【3714】いい加減な人と病気の境界は?

Q: 私は美容室で働いている30代女性です。職場の24歳男性の指導係をしているのですが、彼
の言動に振り回されてしまい近頃は疲れてきてしまっています。
我々の仕事は刃物や薬品を扱う職場ですので常に危険が伴います。美容学校を出てインターンとして入社した人がすぐにお客様の髪を切るなどと言う事はあり得なく、掃除や雑用、シャンプー、スタイリスト補助などを徐々に覚えてもらい、閉店後に先輩から教わりながらスタイリングの練習を数年経てようやく一人前のスタイリストとしてデビューします。
ところが彼はシャンプーや掃除に意味を感じないと言い、掃除をさせれば中途半端なところで店外に出てタバコを吸い、シャンプーも教えた手順で行わず髪が濡れたままのお客様を放って店外に出てタバコを吸い、伝票整理をさせればグチャグチャなままトイレに籠って閉店時間になるとそのまま帰ります。
翌日注意をすれば「掃除は終わっていた」、「シャンプーは終わっていた。後は他の人の仕事だ」「伝票は出来るところまでやったので後は他の人がやればいい」と一切反省がありませんでした。
閉店後に残って練習する時だけは生き生きとした表情なのですが、店長が指導をしてくれている時に「掃除とかシャンプーとかって意味ありますか? 美容師の仕事じゃないですよね」とヘラヘラ言ったためその日の練習は中止になり、指導係である私が厳重注意を受けてしまいました。
その後何度も、マニュアルに従って働いて欲しい事、シャンプーは様々な方の髪を理解するのに重要な仕事だという事、掃除や伝票整理は最後までやらなければならない事など言葉優しく指導説明を重ねましたが、「全てやっている」「俺が仕事していないって言いたいのか」と逆切れして話になりません。
マニュアル通りやっていない事、さぼって煙草を吸いに出ている事、仕事を途中で放り出している事は明白なのに、言い訳や逆切れをして一切認めてくれません。私の指導方法が悪いのかと、先輩に相談したり休日返上で指導講習を受けてみたり私なりに頑張っているつもりでした。

ある日、ベテランスタイリストとお客様がスタイルについて相談している最中に割って入り「お客さんは髪質が~。このスタイルは難しいっすね~。髪質がちょっとねぇ」と失礼な物言いをしたかと思えば、仕上がり確認をしている最中に「××さん(先輩スタイリスト)、サイドのここもう少し切ってあげて。仕上がりが違うはずだから」と通りすがりに上から目線で指導じみた事をしてしまったのです。私もその現場を目撃したのですが、見当外れなアドバイスをまるでベテランかのような振舞いで、ごく自然な感じで言っていたのでびっくりしました。結局お客様は元のスタイルが気に入って下さっていたので手直しは無かったのですが、閉店後にベテランから注意を受けると「アドバイスしただけです。最新のスタイルですよ、知らないんですか?」と注意を受けた理由が理解できていない様子がありました。
このような場面は多々あります。お客様の前や練習中に、見当はずれな事を言い、先輩から「それ違うでしょ」と言われるとムキになって反論するかふてくされるかです。
美容知識のある人からすれば知識も技術も不足している事は明白なのですが、あまり詳しくないお客様から見たらまるで店長が新人さんにアドバイスしているかのように見えるくらいの演技力があると思います。

またある日、なんの相談も予約もなく友人を二人連れてきて「こいつら頼みます」と言い出し、予約がいっぱいなので無理だと言っても「すいません、いやマジで俺の顔を立てると思って頼みますよ」と友人と三人で待合室に籠った事もありました。何時間でも待つし料金は彼が払うというので、なんとか時間を作って対応したのですが、友人が帰った後に「俺いま手持ちないので給料から引いといてください」と悪びれずに言い、さすがにこの時は店長から厳重注意を受けていました。
それでも彼はめげません。自分は悪くないと言わんばかりに「客を連れてきてやったのに、この店どうかしてるな」と受付の子にグチグチ言っていたそうです。

教えた事が出来ない、マニュアルに従えない、謎の上から目線、知識や技術も未熟なのにお客様や先輩に対して横柄な態度を取る、明白な嘘をつきとおす、空気が読めないなど、入社して2年経ちますが彼は変わりません。もちろんスタイリストデビューも出来ていません。最近はそれが不満らしく、新人さんに店や先輩スタイリストの悪口(あいつは技術がない、店長は能無し、この店はすぐに潰れるから気をつけろなど)を吹き込んで回っているようです。

はじめは少しいい加減でお調子者なだけなのかなと思っていましたが、最近指導係として色々と限界を感じており、何かの障害や病気を疑っています。

 

林: この24歳男性に問題があることは明らかで、質問者に指導係としての問題があるわけではありません。
質問タイトルに「いい加減な人と病気の境界は?」と記されているように、ではこの男性の「問題」は、「いい加減でお調子者なだけ」なのか「何かの障害や病気」なのかということが質問のポイントと思われますが、おそらくこの男性はパーソナリティ障害(最も可能性が高いのは自己愛性パーソナリティ障害)またはその傾向があるものの、他の障害や病気はないでしょう。
パーソナリティ障害は、精神医学の公式の診断基準では「障害」という名がついていますが、性格の延長との区別は曖昧で、そうなりますとこの男性をめぐっての「いい加減な人と病気の境界は?」という問いへの答えは、「その境界は曖昧。パーソナリティ障害についての考え方による」ということになります。

(2018.8.5.)

05. 8月 2018 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 精神科Q&A