【3922】私の症状は解離か、それとも病気のふりをしている詐病者か

Q: 30代女です。うつ病で通院中です。
四年ほど病院で専門職として勤務したあと退職して、その後就職活動がうまくいかず、金銭的に困窮して生活保護を申請したところ、健康診断に行くように言われ、かかった精神科でうつ病と診断されました。そして本格的に治療をということで通院を始めたクリニックでは、幼少時の虐待による慢性PTSDであり、うつ病であるという診断を受けて治療を始めました。以来三年にわたって薬物治療を受けていますが、改善はしたものの治るというところまでたどり着けずにいます。
(関係あるかないかわかりませんが、うつ病の治療中にWAIS-IIIの知能検査を受けて、自閉症スペクトラムのASDと診断されました。)

そんな中、甥(妹の息子)が私と遊びたいと言っているというので、そのときの状態がよかったこともあって引き受けました。家に連れて行ったり、ゲームをしたりして遊んだのですが、そのときどうも、甥の様子が「昔の自分のようだ」と感じてしまいました。具体的には、やたらにはしゃいで見せる、やけに聞き分けがいい、過度に私の顔色をうかがう、などです。そうすると、悪いほうへ悪いほうへと考えてしまい、甥は妹に虐待されているのではないか? という考えが浮かんでしまって、どうしても離れなくなりました。しかし、離れて暮らしている私が、その程度の薄弱な根拠で虐待を疑うというのは、甥によくない感情移入をして、昔の自分ができなかった両親への復讐を妹に対してしようとしているのではという思いがあり、妹一家の近くで暮らす姉に相談するだけして、もし何かあるようだったら児童相談所にまず相談をしてみよう、ということで不安を収めました。
しかし、その夜、私は妹に対して糾弾するようなメールを送り、それに対し妹が怒ったところ、急に低姿勢になって謝り、もう二度と連絡をしないと一方的に宣言して電話やメール、LINEなどを着信拒否してしまったそうです。このことは、妹が姉に相談し、姉から連絡があったことで知りました。私にはそういうことをした覚えがなかったので、着信拒否を解除して妹に謝り、妹はそれを受け入れてくれて、よくわからないままこの件は解決? しました。

問題はその後も起こっているようで、妹に対して「おまえは殴られなかったくせに」と責めるようなメッセージを送ったりしているようです。しているようですというのは、甥と会ってから断続的に記憶がない時間があって、記憶している、自分であると確信できる時間が減っていっているからです。ときどき目が覚めるときに、こういうことがあったと頭の中のだれかから報告を受けます。寝ぼけたような感覚で、誰かが自分の体を動かしているのを見ているときもあります。

実を言うと、小学生ごろからこういう症状? はあって、虐待を受けるときには頭の中の窓の向こうに逃げたり、その間殴られている自分を窓からこっそり見ていたり、危ない目にあったときに助けてもらったりしていました。
そのころダニエル・キイスのビリー・ミリガンに関する本が出ていて、助けてくれる人がいてくれるなんてすごくいいなと思って、殴られているときなどに意識を遠くにやったりとかの練習をしたような気がします。ただ、正直に言うと、本を読むのが先だったのか症状が先に出ていたのかはよくわかりません。
ですが中学生くらいのとき、姉から「病気のふりはやめて、気持ち悪い。特別扱いされたいの? 見てて恥ずかしいよ」というようなことを言われたらしく、それを機にみんなあんまり出てこなくなりました。

現在は私はほとんど眠っているような状態なのですが、通院は継続できているようです。そのときに「〇〇は眠っている、起こしたほうがいいか」と訊いたところ、「寝てるなら寝かしておいたほうがいい」と言われたそうです。

以上、長くなって申し訳ありませんが、私の過去と現状です。
以下が質問になります。
・解離、解離性障害、解離性同一障害というのはなろうとしてなれるものなのでしょうか? 私は単なる自己暗示でそれっぽい病態を演じているだけの詐病者ではないのでしょうか?
・仮に、詐病でなかったとして、これがうつ病の治癒を妨げているという可能性はあるのでしょうか?

頭の中にいるみんなについてうまく文章にできず、つかみどころのない文章になってしまって申し訳ありません。

 

林: あなたは解離性障害 です。

妹に対して「おまえは殴られなかったくせに」と責めるようなメッセージを送ったりしているようです。しているようですというのは、甥と会ってから断続的に記憶がない時間があって、記憶している、自分であると確信できる時間が減っていっているからです。

これは解離性健忘として比較的よく見られる出来事で、【0810】友人を非難するメールを送ったようだがその記憶がない も類似の例です。
そのほか、【3922】には解離性障害に特徴的な症状がいくつも見られます。たとえば

虐待を受けるときには頭の中の窓の向こうに逃げたり、その間殴られている自分を窓からこっそり見ていたり

は、幽体離脱にかなり近い症状です。

・解離、解離性障害、解離性同一障害というのはなろうとしてなれるものなのでしょうか? 私は単なる自己暗示でそれっぽい病態を演じているだけの詐病者ではないのでしょうか?

解離性障害は、周囲からは詐病に見えることがしばしばあり、そして、本人も、自分が意識して症状を作り出しているのではないかと感じることがあります。【2253】解離に自覚がある私は甘えているのでしょうか などをご参照ください。また、後になって、【2656】私の症状は全部嘘なんですと告白する場合もありますが、そのようなケースで、症状が出ているときに本当にはっきりと嘘を意識していたかどうかは多くの場合不明です。

・仮に、詐病でなかったとして、これがうつ病の治癒を妨げているという可能性はあるのでしょうか?

この【3922】の全体像は、おそらく、根本的な原因として虐待があり、そこから解離性障害やうつ病(この場合、「うつ病」と呼ぶかどうかは議論のあるところですが、一応 うつ病 としておきます)が生まれているというものになると思います。したがって、純粋にうつ病だけの治療を続けてもなかなか治りにくいと予想されます。

(2019.11.5.)

05. 11月 2019 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A, 虐待, 解離性障害