【3703】虚言癖のあった元夫  

Q: 30代女性です。
過度な虚言癖が発覚したため4年前に離婚した元夫(当時30代前半)について質問させて下さい。
下記で挙げるような虚言は

(1)そもそも医学上 A.「病的なもの」として分類されるのでしょうか
あるいは単に B.「極めてモラルが低い」という判断になるのでしょうか
グラデーションであり明確な線引きは難しいかもしれませんが…

(2) A.「病的なもの」ならば、原因は一般的に先天的なもの(脳構造の異常など)でしょうか、それとも後天的なもの(人格形成期の環境に問題があった等)なのでしょうか。

(3) A.「病的なもの」ならば、このような症例の人間が病院に来るケース、その後寛解するケースは存在するのでしょうか

今は幸いにも接点がなく、故に実害もないのですが、過去に自分が経験した出来事を正確に理解したいという気持ちと、不謹慎ですが純粋な好奇心から質問させて頂きました。

◇虚言の例(約4年間でついた、事実に反することが確認されている嘘)
・結婚前に私と音信不通の時期があったが、それは地方在住の実母が重病で入院しており、精神的に余裕がなかったことが原因(本当は浮気していただけ、病気の事実もなし)
・その入院の資金援助をしたので貯金がない(結婚式が面倒でついた嘘)
・大学は首席卒業で、全校生徒の前で卒業スピーチをした
・大学のゼミ面接は「君は優秀だから」と顔パスだった
・中学の野球部で、甲子園強豪校の監督からスカウトを受けたことがある
・友達とノリで描いた漫画が雑誌で賞を取ったことがある
・有名モデルが幼なじみ
・飲んでいたら有名人に会った
・父親が東京に勤務していた頃に某大手企業の元営業部長だった
・従姉妹が昔有名広告代理店で働いていた

◇性格的特徴 他
・ヒーロー願望があり、鬱やDV被害者などの女の子(美人に限る)に必要以上に関与する癖がある(対象者の家に住み込んで面倒を見る、新幹線の距離を毎週通うなど)
・プライドが高いが、目標を達成するために地道に努力するのは苦手
・上司などに悪い点を指摘されると嘘で自分を正当化するか逆ギレする
・回避傾向があり、嫌なことがあると1週間から1ヶ月程度会社を休む
・人と衝突しても同様に連絡を断つなどして関係を切ってしまう
・学校歴への強いコンプレックスを持つ(中堅程度の大学出身)
・内容が本当でなくても面白ければいい、疑われても認めなければそれは嘘にはならないというような発言から、嘘を悪い事だとは認識していない印象
・嘘が露呈するリスクを冷静に計算できていない。(親族関係の嘘など、結婚したらいずれバレると思わなかったのか?と質問したら、平気だという根拠のない自信があった、と発言)
・口が上手く初対面での印象は魅力的、カリスマ性があるように見える。面接が得意。
・人の心の機微に非常に敏感で場の空気を読むのがうまい
・役職者に可愛がられるのが上手いが、仕事で手を抜くので実務担当者には敬遠されている
・両親からはかなり甘やかされて育った(高校まで頻繁に車で送迎するなど)

説明が十分かは分かりませんが、可能であればご意見頂けましたら幸甚です。
どうぞよろしくお願いします。

 

林: 虚言は精神医学の死角にある。と私が 虚言癖、嘘つきは病気か のまえがきにお書きした通りで、虚言についての精神医学的知見は驚くほど乏しいです。
しかしそれでも、虚言癖(ここでは一応、「異常に嘘が多い人」を虚言癖と呼ぶことにします)の中には、精神科の診断をつけることが可能なケースがあります。この【3703】については、自己愛性パーソナリティ障害であるとみることができます。そう考えられる根拠として、

・ヒーロー願望があり、鬱やDV被害者などの女の子(美人に限る)に必要以上に関与する癖がある(対象者の家に住み込んで面倒を見る、新幹線の距離を毎週通うなど)
・プライドが高いが、目標を達成するために地道に努力するのは苦手
・上司などに悪い点を指摘されると嘘で自分を正当化するか逆ギレする

特にこの三つを指摘することができます。いずれも自己愛性パーソナリティ障害に典型的にみられる特徴で、そうしますと、このケースの数々の虚言は、自己愛性パーソナリティ障害から生まれていると判断できます。
自己愛性パーソナリティ障害と虚言について、最近私は、医療プレミアDr林のこころと脳と病と健康 に書いていますので、よろしければご参照ください。

ご質問への回答は次の通りです:

(1)そもそも医学上 A.「病的なもの」として分類されるのでしょうか
あるいは単に B.「極めてモラルが低い」という判断になるのでしょうか

「虚言は精神医学の死角にある」と記した通りで、虚言を病的なものとして分類するか、また、虚言の中でどのようなものを病的とみて、どのようなものを病的とみないかについては、確固たる見解はありません。ごく一部の特殊なもの(空想虚言症、ミュンヒウゼン症候群)についてのみ、はっきりと病気に分類されているにすぎないというのが現状です。
この【3703】のケースは自己愛性パーソナリティ障害が根底にあると考えられますが、ではパーソナリティ障害を病気に分類するかどうかについても、考え方は様々です。質問者がおっしゃるところの B.「極めてモラルが低い」という考え方にも一理あります。

(2) A.「病的なもの」ならば、原因は一般的に先天的なもの(脳構造の異常など)でしょうか、それとも後天的なもの(人格形成期の環境に問題があった等)なのでしょうか。

虚言に限らず、また、精神科で扱う疾患に限らず、「病的なもの」は、そのすべてが先天的なものと後天的なものの相互作用によって症状が表現されるものです。ただし先天的な要素が強いものもあれば、後天的な要素が強いものもあります。

(3) A.「病的なもの」ならば、このような症例の人間が病院に来るケース、その後寛解するケースは存在するのでしょうか

虚言を主訴に病院を受診されることはほとんど皆無に近いです。ただ精神鑑定の場面では精神科医の前に現れることがあります。

(2018.7.5.)

05. 7月 2018 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 精神科Q&A, 虚言