【3936】衝動性は治ったのになぜいまだにテグレトールを処方されているのでしょうか

Q: 21歳の女です。発達障害と睡眠障害があります。
1年くらい前からテグレトール200mgの半錠を毎日分処方され続けています。衝動性が理由で処方され始めました。
頭を机に叩きつけたり、大泣きしたり、頻繁に怒ったり、その勢いで家出をしたりという奇行が7ヶ月前からあり、部屋から飛び降りたことがきっかけでテグレトールを処方されたと記憶しています。そのあと2ヶ月間、閉鎖病棟に入れられていましたが、その頃は処方されていませんでした。
発達障害は衝動性が高いといわれています。事実、思い立ったらすぐ実行してしまう性質でしたが、上記のような奇行はここ数年まではしませんでした。
たしかに1年半前からテグレトールを処方されるまでの期間は異常そのものでしたが、処方されて以降は、突然の家出を2回(飛び降りて骨折してから松葉杖生活を送っていた期間中と、アルバイト帰り)と過量服薬くらいしかしていません。
テグレトールを服用していないと怒りっぽくなってしまいますが、元気にはなります。服用しなかったらそんなマイナス面とプラス面があります。
最近整形外科に入院したとき、テグレトールと睡眠薬の服用は禁止されて飲めなかったのですが、その入院中は、手術や注射が怖いのに元気に喋りました。気分も服用中とは違い、とても元気でした。点滴のとき、手術前、手術直後はとくに饒舌でした。
テグレトールは憂鬱な気分をなおす作用はありませんから、ある日突然、眠気はないのに憂鬱で布団から出られないとか、何かがこわいとか、そういうときには頓服を飲まねばなりません。幸い最近はそこまでひどくはありませんが、時々憂鬱です。

テグレトールを飲む必要があるような奇行はもうしていないし、服用していると気分が晴れません。はたして、今の私には必要だから処方されているのでしょうか。念のための処方でしょうか。話があちこち散らばったり前後したりですみません。いまの主治医とはあまり気が合わず、聞き辛いのです。

 

林:
テグレトールを飲む必要があるような奇行はもうしていないし、

それは、たとえ事実であったとしても、テグレトールを飲むことをやめていいと判断する根拠としては不十分です。
このケースに限らず、また、テグレトールに限らず、「ある薬を飲んだらよくなった」ことは、「だからその薬はもう飲まなくてよい」ということにはなりません。それは薬によります。頭痛薬や風邪薬なら、よくなったら飲まなくていいですが、高血圧などでは、よくなったからといって飲むのをやめたら再発するのが常です。つまり、よい状態を維持するために薬が必要だということです。【3935】もご参照ください。

ここまでは一般論で、ではこの【3936】は薬を続ける必要があるのか、やめても大丈夫なのかは、この【3936】という個別のケースとして考える必要があります。

考えるポイントの第一は、そもそも薬を飲む理由となった症状です。

衝動性が理由で処方され始めました。
頭を机に叩きつけたり、大泣きしたり、頻繁に怒ったり、その勢いで家出をしたりという奇行が7ヶ月前からあり、部屋から飛び降りたことがきっかけでテグレトールを処方されたと記憶しています。

それは相当に激しく、かつ、生命の危険さえある衝動性ですから、薬を飲む必要があるという判定は妥当でしょう。そしてテグレトールは適切な選択であると言えます。

ポイントの第二は、その薬(=テグレトール)を飲んだことによる効果です。つまり、効いたのか効かなかったのか。効いたとしたら、それは十分に効いたのか。

たしかに1年半前からテグレトールを処方されるまでの期間は異常そのものでしたが、処方されて以降は、突然の家出を2回(飛び降りて骨折してから松葉杖生活を送っていた期間中と、アルバイト帰り)と過量服薬くらいしかしていません。

テグレトールの効果は認められていると判断できますが、テグレトールを処方されて「突然の家出を2回(飛び降りて骨折してから松葉杖生活を送っていた期間中と、アルバイト帰り)と過量服薬」は、「くらいしか」と言えるような軽いものであるとは判断できません。すなわち、衝動性は決して十分に抑制されているとは言えません。

テグレトールを服用していないと怒りっぽくなってしまいますが、

「怒りっぽい」といっても幅がかなりありますので、それがどの程度であるかが、衝動性について判定するうえでは重要な問題で、「テグレトールを服用していないと怒りっぽくなってしまいます」だけの情報ですと、テグレトールが有効であることはわかりますが、十分に有効かどうかは判断できません。

ポイントの第三は副作用です。副作用は、常に、効果とのバランスで考える必要があります。

テグレトールを服用していないと怒りっぽくなってしまいますが、元気にはなります。

服用していると気分が晴れません。

質問者が副作用であると認識しているのは、上記の通り、「元気がなくなる、気分が晴れない」であることがわかります。しかしその程度はこの記載からは不明です。したがって、テグレトールを飲むことで衝動性が抑えられるという効果に対して、これらの副作用が、受け入れなければならない程度の強さかどうかは、この記載からは不明です。

ポイントの第四は、仮に(1)十分な効果があり、(2)効果が副作用より大きいと判断されたとして、では、その効果は、薬を飲んでいる間だけ持続するのか、それとも、薬をやめたら効果は消失するのか、という点です。
この【3936】のケースにおいて、(1)についてはおおむね肯定できると言えます。すなわち、テグレトールを必要とした理由は衝動性で、それがテグレトールを飲むことによって抑えられているわけですから、効果は確かにあります。ただし、「おおむね」肯定できる と言ったのは、衝動性が十分に抑えられているかどうかはこのメールかは不明だからです。理由は前記の通りで、「2回の家出」「過量服薬」が、容認できるレベルの行為と言えるかどうかは不明です。質問者はこれらの行為について「くらいしか」と表現しており、いずれも軽いものであると認識していることが読み取れますが、まず一般論として、衝動行為については本人は軽いと認識していても客観的にはとても軽いとは言えないことがしばしばあること、また、一般論を離れてこのケースについて言えば、そもそも薬をやめたいという希望があってメールを書かれているわけですから、今の自分の状態は良いのだと主張したほうが薬をやめてよいという答えが得られることを意識的あるいは無意識的に考えて、今の症状は軽いものであると報告する十分な理由が質問者にはあると言えます。したがって (1) 十分な効果があり については、確かに効果はあるが、十分かどうかは不明、という判断になります。そうであれば、テグレトールをやめるどころか、逆に増やすことが適切という結論もあり得ることになります。
そして、(2) 効果が副作用より大きい かどうかは、前記の通り不明です。

したがって、(1)(2)という前提そのものからして、正しいかどうかは不明ということになります。すると、この【3936】の質問のポイントである「その効果は、薬を飲んでいる間だけ持続するのか、それとも、薬をやめたら効果は消失するのか」に到達する前に、今の状態について再検討が必要であり、この質問のポイントへの回答は時期尚早ということになりますが、それでもあえて回答するとすれば次の通りです:

「薬をやめたら効果は消失するかどうかは不明。それを確認するためには慎重に段階的に減薬していき経過を見る以外にない。ただし、このケースではそもそも薬を飲む必要となった衝動性の症状は生命にもかかわるものであるので、減薬して経過を見るのはリスクが高すぎる。よって、減薬は推奨できない」

(2019.12.5.)

05. 12月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 発達障害, 精神科Q&A タグ: , |