【3253】常軌を逸した言動と違法薬物の使用

Q: 私は50歳男性です。3階建アパートの大家をしています。地階に私が住み1、2階をレンタルして います。X年11月に、土建業を営む35歳の男性と大手不動産会社に勤める22歳女性の婚約者カップルと3年の賃貸契約を結びました。

最初カップルは仲良くしていたのですが、ややもすると二人の仲は急速に悪化。女性は僅か1ヶ月半で出て行ってしまい、その後ずっと別居しています。原因は(1)男の違法薬物使用。  (2)男の浮気。(3)男の思考が極端で常識を逸脱している。等によると思われました。

(1)男が私を夕食に招待し、男と二人で1階のリビングルームで雑談をしながら食事をしていると突然運び屋が来て、男は金を払うとおもむろに私の目の前で白い粉を鼻から吸引し始めました(私を巻き込んで共犯者にしたいのだろうと推測)。男が吸引していた薬はコカインだと思います。小さなスプーンを使うか、テーブルに線状に置いてストローで鼻から吸引していました。  吸った直後は恍惚とした表情でソファーに倒れていました。吸引するとその後一晩中興奮して寝られない様子。週に3、4回真夜中にドタバタ暴れる気配があるので、それが薬を吸引した時なのかも知れません。何度も薬を止める様に説得しましたが全く無意味でした。

(2)女癖が酷かったです。婚約者に睡眠薬を飲ませて熟睡させてから夜中に姿を消したり(私自身も男に睡眠薬を食事に混ぜられた事が二回程有りました)。私の携帯を盗んで浮気相手と連絡を取ったり。元婚約者が出て行ってしまった後も、私の留守中にセックスパートナー(若しくは売春婦)を私の部屋に引っ張り込み、(当時未だ元フィアンセが戻って来ると思っていたので自室での行為を避けたのでしょう)情事に及んだ事も1度や二度ではなかった様です。

(3)性格に関しては、表面的には社交的で親切な人に見えるのですが、よく観察すると、非常に狡賢く、相手を信用させてから自分の都合がいい様にコントロールしようとする魂胆が感じられました。少しの親切(夕食に誘ったり、アパートの雪かきを手伝ったり)の後には必ずドラッグパーティーを開きました。不必要で高額な改修工事を私に勧める等、商談だけなら未だ良いのですが、入居から1年もすると、私が貸している部屋の窓やバスルーム等を事故を装って故意に壊し始めました。私が修善しようとして修理業者を呼ぶと、突然言い掛かりを付けて「お前ら自賠責に入ってないだろ!」と騒ぎ出し、工事をことごとく中断させました(ちゃんと法的に認可された業者です)。私が途方に暮れていると、ある日突然私の留守中に無許可で自分が壊した箇所を修理し、請求書を送って来て来ました。そして「今月の家賃はこれでチャラだから」と家賃を払いません。

当然の結果ですが、このカップルを相手取って空渡し訴訟を起こし強制退去させました。裁判の内容は省略します。私が知りたいのは、若しかしたらこの男が最初から「精神的に何らかの異常を持つ人だったのではないか?」という事です。仮にそうなのであれば「何という病気なのか?」そして「どうしたら将来その様な人物を事前に見抜く事が出来るのか?」知りたいのです。  先生のご意見が頂けたら幸いです。

以下、私が感じた男の特徴を書きます

(A) 他人を思いやる気持ちが無い
人が困っている時、嬉しそうな表情を浮かべます。例えば、私がリフォームの資金繰りで困っている話を聞いている時の男の表情はまるで私の不運を楽しんでいる様にしか見えませんでした。 まるで犬が食べ終わって残った骨を舐め続ける様な…

(B) ペットの大型犬を普段は放置しているが人前では大袈裟に可愛がる。
元婚約者が可愛がっている犬を彼女が居ない時は完全に放置して居ました。散歩どころか糞の世話もしません。犬は寧ろ私に懐いて居り,男はその事に対して憤慨していました。恐らく彼はペット全般が好きでは有りません。近所の猫が現れてもテラスの階段に障害物を置いて登って来られない様にしています。でも一方、植物は大好きな様でテラスでガーデニングに精を出しています。

(C) 人前に出る時の表現が大袈裟でわざとらしく、まるで舞台で演じている様な印象を受ける
私が手配した修繕業者が約束の時間アパートに来た時、ドアベルを何度鳴らしても出て来ません。10分程待って再びノックすると全裸にバスタオルを巻きシェービングクリームを顔中に塗ったくり現れました。あたかもシャワーを浴びていてドアベルに気が付かなかったと… でも体は全く濡れていません。その後私の業者を大声で非難し始めました。勿論、こちらには何の落度も有りません。単に工事を妨害したかったのでしょう。でも私が不思議に思うのは、何故この男の行動はこんなにも芝居染みて居るのか?と言う事です。

(D) 事態が最悪に成る迄、一切対処しようとしない
駐車違反を7回繰り返したのに全く罰金を全く払いませんでした。ある日車を没収され20万円の支払いを裁判所から求められました。その時点で初めて払ったそうです。普通なら二、三度目のチケットで罰金を納めなければ、その後重大な問題に発展する事は想定出来ますよね? 裁判沙汰に成る迄払わなかった理由を聞いたら「払うのが面倒だったから」だそうです。彼は問題が絶対回避出来なく成る迄、無意味で不毛な抵抗を全力で続けます。

(E) 幻覚を見ている様な時が有ります
複数人の前に立つ時は、非常に尊大で威圧的で芝居染みた態度を見せるのですが、その裏では不安に苛まれている様にも見えます。つぶやく様に「今この界隈でどれだけ空巣被害が起きているのか知らないのか?俺にも防犯カメラが必要なんだ!」とか「誰かが俺の家に侵入して来たら懐中電灯で殴って撃退してやる」とか「Pさん(不動産のエージェント)が俺と婚約者の復縁の邪魔をしている」等。どれを取っても事実無根です。

(F) 暴力団との繋がりを臭わす
「自分は暴力団員ではないが暴力団からは建設の仕事を貰っている」と言います。間接的な繋がりを仄めかす単なる脅しかも知れません。対立するメンバーの「四肢を骨折させて1年間入院させた」話や無実の人の部屋に大量の違法薬物を忍ばせ「薬物所持で懲役10年にしてやった」等、散々脅されました。

ご回答頂けると大変助かります。この失敗を通じて成長したいと思います。

 

林: この人物はパーソナリティ障害でしょう。そして薬物使用による精神病症状が出ているとみるのが妥当だと思います。(E)の「幻覚」は、幻覚と被害妄想で、薬物によるものとして理解できます。(もちろん統合失調症の可能性を否定することはできませんが、違法薬物を常用していることが明らかな以上、薬物によるものを第一に考えるのが妥当です)

パーソナリティ障害の種類としては、現代の診断基準でいえばB群パーソナリティ障害に該当します。本でお調べになると、反社会性パーソナリティ障害、自己愛パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害などの特徴がどれも見られることに気づかれると思います。現代の精神医学において、これらのパーソナリティ障害の分類は表面的な特徴に基づいた便宜的なものにすぎず、この中のどれであるかと特定することに実質上はあまり意味はありません。これらをまとめたB群パーソナリティ障害とするのが現実にかなっています。虚言もこの群のパーソナリティ障害にはしばしば見られます。

「精神的に何らかの異常を持つ人だったのではないか?」

パーソナリティ障害です。パーソナリティ障害を「精神的に何らかの異常を持つ人」に含めるかどうかは立場によって異なります。性格の偏りにすぎないとみる立場もあります。
なお、このケースは入居の時点ですでに薬物により精神病症状があったと考えられますので、中毒性精神病(公式な診断名は物質・医薬品誘発性精神病性障害)の診断名がパーソナリティ障害に加わえてつけられることになるでしょう。

「何という病気なのか?」

上記の通り、B群パーソナリティ障害及び物質・医薬品誘発性精神病性障害です。
(なお、質問者は彼の使用している薬物を「コカインだと思います」とお書きになっていますが、その推定には全く根拠がありません)

「どうしたら将来その様な人物を事前に見抜く事が出来るのか?」知りたいのです。

事前に見抜くことは不可能でしょう。但し、パーソナリティ障害についての知識があれば、より早期に見抜くことはできます。特に注意すべきと思われるのは、病的な虚言です。虚言は精神医学の死角にある と私は虚言癖・嘘つきは病気か のまえがきにも書きましたが、病的な虚言の人はふつうに考えられているよりはるかに多く、かつ、現代の精神医学界ではほとんど看過されています。【2565】同僚の信じ難い虚言で酷い目に遭った などもご参照ください。

それはそうとこの【3253】については、違法薬物の使用を質問者はかなり早期の時点で認識されていたわけですから、

何度も薬を止める様に説得しました

その過程のどこかで警察に通報すべきだったと言えるでしょう。他人である質問者の説得に効果があるなどと考えるのは甘いです。

(2016.7.5.)

05. 7月 2016 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 精神科Q&A, 虚言, 覚醒剤 タグ: |