【2729】統合失調症の薬を減らしてから、どうもおかしい
Q: 私は17歳、女性です。
9カ月前に統合失調症を発症しました。
(中学2〜3年生で不登校になり、現在も全日制高校ではなく、通信制高校に在籍していることから、発症はもっと前であった可能性もあります。)
幸い、家族が早くに気づいて病院に連れていってくれたため、入院することもなく、服薬だけの治療となりました。
そのときの処方は、
トフラニール20mg (朝昼10mgずつ)
ファモチジン20mg (朝昼10mgずつ)
リスペリドン4mg (朝晩2mgずつ)
ソラナックス0.4mg (夜)
でした。
症状がある程度治まり、最近は段々と量を減らし、現在は、
トフラニール10mg (朝)
リスペリドン1mg (夜)
ソラナックス0.4mg (夜)
という処方です。
しばらくはこれで様子を見ていたのですが、最近どうも自分がおかしいような気がします。
道でカラスに追いかけられたり、わけもわからないまま電車で1時間半以上かかるところに行ってしまったりします。(電車に乗ったときは、お付き合いしている彼からメッセージが来て、ある路線の終点の駅にいるから来てと言われ、そこに行こうとして駅に行ったら、知らないおばさんの声に反対の電車に乗るように言われ、反対の終点に行ってしまったということなのですが、そもそも彼はメッセージなど送っていないと言います。)
他にも、すれ違う人が私の考えていたことを話していたりして、ここ数日は怖くて家から出られません。
なんとなくおかしい、再発ではないかとも思うのですが、薬を飲むのをやめたわけでもないので、気にしすぎなのかとも思います。
薬を飲んでいるのに、再発することも有り得るのでしょうか。
またその場合は、寛解したあとも薬を減らしすぎないようにすれば、再発は予防できるのでしょうか。
本来は主治医の先生にお聞きするのが1番だと思うのですが、診察の時はいつも、
「ご飯は食べていますか。」
「眠れていますか。」
などの質問を2〜3個されただけですぐに、「もう少し今のお薬を続けましょう。」などと言われ、終わってしまいます。
待合室はいつも私以外には1〜2人しか患者いません。
誰もいないときもあります。
私は主治医の先生のことを信頼しているつもりですし、だからこそ薬もちゃんと飲んでいます。
それでも、診察の短さや、こちらが言おうと思っていた症状を言うタイミングもなく診察が終わってしまうことから、少し不信感を抱いていることも否めません。
これは、私に非があり、病院をかえても無駄なのでしょうか。
それとも、病院を変えることを検討した方が良いのでしょうか。
長くなってしまいましたが、まとめると以下の2つの質問になります。
(1)服薬を続けていても再発することはあるのか。
(2)また、その場合は薬の量を増やすことで再発を予防できるか。
(3)私は主治医を変えることを検討した方がいいのか。
お時間がある時期で構いませんので、Q&Aに載せていただけるとありがたく思います。お忙しい中、このように質問させていただける場を設けて頂き、有難うございます。これからもサイトを続けていっていただけることを願っています。
林: これは統合失調症の再発です。リスパダールを減らしすぎたことが原因です。すぐにリスパダールを増やすべきです。いま飲んでおられる量が1mgですので、まず2mgに、と言いたいところですが、今の症状はかなり危険な性質のものなので、元の量である4mgにすぐに戻したほうがいいでしょう。
以上が今の【2729】のケースに火急に必要なことの要約です。以下、各質問項目にお答えします。
(1)服薬を続けていても再発することはあるのか。
あります。薬の量が少なすぎた場合と、強いストレスがかかった場合です。
この【2729】は、薬の量が少なすぎた場合 にあたります。
どんな病気でも、薬の量が少なすぎれば、効果は十分に得られず、再発します。統合失調症であっても、高血圧であっても、糖尿病であっても同じことです。
この【2729】のケースは、リスパダール4mgを飲んでいた時は症状が消えていて、1mgにしたいま、再発しているわけですから、リスパダールを減らしすぎたために再発したことは明らかです。すぐにリスパダールを増やさなければなりません。
もちろん飲む薬は必要最小量が望ましいわけですから、症状がよくなった時点でリスパダールを減らしてみるという方針そのものは正しいといえます。けれどもそれは、再発のリスクを高めることは否定できませんから、症状を慎重に確認しながら減らしていくというのが正しい方法です。
しかし減らしてみて症状が悪くなったからまた増やすというのも、ある意味原始的な方法ですから、再発のリスクをおかすことなく、適切な薬の量が決められることが理想です。
実はその方法はすでにあります。
統合失調症という事実 電子増補版 の4章 再発 の章末 「その人に合った薬の量とは」 の解説の通り、脳内のドーパミンD2受容体に、薬がどの程度結合しているかを検査すれば、いま飲んでいる量が適切かどうかを知ることができます。けれどもこの検査は、厳密にはまだ研究途中であり、費用も高額であるため、実際の診療場面での実用段階にはなく、したがってやはり「試しに薬を減らしてみて、再発の徴候があればまた増やす」という原始的な方法を取らざるを得ないというのが、現実の精神医療ということになります。
(2) また、その場合は薬の量を増やすことで再発を予防できるか。
できます。上記(1)の解説の通りです。但し、これも(1)に書いた通りですが、十分な量の薬を飲んでいても、強いストレスがかかると再発することがあります。これについては、 統合失調症という事実 4章 再発 Case 4-3 (このケースはリアル版、電子増補版共通です) に実例とともに解説してあります。
(3)私は主治医を変えることを検討した方がいいのか。
そのほうがいいでしょう。
第一に、処方に疑問があります。【2729】は明らかに統合失調症であり、するとトフラニールの処方には意味がありません。夜のソラナックスもどうかと思いますが、こちらは許容範囲でしょう。
上記(1)の解説で私は、リスパダールの量のことだけを述べましたが、それは【2729】の症状を改善するのは、処方されている薬の中ではリスパダールだけだからです。
第二に、この第二のほうが重要ですが、【2729】の主治医は、統合失調症再発のリスクをあまりに甘く見ています。統合失調症で抗精神病薬を減らす場合は、再発のリスクに細心の注意を払う必要があるのは精神科の常識ですが、
診察の時はいつも、
「ご飯は食べていますか。」
「眠れていますか。」
などの質問を2〜3個されただけですぐに、「もう少し今のお薬を続けましょう。」などと言われ、終わってしまいます。
こちらが言おうと思っていた症状を言うタイミングもなく診察が終わってしまう
という診察では、再発の徴候に気づくことが出来るはずがありません。いや、これは「診察」とはいえません。ただ薬を出しているだけです。こんな「診察」なら医師でなくてもできます。
統合失調症という病気の経過は様々ですが、この【2729】のように、少量の薬で症状がおさまり、かつ、本人が統合失調症という病気を理解し、しかも、ご両親も病気に理解がありサポートが期待できるケースでは、十分に良い経過が期待できます。けれども薬を不用意に中断したり減らしたりすれば、最悪の場合、統合失調症という事実 電子増補版 4章 再発 Case 4-5 殺人未遂の精神鑑定書 のような帰結もあり得ます。このCase 4-5 は、一日一回、たった1錠の薬を飲んでいさえすれば、幸福な日々を送ることができていたのに、その薬を飲むのをやめたために取り返しのつかない悲劇が発生したという実例です。
この【2729】のメールに書かれている今の症状、すなわち、
道でカラスに追いかけられたり、わけもわからないまま電車で1時間半以上かかるところに行ってしまったりします。(電車に乗ったときは、お付き合いしている彼からメッセージが来て、ある路線の終点の駅にいるから来てと言われ、そこに行こうとして駅に行ったら、知らないおばさんの声に反対の電車に乗るように言われ、反対の終点に行ってしまったということなのですが、そもそも彼はメッセージなど送っていないと言います。)
他にも、すれ違う人が私の考えていたことを話していたりして、ここ数日は怖くて家から出られません。
これらはいずれも著明な自我障害であり、このまま進行すれば、自分の意思に反する不条理な行動を取ってしまうおそれがあります。
すぐにリスパダールの量を元に戻してください。
そして、主治医の変更を検討してください。
質問者は未成年で、ご両親は病気に理解があるようですので、この回答をご両親に読んでいただき、転院を具体化していただくのがいいと思います。
(2014.7.5.)