【3458】37歳男。性犯罪を繰り返しています。

Q: 私は34歳の女性です。
今日は私の主人の弟(37歳)の件でメールさせて頂きました。
実は主人の弟は10代のころから覗きや盗撮で数回警察に逮捕された経験があったのですが、3年ほど前に覗きだけにとどまらず下着とお金を盗んで窃盗で逮捕されました。
その時は執行猶予になったのですがその執行猶予が切れる半年ほど前に再度、同じようなことをして刑務所に入ってしまい先月出所してきたんです。

その時に弁護士の先生が精神病かもしれないといい(半分以上は精神病になれば少し罪が軽くなるのではと言う目的だったのだと思いますが)、大学病院の精神科医に診断を御願いしたんです。その時は特に精神病という診断はされないで刑務所に入ってしまったのですが、先月出てきたばかりだというのに今日また検察から主人の所に盗撮で東京都の迷惑防止条例で逮捕しましたと連絡がきたんです。

主人はいいかげんあきれているのですが、私にはどうしても精神的な病気なのではとしか思えないんです。
先日出所してきた時に私と義母にもう二度としないし絶対にがんばるからと言うような事を言ったのですがその時の言葉や表情が忘れられないほど印象に残ったのと、その後の生活態度(まだ1ヶ月程度ではりますが)から考えると、どうしてもただムラムラしたとかそんな簡単な気持ちでやってしまったとは思えないんです。それで主人にも今回はかなり強く精神科医に連れて行くように言ったのですがそんな病気があるわけがないといって取り合ってくれないんです。

でも私には「気が付いたら盗撮していた」みたいな状況じゃないかとしか思えないんです。
それで性欲を減退させる薬や治療方法があるのではないかと思ったのですが、そんなのはないかもしれないし、実際にこういう場合精神科医に行ったほうがいいのか病名自体あるのかもわからずどうしたら良いかわからない状態です。せめてそういう病気があるとかそう言う事がわかれば主人にも病名などをいって精神科に連れて行くように説得できますし、病気なら本人が一番苦しんでると思いますので何とか助けてあげたいと思いご相談させて頂きました。

主人の弟の行動は特にお酒を飲んだ後に起こすことが多いのですが、しらふの時もあります。
性格は外交的というほどではないですが、特に内向的でもないです。
一般的に変質者は内向的で女性にももてなくて引きこもりのイメージが私にはあるのですが主人の弟は逆で、女性には不自由しないほどよくもてるのですが、それでも盗撮したり女性の下着やアルバムとかを盗んだりしてしまうようです。
言葉が足らずにうまく説明できたか自信がないのですがよろしく御願い致します。

 

林: これは一種の病気と考えていいと思います。ここでいう病気とは、「脳の機能が標準から一定以上逸脱しており、それに関連して、行動が一定以上に逸脱している」という意味です。
まわりくどい定義で申し訳ないのですが、この【3458】のケースを「病気」として説明するためにはこの定義を持ち出す以外にないと思います。そしてこれは、「精神の病とは何か」という根本的な問題にも直結しています。

この【3458】のケース、「行動が一定以上に逸脱している」ことについてはおそらく異論はまずないでしょう。その行動が犯罪とされ刑罰の対象になっているということは、すなわち他人や社会に迷惑をかけていることにほかならず、それを言い換えれば一定以上に逸脱した行動を取っているということになります。

この【3458】の質問者の疑問はそこからです。すなわち、彼の行為が犯罪にあたることは認識したうえで、しかし普通の犯罪とは違うと直感しておられます。その理由は次のように書かれています。

先日出所してきた時に私と義母にもう二度としないし絶対にがんばるからと言うような事を言ったのですがその時の言葉や表情が忘れられないほど印象に残ったのと、その後の生活態度(まだ1ヶ月程度ではりますが)から考えると、どうしてもただムラムラしたとかそんな簡単な気持ちでやってしまったとは思えないんです。

つまり、単なる性犯罪者とは違う。質問者は彼のことをそのように考えておられるということになります。
それは質問者の直感にすぎないと言えばそれまでですが、しかしその直感は尊重されていいと思います。少なくとも、単に性欲を抑えられないことによる性犯罪累犯者と同じであると簡単に片付けることはできないでしょう。すなわち、そうした性犯罪累犯者とは異なる何らかの脳機能異常(これを先ほどは「脳の機能が標準から一定以上に逸脱している」と表現しました)が彼にはあるということです。

この回答の冒頭で述べたように、これは一種の病気と考えていいと思います。しかしながら、そもそも精神の病とはその範囲が曖昧なものであって、何をもって病気とみなすかは確固たる基準が存在しません。この【3458】のケース、「脳の機能が標準から一定以上に逸脱している」ことを理由に私は「一種の病気」と述べましたが、では「単に性欲を抑えられないことによる性犯罪累犯者」も「脳の機能が標準から一定以上に逸脱している」のではないか、と問われれば、それもまたその通りですから、この【3458】のケースと「単に性欲を抑えられないことによる性犯罪累犯者」との違いを説得力を持って示すことは不可能ということになります。
そしてこの論理を敷衍すれば、いかなる精神疾患についても、仮に「脳の機能が標準から一定以上に逸脱している」ことをもって病気とするのであれば、単なる性格の偏りとの違いを示すことは不可能になります。この考え方をつきつめて行くと、「精神疾患なるものは存在しない」という反精神医学の思想にたどり着くことになります。
しかしこのような考え方はいかにも抽象論であって、現実に「精神疾患」とされている生のケースを目の当たりにすれば(精神科Q&Aの多くのケースをご覧ください)、「精神疾患なるものは存在しない」は空論と言わざるを得ません。とは言うものの、たとえ抽象論であっても理論は理論として尊重すべき点はあるのであって、この【3458】のケースのように、症状が反社会的行為(犯罪)に直結したとき、この問題が露呈することになります。

それで主人にも今回はかなり強く精神科医に連れて行くように言ったのですがそんな病気があるわけがないといって取り合ってくれないんです。

この2行は精神の病を取り巻く上記の問題を象徴するものと言えます。すなわち、【3458】のケースが病気であるとする質問者の直感は、医学生物学的には正しいです。他方、「そんな病気があるわけがない」とするご主人の直感は、社会常識的には正しいです。犯罪者を一律病気であるとみなしていたら、社会は成立しないでしょう。

でも私には「気が付いたら盗撮していた」みたいな状況じゃないかとしか思えないんです。

その通りかもしれません。そしてそれは、彼の行為が病気によるものであるとする根拠になるかもしれません。けれども現実には、多くの犯罪者が同じような弁解をするものです。彼の状況はそれとは違うかもしれませんが、それは主観の中での違いにすぎない以上、本人以外にはわかりません(厳密には本人にもわかりません)。すると 「気が付いたら盗撮していた」みたいな状況 であるといくら主張しても、「それは他の犯罪者とどこが違うのか?」と問われたとき、説得力ある説明をすることはほぼ不可能でしょう。そしてさらに重要な点は、たとえ他の犯罪者とは違うとしても、被害者にとっては何の違いもなく、被害を受けたという事実は同じだということです。

主人の弟の行動は特にお酒を飲んだ後に起こすことが多いのですが、しらふの時もあります。

そうしますと、現実問題としては、「酒は決して飲まない」が彼のすべき重要なことの一つということになるでしょう。しらふのときに性犯罪をしてしまった時に、「再犯しないための努力として、断酒していた」が有効な弁解として認められるかどうかはわかりませんが、逆に酒を飲んでいるときに再犯した場合、これまでの犯行が飲酒時に多かったことがわかっているのに飲酒したとなれば、病気である・ないにかかわらず、弁解の余地はないということになるでしょう。

(2017.6.5.)

05. 6月 2017 by Hayashi
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