【3827】母は統合失調症で、従姉妹は発達障害ですが、私はうつ病でしょうか

Q: いつも林先生のQ&Aを読ませて頂いている23歳の女です。
自分や家族の精神疾患について色々疑問に思うことがあったのでメールさせて頂きます。

まずひとつは私の病気が何だったのかについてです。
高校3年生に進級時にクラス替えがあった際同じクラスに友人がおらず友達関係をうまく築けなかったことをきっかけに学校を休みがちになり、さらには学校に行くふりをして近所の池に入水して自殺しようとし、それからは完全に不登校になりました。
その時の精神状態としては
・学校に行きたくない。
・昼休みが苦痛(仲のいい子達と固まってお弁当を食べたりしますが、そういうのが上手くできない)
・クラスで友達がいないことが恥ずかしいから部活の友人に知られたくない。
・大学受験へのプレッシャー(国公立に行けなければ働いてもらうと親に言われていたため、受験が上手くいかなければ人生終わると思いこんでいた)
・とにかく死にたくてたまらない。
自分は死ななくてはならない人間だと思っていました。自分が何の価値もなく生きているだけで迷惑な存在だと感じられました。人間関係も上手くいかず、受験も上手くいかないだろう、私はこの先生きていくことが出来ないと思っていました。授業中も死ぬことを考え泣いていました。
その後高校の先生から大学病院のカウンセラーの先生を紹介され受診したりまた別の心療内科のクリニックを紹介されたりしましたがどちらと1回行っただけで嫌になり受診拒否しほとんど家で引きこもっていました。1年ほど引きこもりがちの生活を送るうちに少し前向きになり、高校の部活で親しくしていた友人と会えるようになったり、転校した通信制の高校で卒業出来るよう補習に通ったりしました。甲斐あって通信制の高校をなんとか卒業し、アルバイトで働きたいという思いを持つようになりましたが社会復帰することへの不安も多くありました。そのためまた心療内科のクリニックに通い始め、自分から薬物療法を提案した結果ジェイゾロフト25mgを処方され2週間ほどで50mgに増量し服薬していました。また、不安時の頓服としてロラゼパムが処方されました。
その後多少不安定になることはあったものの、月1回の通院と服薬でアルバイトを2年続けることが出来、さらに医療系の専門学校へ入学し、臨床実習もこなし卒業することが出来ました。親しくしてくれる友人も出来ました。(専門学校へは高校卒業頃から行きたいと思っていましたが、学校へ行くという行為が私にとって恐怖でしたので2年アルバイトを続けてやっとちゃんと通える自信が出てきました)
服薬してから一年後には25mgに減薬され、服薬開始から三年目に入る頃には主治医からもう飲まなくてもいいよと言われ、また自分もやめたいと思っていたため、断薬しました。

ここで疑問なのですが、私は一体なんの病気だったのかということです。
心療内科のクリニックではあまりはっきりと診断名を聞かされませんでした。各所に提出する診断書を書いてもらう時には逆に「なんて書いて欲しい?」と聞かれる始末でした。以下、診断書に書かれた病名です。
・適応障害(不登校になり高校に診断書を提出した時)
・うつ病(区役所に自立支援医療の申請時)
・うつ状態(運転免許を取る際に自動車学校と試験場に提出したもの)
クリニックに通い始めたときに社交不安障害についての検査をしており、社交不安障害であることは言われていたと思います。今思えば高校入学時にも友人関係のことで悩み、入学直後の宿泊研修で親しくないクラスメイトと話す際喉が締められるような苦しさで声が上手く出ないと感じる、手が震えるなどの症状がありました。人見知りで知らない人と話すのは苦手です。しかし、初対面の人とはそれなりに上手く話せて、次に会うのが怖いということもありました。電話は苦手でした。外出先での食事も怖くて食べた気がしないような感じがしたこともありました。(これは高校での昼休みのトラウマもあると思います)
ジェイゾロフトを出されていたのでうつ病かなと思っていたのですが、自殺未遂当時は不眠という訳ではなかったですし食欲も無いわけではありませんでした。朝起きられない、靴下を履くのにも泣きながら何分もかけるなんてこともありましたが、それも学校に行きたくないがないために甘えてわざとやっていたような気がしてなりません。
そもそも自殺未遂といっても本当に未遂の未遂で、死ななくちゃいけないのに怖くてなんにも出来ませんでした。
引きこもり生活では最初の頃は寝てばかりいましたし普通に自分の趣味に没頭しました。
私はうつ病だったのでしょうか、それとも甘えていただけだったのでしょうか。

もうひとつは精神疾患になりやすい家系や遺伝子があるのかということです。
私の母は統合失調症です。精神障害者保健福祉手帳も持ってます。私の生まれる10年ほど前に発症し、何度か入院もしたことがあるようですが、現在は通院と服薬をしっかり行えており健康な人と何ら変わりなく見えます。私は母の重篤な状態を見たことがありません。
私の母方の従兄弟(母の妹の子)は発達障害です。偏食があったり、特定のものに強いこだわりをみせる、自分が一方的に話したいことを話すといった症状が見受けられます。
療育にはよく通っているようです。 また、この子は高齢出産で産まれました。 そして私はうつ病?でした。

このように私の身近には精神疾患をかかえる人が多いように感じるのですが、これらは遺伝的要因が関係あるのでしょうか。統合失調症、発達障害、うつ病?と三者三様なので関係の無いようにも思えるのですが、精神疾患が生じやすい素因を遺伝的に持っているのでしょうか。
そして、私の母が統合失調症であるということは私も統合失調症になりやすい素因があると思います。しかし私は過去にうつ病?になっています。過去にうつ病の既往のある人が新たに統合失調症を発症することはあり得るのでしょうか。

とても長くなってしまって申し訳ありません、読みにくい文章で恐縮ですがぜひ疑問にお答えくださると幸いです。

 

林:
まずひとつは私の病気が何だったのかについてです。
もうひとつは精神疾患になりやすい家系や遺伝子があるのかということです。

この二つのご質問ですが、二番目の方から先にお答えします。答えは明確に「ある」です。
精神疾患に限らず、どんな病気にも、それになりやすい家系・遺伝子があります。ただしその一方で、家系に関係なく発症するケースがあるというのも事実です。つまりどんな病気でも、「なりやすい家系の人に発症することもあれば、そうでない人に発症することもある」ということになります。ですから「なりやすい家系があるか」という質問への答えは「ある」になります。

そしてこの【3827】の質問者が本当に知りたいことは、ご自身の家系が「精神疾患になりやすい家系か?」ということだと思われます。この問いに対する答えは、先の答えほど明確とは言えませんが、「イエス」と言っていいでしょう。
そして、お母様が統合失調症であって、子である質問者が何らかの精神疾患にかかりやすいとすれば、それは統合失調症であると考えるのが自然です。確かにそういうケースは多いのですが、実際にはうつ病や双極性障害もかなり多いことが統計には現れています。すると、統合失調症、双極性障害、うつ病は、遺伝子的に何らかの共通点があるということになります。このことはかなり昔から言われており、実はこれらの病気は一つの病気の様々な表れ方にすぎないという「単一精神病論」も唱えられています。現在では単一精神病論という言い方はほとんどされませんが、遺伝子的に共通性があるという観点からの研究はさかんに行われています。そしてその結果、発達障害と統合失調症の遺伝的な共通性を示唆するデータもかなり得られています。この【3827】の家系に、統合失調症と発達障害が現れているのはそのデータを支持するものと言ってもいいでしょう。

ここで第一の質問に戻ります。

まずひとつは私の病気が何だったのかについてです。

最も近い診断名はうつ病です。というより、診断基準的には、うつ病に間違いないと言えます。

自殺未遂当時は不眠という訳ではなかったですし食欲も無いわけではありませんでした。朝起きられない、靴下を履くのにも泣きながら何分もかけるなんてこともありましたが、それも学校に行きたくないがないために甘えてわざとやっていたような気がしてなりません。

このように、ご自分を振り返って 甘え のように考えるのもまたうつ病に典型的なことです。
また、

自分は死ななくてはならない人間だと思っていました。自分が何の価値もなく生きているだけで迷惑な存在だと感じられました。人間関係も上手くいかず、受験も上手くいかないだろう、私はこの先生きていくことが出来ないと思っていました。授業中も死ぬことを考え泣いていました。

これは、うつ病に特有の希死念慮にかなりよく一致しています。

したがって質問者の診断はうつ病であると判断できます。
現代においては、「うつ病」という病名はかなり広い意味で使われており、ストレスに反応した病的でないうつ状態も「うつ病」と呼ばれますが、それは真のうつ病ではなく(多くは擬態うつ病というべきでしょう)、健康な心理的反応ですが、真のうつ病はまさにこの【3827】のケースのような症状で、また、ここからが今回のご質問との関係でも重要な点ですが、真のうつ病は遺伝的要因が強く、そしてその遺伝的要因は、時に、統合失調症の遺伝的要因と共通点が認められます。この【3827】の症状と家族内の精神疾患は、まさにその典型的な例であると言えます。

過去にうつ病の既往のある人が新たに統合失調症を発症することはあり得るのでしょうか。

「あり得るのでしょうか」というご質問に対しては、「あり得る」とお答えする以外ないところですが、一般論ではなくこの【3827】のケースに関していえば、むしろ将来注意すべきことは、「精神病の要素のあるうつ病の再発」です。ここでいう「精神病の要素」とは、「正常な心理からは理解できない面が強い」ことを指します。たとえば、普通に考えたらとても自殺を考えるような状況ではないときに、本人は死ぬしかないと強く考えて自殺してしまう、というようなことが起こり得るうつ病を指します。対策としては、少しの精神的不調で、あまりたいしたことはないと思っても、早めに精神科を受診することが勧められます。

(2019.5.5.)

05. 5月 2019 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 発達障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |