【2909】初診でADHDと診断され、すぐ薬を出されたのですが、飲む必要があるのでしょうか

Q: 私は30代女性です。医療従事者ではありませんが、医療施設で働いています。
とても忙しい職場で、マルチタスクも日常茶飯事です。それを上手く順序良くこなせない事や、指示された事をうっかり忘れるなどが多発し、以前から自分でもADHDが疑わしいと感じていたのもあり、初めて精神科を受診しました。
30分程度の面談で、幼少期からの事を聞かれたりチェックリストの実施後、「ADHDだと判断するのが妥当でしょう」と主治医に言われました。
そして、当日すぐにコンサータが処方されました。この薬に関しては、例えば今日はのんびりしても良い日だから飲まない、など、服用は自分で決めて良いとも言われています。
しかし、自分では未だに、本当にADHDであるのか不安なのです。
うっかり忘れ物をしてしまう、嫌なことを先延ばしにしてしまう、整理整頓が苦手である、などは、程度の差はあれど誰にでもある事です。
それを、障害のせいだと言い切ってしまって良いものなのか。安易にコンサータを服用して良いのか。
薬とともにいただいたハンドブックには、まずは心理社会的治療を始めるとありましたが、主治医は「こうして精神科を自分で受診する方は、今までこのような努力をしてきてそれでも上手くいかなくなったから来ているはずなので、こんな事はわざわざ言われなくてもわかってるよって話でしょうから」「こちらも参考に読んでいただくとして、せっかく薬があるのだから飲んでみるのも良いと思いますよ」との事でした。

なお、職場には診断を受けた事を話したところ、医療従事者である上司は症状にとても理解があり(実際、私がADHDではないかとも思われていたそうです)、私に適した形で仕事の指示の仕方や内容を考えると言っていただけて、それからは以前よりも格段にスムーズに働けています。
そのため、コンサータが効いているのか上司の対応のおかげかが判断できにくいのだけど、あまり頭がすっきりしているような実感はないと主治医に伝えると、副作用は特に出ていない事もあってか、徐々に薬の量が増えています。
二回目以降の診察は毎回10分以内で、薬の効き目と副作用に関してしか聞かれません。
こうして職場が対応してくれて(それは主治医にも言ってあります)、それまで抱えていた問題がかなり改善されている現状では、薬はもう必要ないのではないかと思っているのですが。
飲んだら治るという薬ではないのはわかっていますし、服用の有無も自分で決めて良いと言われているので、必要ないと思えば自分が飲まなければ良いだけの事なのですが、主治医の診断や投薬の判断があまりに早急な気がして、質問させていただきました。
薬の出し方も、「次は何週間分にしますか?少し増やしてみます?(私から、27ミリを一週間と36ミリを一週間という形でも良いのか聞くと)ああ、それでも良いですよ、じゃあそうしましょうか」という感じで、何だか少し不安になるのです。

なお、初めて精神科を受診する時に、最初に他院に電話して成人のADHDを診てもらえるか聞いたところ、うちでは専門ではないので良ければこちらに、と教えていただいたのが今のクリニックです。

林:
この【2909】の主治医の先生の言葉、

「こちらも参考に読んでいただくとして、せっかく薬があるのだから飲んでみるのも良いと思いますよ」

これは必ずしも間違いとは言えません。しかし、私は賛成できません。

それ以前の問題として、この【2909】のケースがADHDと診断できるかどうかは不明ですが、この点は後回しにて、まず上記、「間違いとは言えないが、賛成できない」という理由は次の通りです:

「ADHDの薬物療法としてコンサータは正式に認められている以上、初診から処方するという方針は間違いとは言えない。しかし、(1)ADHDには薬物療法以外の対応法があるのにもかかわらず、初診から処方するのは、薬物療法に偏した診療である (2)【2909】がADHDだとしても、薬物療法が必要なレベルとは思えない (3)そもそもADHDに薬物を処方することにはかなり慎重であるべきである という理由から、賛成できない。これら(1)(2)は医学的に標準的な見解である。(3)は林個人の見解であって、標準的とは言えない」

さらに、この【2909】のケースがADHDとはいえない可能性もあり、そうなればコンサータの処方は論外ということになります。
「この【2909】のケースがADHDとはいえない可能性もあり」の根拠は次の通りです:

30分程度の面談で、幼少期からの事を聞かれたりチェックリストの実施後、「ADHDだと判断するのが妥当でしょう」と主治医に言われました。

幼少期からの事は、本人からの聴取だけでは普通は不十分です。幼少期の事について、本人の記憶が充分に正確であるはずはなく、また、記憶されている事項についても、本人が客観的に語ることはまず不可能だからです。
但し、かなり明確なADHD(ないし発達障害)の場合は、本人からの聴取が強い診断根拠になることはありますが、この【2909】のケースがそこまで明確なADHDとは考えにくいと思います。

うっかり忘れ物をしてしまう、嫌なことを先延ばしにしてしまう、整理整頓が苦手である、などは、程度の差はあれど誰にでもある事です。

その通りです。ですからそれだけではもちろんADHDという診断はできません。「程度の差はあれど」、その「程度」が具体的にどの程度であるかが問題です。したがってチェックリストなどで自己診断することは不可能ですが、この【2909】では直接医師が聴取していますので、診察の結果からみて「ADHDと診断できる程度」であったという推定が一応は成り立ちます。(「一応」というのは、初診からすぐにコンサータを処方したことなどからみて、この医師の診療技術は信用がおけないのではないかと考えざるを得ないからです)

それを、障害のせいだと言い切ってしまって良いものなのか。

良いはずがありません。しかし医師の診断に基づけば、「障害のせい」という判断は充分に成り立ちます。この医師の診断に基づいて成り立つかどうかはまた別の話になりますが。

安易にコンサータを服用して良いのか。

良いはずがありません。しかし「安易」というのは質問者の主観ですから、この場合、本当に「安易」といえるかどうかはわかりません。

薬とともにいただいたハンドブックには、まずは心理社会的治療を始めるとありましたが、主治医は「こうして精神科を自分で受診する方は、今までこのような努力をしてきてそれでも上手くいかなくなったから来ているはずなので、こんな事はわざわざ言われなくてもわかってるよって話でしょうから」

この医師がいかなる根拠に基づき「今までこのような努力をしてきてそれでも上手くいかなくなったから来ているはずなので、こんな事はわざわざ言われなくてもわかってるよって話でしょうから」と言っているのか、理解に苦しみます。この【2909】の質問者は「今までこのような努力をしてきてそれでも上手くいかなくなった」のでしょうか? 仮にそうだったして、それをこの医師に伝えたのでしょうか? 文脈からすると、到底そうは思えません。すると「今までこのような努力をしてきてそれでも上手くいかなくなったから来ているはずなので、こんな事はわざわざ言われなくてもわかってるよって話でしょうから」というのは、初診から薬を処方することを目的とする一方的な決めつけと考えざるを得ません。

「こちらも参考に読んでいただくとして、せっかく薬があるのだから飲んでみるのも良いと思いますよ」との事でした。

この回答の冒頭に記した通り、「せっかく薬があるのだから飲んでみるのも良い」ということ自体は間違った医療とは言えません。しかし私は全く賛成できません。理由は上記(冒頭近く)(1)(2)(3)の通りです。

こうして職場が対応してくれて(それは主治医にも言ってあります)、それまで抱えていた問題がかなり改善されている現状では、薬はもう必要ないのではないかと思っているのですが。

その通りです。この医師の診療技術が信用できないと私が考える最大の根拠はこれです。繰り返しますが、コンサータを処方すること自体は、たとえ初診時であっても、間違った治療方針とはいえません。けれども、「それまで抱えていた問題がかなり改善されている現状」でもなおコンサータの処方を続けるというのは間違った治療方針といっていいレベルだと思います。それでもこの治療方針を弁護するとすれば、「かなり改善されたのはコンサータの効果であると医師は判断している」と推定することは可能ですが、改善の要因として職場の対応があることもまた確かと思われますので、コンサータなしでも改善が維持されるかどうかを確認するのが正当な治療方針と言えるでしょう。その確認のためにはコンサータを中止すべきです。

なお、林の奥の ADHDの薬、それは治療か商売か もご参照ください。

以下は補足です:

質問文のうち、

障害のせいだと言い切ってしまって良いものなのか。安易にコンサータを服用して良いのか。

このように「安易に」という副詞が使われた時点で、この医師の診療には問題があるという結論になることはほぼ決定づけられています。

論考すべきは、それが「安易であったか否か」であるところ、論考する前に「安易」と規定しまっては、そこから後の論考はもはや論考とは言えず、ただ定められた結論に向かって話を進めているだけにすぎません。

すなわち、「安易」という言葉が使われた時点で、この質問文はすでに客観的でなく、偏っています。
けれどもそのように言うのであれば、精神科Q&Aに質問されたという時点ですでに、今の診療に疑問を持っておられることは明らかですから、その時点で偏っているということになるでしょう。(【2884】精神科クリニックの6-7割は「ダメなクリニック」ではないか【2886】日本の精神科のレベルは低い
の回答にも記した通りで、精神科Q&Aだけを読み続ければ、日本の精神医療にはあまりに問題が多いという印象が発生することは否めませんが、そもそも問題ありと感じた方が精神科Q&Aに質問されるというバイアスを前提として考える必要があります)

追求していけばメールによる質問にはこのような問題が常にありますが、そうしたことをすべて勘案したうえで、メールの記載内容はすべて正しいと仮定して回答するのが精神科Q&Aの方針です。
(【2418】頭の中で考えている事をそのまま ( 口調も) 書き起こしてみました。統合失調症の傾向がありますでしょうか。のような、明らかな虚偽は別です。他方、「虚偽かもしれない」というレベルの場合は、それでも事実と仮定して回答します。【2220】女性の肉が食べたい‏などがその例になります)

(2015.2.5.)

05. 2月 2015 by Hayashi
カテゴリー: サイトの方針, 発達障害, 精神科Q&A