【3128】演技性パーソナリティ障害同士はうまくいきますか

Q: 30代女性です。
年下の恋人の言動に疑問を感じることがあり、虚言癖を疑い検索しているうちに演技性パーソナリティ障害というものに驚くほど当てはまることに気づきました。
彼は苗字、年齢、所属先など人物そのものを詐称しています。
実家が裕福、友達が大企業などと具体的な話を頻繁にしています。
私にとってはどうでもいい内容で、嘘でも誠でも意味のない話に思えます。
でも本人は作り上げた設定に成りきって話をしていて、とても一生懸命です。私をだまして体よく付き合っていたいのかな?とも思ったのですが、普段奢るわけでもないし彼にとって嘘を付いてまで得していることがあるとは思えません。
また彼の愛情表現が強く、独占欲にも戸惑っています。

彼の嘘に気づいていますが、あまり怒りを感じません。
というのも、彼と同い年の頃、私も全く同じようなことをしていたからです。
注目と愛情を求めて、嘘を付き演じ、成りきって泣くこともありました。
架空の兄弟との関係に悩んでることを当時の恋人に打ち明けたりしていました。
当時の友人や恋人とうまくいかなくなり、自分でも何やってんだろうと空しくなってた頃に身の丈にあった就職をして以来、嘘をつかなくなりました。
相手が嘘を付いていないか過剰に疑う性格でしたが、今の彼が嘘をついているとわかったときには返って鷹揚な気持ちになりました。
演技性パーソナリティ障害について調べて、自分と彼は同じことをしている(していた)と自覚出来たからだと思います。
そして、楽になればいいのに、そんな大した存在じゃないって。別に大した存在じゃなくても好きだから、いいのに。と言いたくなってしまいます。

私は絶対的な愛情を求める気持ちが強く、その飢餓感とどう付き合っていったらいいのか模索中です。愛情を求めすぎることをようやく自覚したのもこの数年です。
彼も同じような思考があっての演技性パーソナリティ障害なら、求め合うものが一致していると理解しあえばすごく相性がいいのかなと思ったりします。
反面、依存しあうことになれば良くないのかなと思ったりもします。
今のところ、彼の嘘を指摘していません。私の嘘つき経験も話していません。
実際、同じパーソナリティ障害を持つ人同士が理解しあい支え合うことは可能なのでしょうか。

林: 回答は三種類考えられます。 (1) うまくいきません  (2) わかりません (3) きっとうまくいきます の三種類です。

(1) うまくいきません
精神科の臨床で観察する限りでは、「うまくいきません」が経験則的な答えになります。パーソナリティ障害の人同士がパートナーになった場合、一時的にはうまくいくことがあっても、まず必ず破綻します。

(2) わかりません
けれども、「わかりません」がおそらく正解だと思います。
上記(1)で 「精神科の臨床で観察する限りでは」と言いましたが、実際には「精神科の臨床では観察されないケース」が存在するはずです。それが多いか少ないかわかりません。しかし確実に言えるのは、「精神科の臨床で観察する」のは、うまくいかなかったケースに偏っているということです。うまくいっていれば精神科を受診する必要はなく、したがって精神科医が目にするのはうまくいかなかったケースばかりになることになります。

(3) きっとうまくいきます
模範解答なら「きっとうまくいきます」になるでしょう。上記(1)は、上記(2)の理由であてにならない以上、うまくいくという期待ももちろんできるからです。そして、そうであればうまくいく方向にサポートするのが医師に求められる行為だからです。しかし精神科Q&Aは医療相談ではなく、単に事実をお答えするものです。したがってこの(3)の答えはいたしません。

最も誠実な答えはおそらく (2) わかりません になるでしょう。もしそれでは困る、どっちかにしてくれ、と求められれば、「うまくいかないと思います」が私の個人的見解です。

(2016.1.5.)

05. 1月 2016 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 精神科Q&A