【3459】保健所に相談し、一歩前進しました(【3430】のその後)

Q: 【3430】10数年ひきこもっている弟が最近、特許や亡命にこだわるようになったでご回答頂きました40代女性です。

その後、最寄りの保健所へ電話相談し、精神科医への相談ができると言われ申し込み、先生のご著書、統合失調症 患者・家族を支えた実例集、笠原先生の精神病、また統合失調症に関する本を読んで、その日を迎えました。

当日、私と弟と同居している父と精神科医への相談を考えていましたが、連絡のいきちがいで弟も保健所へ来ていました。父はお姉ちゃんが心配しているから保健所に一緒に行く、と連れて来たようです。(騙して連れてきたり、無理やりではありません)

しかし、弟同席では突っ込んだ話もできないかもしれないし、周りからみた実情を聞けないかもしれないので、今日は弟は同席しないで私と父、保健所職員さん、精神科医(以下、先生)との4人でお話しする結論になり、せっかく来てくれはったから顔を見せて貰いましょうと先生が会って下さり、今日は姉と父から日頃の生活の様子を聞きたい、来てくれてありがとうとの内容を上手くお話し下さり、弟には帰宅させました。

先生に対して弟もきちんと礼節をもって応対してはいるものの、Nシステムってご存知ですか?と聞いていました(これが自分の特許と思われます)

私も弟の状態、言動などを時系列で記入した物を持参しました。

保健所の先生の見立ては林先生とほとんど一緒でした。
先生も統合失調症で発症してから年数がたっている、離人症の診断は統合失調症の初期だったと思われるが、その時に統合失調症との判断は難しい。
昔(離人症との診断を受けた時より、その時は母に歯ブラシに洗剤をつけられたと言ったりしていました)より、父から見たらマシになってると言うのは、引きこもれる環境があり世間とある意味遮断されてきた、守られてきたからだと思う。もしそういう環境でなかったら離人症診断後から今までの間に、症状とハッキリわかるような形で現れていたかもしれないと言われました。
薬漬けが心配との父の質問にも、昔は薬が多量な時もあったが今はできるだけ少なく単体になっている。
ただ、発症から年数が経っているので、薬を飲んでも効いてくるのに時間がかかるかもしれない、そして今の症状も、暴れて1分1秒争うような状態ではないから、いきなり精神病院の精神科と言うより精神科のクリニックから行かれてみてはとも言われました。
そして、今の症状から、今日先生とも会ったし、本人さんからもお話し聞きたいと先生がおっしゃってるという形で、来月(今月は面談開催がもうないため)今度は弟も交えてお話してくださる事になりました。

今回質問させて頂きたいのは、薬の事、症状の事です。
薬は初期には効いて、年数が経っていると効きにくいのは何故でしょうか?
先生は現状が長い間で固定されてしまっているから、それを薬で溶かすためには時間がかかる可能性があるような事をとおっしゃいました。
統合失調症で周りからみたらおかしな思考、思い、が固定されていても、薬でドパミンを抑えれば効くのではないでしょうか?
発症から年数がたっていますが、弟に効く薬はあるのでしょうか?

また症状については、父いわく前はお小遣いも遠慮があったのに、最近は当たり前のように受け取ると、だから働きたくないための、自分を正当化するために言ってるのでは?言っています。要するに嘘ではないか、演技ではないかと。
私にもお金を貸して、親父の収入が入ったら切りつめて返すからと、自分は働く気はありません。

弟の症状を理解するのに笠原先生の本はとても分かりやすかったです。
すぐに父にも渡し、今手元にありませんが。
先生との面談も1時間しかなく、すぐ終わってしまいまして、質問する時間もないような感じでした。役所の仕事だから仕方ないのでしょうね。
先生は穏やかな先生でしたが。

面談後、先生が来月お話し聞きたいとの話を弟にしに行きました。
私が行くと弟は不在で部屋に便箋が見えたのでみてみると「著作権の侵害に苦しんでいる」と、書いてある物がありました。ただ弟が帰宅したので、最初の一文しか読めませんでしたが。(部屋に絶対に勝手に入りませんが今回は扉が開いていたので)その中に、警察から弟が今年3月に拾ったサイフが持ち主に返ったとのお礼の手紙もあり、こうゆうきっちりとした優しい所もあるのに、なんでこうなったんやろうと悲しくなりました。

弟に来月の話をしたら、頭上右上に手をやり、「ほら、聞こえへんの?俺が今テレビに話をしたら(テレビには)聞こえてる」といい、テレビにでていた芸能人に「〇〇さん右手を上げて下さい」とボソボソとはなし、勿論、右手はあげませんが、「今日はおかしいなぁ」くらいで頭を傾げてました。
私も「ほら、上げないでしょ!」と批判したり、また肯定もよくないと本で読んだので、突っ込んだりせず、ながしました。

この幻聴と思われる事も年数が経ってるために薬では症状がなくなるまで時間がかかるのでしょうか?

私も統合失調症など調べたりしていましたが、度重なる弟からの電話、話が通じない事などにうんざりしていて、怒って応酬してしまっていました。
身体的な病気とは違って、病気かも?とは思いながらも、生活はできているし、おかしな事を言う、自己中心的な考えで動く弟に嫌気がさしていて、何度も父親がいなくなったら路上生活しか道はない、40歳までに仕事はじめないと仕事先がない、と散々言っても一向に他人事、どこ吹く風な弟に、そうなったらもう縁を切るかくらいに考えていました。

そんな時たまたま先生のサイトに出会い、私も動きだす事ができました。

林先生の、今からでも治療を受ければ改善は期待できます、との言葉に救われました。
と同時に、発症から年数が経っているため、改善するにはどれくらいかかるのだろううか、自立できる様になれるのが一番良いですが、父がいなくなり最終手段として生活保護を受けながらでも上手に病気と付き合って生きていく事はできるのだろうか、不安で仕方ありません。

次回の保健所の面談日は弟が大好きだった祖母の命日なんです。
林先生のサイトに出会え、何とかできないかと動きだし、孫の中でも弟を1番可愛がっていたおばあちゃんが助けてくれてるのかな、と思いできる限りは頑張りたいと思います。

乱筆乱文失礼いたしました。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。弟さんのために、大きく一歩前進されたと思います。保健所の精神科医もとても良い先生だったようで、弟さんとご一家にとって大変幸運だったと思います(このようなケースでは最も頼りのなるのは保健所ですが、実際には保健所も保健所の医師も、地域によってかなりの差があるものです)。現時点では、結論に先走りせず、着実に治療を続けていることが最も重要です。

今回ご質問の件については、

薬は初期には効いて、年数が経っていると効きにくいのは何故でしょうか?

それは「わからない」が正しい答です。また、そもそも「薬は初期には効いて、年数が経っていると効きにくい」というのがどこまで事実かは難しい問題です。発症から年数が経っていてもよく効くケースもあります。逆にはっきり効きにくいのは、人格変化が進んでいるケースです。
この【3459】のケースのように無治療のまま統合失調症が経過しますと、人格面での今の状態が、統合失調症という病気の直接の帰結としての脳内変化によるものか、それとも幻覚妄想のために長年ひきこもりなど特異な生活をしていたことによる変化なのか区別がつきにくいものです。前者すなわち病気の直接の帰結としての脳内変化については、現代の抗精神病薬はほとんど効かないというのが実情です。これについては、無治療であっても治療を受けていてもあまり変わりません。(【1437】55歳、統合失調症の従兄弟は自立できるかなどをご参照ください・・・但し【3459】のケースがこの【1437】と同等の重症度という意味ではありません)

統合失調症で周りからみたらおかしな思考、思い、が固定されていても、薬でドパミンを抑えれば効くのではないでしょうか?

質問者のこの疑問は部分的には正しいです。「周りからみたらおかしな思考、思い」が幻覚妄想を指しているのであれば、それはドパミンの関与が大きい症状ですので、今からでも抗精神病薬による改善は充分に期待できます。しかし統合失調症という病気の症状はドパミンの異常だけによるものではありませんので、「薬でドパミンを抑えれば効く」という考え方の正しさは部分的でしかありません。最近はドパミン以外の神経系にも作用する抗精神病薬がいくつも出されていますが、それでも幻覚妄想以外の症状への効果はかなり限定的です。(【2305】陰性症状に非定型抗精神病薬は効くのでしょうか などをご参照ください)

また症状については、父いわく前はお小遣いも遠慮があったのに、最近は当たり前のように受け取ると、だから働きたくないための、自分を正当化するために言ってるのでは?言っています。要するに嘘ではないか、演技ではないかと。

統合失調症という病気の症状は、このように誤解されることがしばしばあります。統合失調症に限らず、多くの精神疾患の症状が、演技や怠けではないかと誤解されがちなものです。それは人が、人の心の動きには何か理解できる理由があるに違いないと考える慣習に基づいています。実際にはそうした理解を超えた精神疾患というものが多数存在しますが、それは日常の常識からは外れた考え方であるため、なかなか受け入れられないものです。しかしそれが、病気の発見を遅らせ悪化させるという悲劇や、病気の人への対応を誤らせるという問題を生んでいます。
たとえば、

私も統合失調症など調べたりしていましたが、度重なる弟からの電話、話が通じない事などにうんざりしていて、怒って応酬してしまっていました。
身体的な病気とは違って、病気かも?とは思いながらも、生活はできているし、おかしな事を言う、自己中心的な考えで動く弟に嫌気がさしていて、何度も父親がいなくなったら路上生活しか道はない、40歳までに仕事はじめないと仕事先がない、と散々言っても一向に他人事、どこ吹く風な弟に、そうなったらもう縁を切るかくらいに考えていました。

残念ながら質問者のとってきたこの行動は、まさにそんな実例になっています。

けれども今回、保健所への相談という行動を起こされたことで、大きく画期的な一歩を踏み出すことができたことは確実です。

発症から年数が経っているため、改善するにはどれくらいかかるのだろううか、自立できる様になれるのが一番良いですが、父がいなくなり最終手段として生活保護を受けながらでも上手に病気と付き合って生きていく事はできるのだろうか、不安で仕方ありません。

その不安はよく理解できますが、先に述べた通り、現時点では、結論に先走りせず、着実に治療を続けていることが最も重要です。

なお、今回保健所でのことについて、

先生との面談も1時間しかなく、すぐ終わってしまいまして、質問する時間もなくな感じでした。役所の仕事だから仕方ないのでしょうね。

と質問者はおっしゃっていますが、ここは認識を大いにあらためる必要があります。
1時間という面談時間は、例外的とも言っていいくらい丁寧な面談だったと認識すべきです。当事者としては1時間でも足りないと感じられるかもしれませが、精神疾患を持つ方の患者数と、それに対する相対的な精神科医の数からいえば、一つのケースに1時間もかけることは、本来は望ましいことではあっても現実にはなかなか困難なことです。今回の精神科医の先生は大変丁寧な対応をしてくださったと認識しなければならないでしょう。(薬のことや具体的な治療方針等は、この先生でなく、これから治療を担当してくださる主治医の先生にお聞きすべきことです。ご家族としてこの機会にこの先生に質問したかったということはよくわかりますが、具体的な方針は医師によって微妙に異なりますので、保健所で相談を受けた医師としては、むしろあまり説明しないほうが正当なやり方とも言えます)。「役所の仕事だから仕方ないのでしょうね」は、この保健所と精神科医に対して大変失礼な言葉であると言わざるを得ません。

警察から弟が今年3月に拾ったサイフが持ち主に返ったとのお礼の手紙もあり、こうゆうきっちりとした優しい所もあるのに、なんでこうなったんやろうと悲しくなりました。

優しい所があることと病気であることは別です。だからこそ病気であって、医学的な治療が必要であると言うこともできます。また逆に言えば、そうした優しい所、病的でない部分に働きかけることが、病気の改善にもつながります。これを申し上げるのは3度目になりますが、現時点では、結論に先走りせず、着実に治療を続けていることが最も重要です。

(2017.6.5.)

その後の経過 (2017.7.5.)

05. 6月 2017 by Hayashi
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