これらは、記載が簡潔なため詳細は不明ですが、解離性障害やその一環としての離人感の色彩があるものです。また、境界型人格障害の傾向もあるかもしれません。幼少時の虐待が、人格障害と密接な関係を持つことがあり得ることは、【1111】をご参照ください。

治療は精神療法が中心になります。しかし、この【1160】のケースは、かなりの専門家でないと治療は難しいと思います。曖昧になっている幼い頃の記憶を取り戻すというだけの治療なら、それほどの専門家でなくても可能かもしれません。けれども、単純に記憶を回復させることは危険を伴います。記憶が失われているのは、それ相応の理由があると考えられるからです。つまり、思い出すことがあなたの精神にとって破壊的な体験になることも考えられます。たとえば、【0876】のケースで、思い出そうとすると様々な症状が出てくることは、思い出すことに対する防衛反応とみなすことが出来ます。

ですから、「幼い頃の記憶が曖昧」という場合、その記憶に触れることは避けることが第一に勧められます。思い出せなければ思い出せないでよしとし、特に現在の生活に支障がなければそれには触れずにおくのです。
けれどもこの【1160】のケースでは、単に幼い頃の記憶が曖昧なだけでなく、現在もかなりの症状があるようですので、幼少時の体験に触れないという方針がはたして適切かどうか、何ともいえません。それに触れなければ、今の症状の回復もないかもしれません。

以上のように、この問題は複雑です。医師から見ると、「下手に手を出すと悪化させて取り返しがつかなくなる」ケースともいえます。ですから、【1160】の質問者には、治療者を慎重に選ぶことを強くお勧めします。トラウマや人格障害について、十分な経験を持った信頼できる専門家を選んでください。


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