【2403】電気けいれん療法で改善した点、改善していない点(【2376】のその後)
Q: 【2376】双極性Ⅰ型障害の 65 歳の母の波はいつか小さくなるのでしょうか で回答頂きありがとうございました。質問させて頂いてから1年以上経過し、かなり状況が変わりましたので経過と質問を再度させて頂きたく宜しくお願い致します。 まずはリーマスについて、私も何故処方されないのか疑問に思っており、当時の主治医に家族相談をした際聞いてみました。「お母さんの場合はもうしょうがない、風邪などとは違うから今後どうなるか分からない、リチウムについては副作用の強い薬なので使わない方が良い」と言われてしまい、家族は途方に暮れ、10kg体重も減った母の寝たきり状態が続き、通院さえ出来なくなり、一年前に以前躁状態で入院した所へ入院させる事にしました。入院すれば、薬を合わせてもらえると思ったのですが、5ヶ月入院したのですが、何も改善しませんでした。その間、主治医に何故今までリチウムが処方されなかったのか?今後リチウムを使用してもらえるか? と家族相談しに行きましたが、「うーん・・・・そうゆうやり方もあるけど・・この先色々試してはみるけど、リチウムは使わないかもしれないし、使うかもしれないし分からない」との答えでした。またもやリチウムは処方してもらえず、私は母を助けたい一心で、入院中ではありますが紹介状を書いてもらい、兄と一緒に都内のm-ECT(修正型電気けいれん療法)を積極的に行っている病院の院長へ相談に行きました。その結果、母にはかなり効く可能性が高く、やる甲斐はあるとの診断でした。(通電療法後はやはりリチウムが良いとの判断でした) 家族も本人も生きている意味を見出せずにいたので、その後すぐに転院し、週2回計8回の通電療法をしました。改善した事は、食事が美味しく普通に食べられるようになった事、散歩に出掛けられるようになった、TVを30分程見られるようになった、話がかなり長く出来るようになった、便秘が改善、夜中の追加の眠剤がなくても朝までぐっすり寝られるようになった、などです。父から見と躁でもうつでもない穏やかな顔をしてるとの事。 問題は、家事は一切出来ません。気分はまあまあと言っていて、うつ状態ではないと言っていますが、すぐ疲れるとの事。ほとんど一日中ぼーっと横になっています。お風呂に入るのも億劫のようでこれが食べたいとか、これをしてみたいなど一切ないと言ってます。過去数年間では、1番状態が良くなった事には喜んでおりますが、母も、もう少しやる気が出て何か少しでも出来るようになりたいと話しています。この状態はどう解釈したら良いでしょうか?? (退院する時の最後の家族面談では、院長はうつではないですよ、とおっしゃっていました、ずっと寝たきりだったので体力がないからかもと言っていました) また新しく通院先を変えてのベテラン先生は、今の処方はベストだからしばらくこのままいきたいと言っておられますが、林先生はどう思われますか? 眠前リフレックス15mg2錠アモバン10 mg 1錠セロクエル100 mg 2錠1mgロヒプノール 1錠リーマス200mg 2錠 朝、昼、夜ガスモチン5mg 3錠マグラックス330mg 3錠朝リーマス200mg 1錠 そしてもう一つ質問です。m-ECTを終えてから、すでに4ヶ月はたっていますが、高齢の為か記憶障害が残りました。退院した頃に比べればマシになりましたが、未だ過去の病歴はすっかり忘れていて、私病気なのね、といった感じです。病気や病歴以外の事は記憶がはっきりしてる事は沢山あるのですが、問題は新しい事が覚えられません、この前こう言ったよね?とか、これしたよね?など言うとと思い出す事もあるので、本人も私記憶障害ね~・・すぐ、忘れちゃうと分かっているようです。言ったことやった事を全てではないですが半分以上は覚えていないです。このまま治らない可能性もありますか?また現在の母の状態とこの記憶障害は関係あるのでしょうか?
林: 双極性障害 (躁うつ病)
という診断があり、かつ、それまでの治療では改善が思わしくないにもかかわらず、
リチウムについては副作用の強い薬なので使わない方が良い
と言ったとのこと、この医師の治療方針は全く不可解です。そもそも「リチウムについては副作用の強い薬」という言葉に根拠がありません。
ですが、「双極性障害であれば必ずリチウムを使わなければならない」とまでは言えない以上、そして薬の処方の権限も、そしてその結果に対する責任も、すべて医師にある以上、その医師が使わないと言っている場合には仕方ないと考えるしかありません。転院したのは適切でした。
次の医師の言葉、
リチウムは使わないかもしれないし、使うかもしれないし分からない
これは、言葉そのものの意味する内容は適切と言うべきでしょう。使うかもしれないし使わないかもしれない、それは当たり前です。言い方はどうであったかわかりませんが。
しかしこれでは治療が進みませんから、この時点でまた転院されたのは適切でした。結果から見ても、電気けいれん療法で
過去数年間では、1番状態が良くなった
という結果が得られていますから、ご家族はお母様のために最善のことをされたといっていいと思います。
問題はご質問の件、やる気が不十分という点ですが、
退院する時の最後の家族面談では、院長はうつではないですよ、とおっしゃっていました、ずっと寝たきりだったので体力がないからかもと言っていました
また新しく通院先を変えてのベテラン先生は、今の処方はベストだからしばらくこのままいきたいと言っておられます
このように直接診察した医師が二人とも「うつではない」とおっしゃっている以上、うつではないと判断すべきでしょう。
一般論からいえば、躁うつ病でもうつ病でも、他の症状がよくなっても意欲低下の回復は遅れることがよくありますが、意欲低下がうつの症状かそうでないかは、文章による記載だけを見て判断できるものではなく、直接診察した医師の見解が最も信頼できます。
林先生はどう思われますか?
というご質問ですが、これは主治医以外には判断できない事項であると言うべきでしょう。私にももちろんわかりません。
しかし第二のご質問についてはやや話が別になります。
m-ECTを終えてから、すでに4ヶ月はたっていますが、高齢の為か記憶障害が残りました。
電気けいれん療法の後に、記憶障害が残ることはあり得ることです。ただしそれは電気けいれん療法のころの記憶が曖昧だったり失われていたりという形を取るものであって、
過去の病歴はすっかり忘れていて、
ここまでの記憶障害は通常はありません。
さらに重要な点は、
問題は新しい事が覚えられません、
これは電気けいれん療法の影響であるとはまず考えられません。何か別の原因によることは間違いないでしょう。最も考えられる原因は、認知症の始まりです。このこととあわせると、意欲低下も認知症初期の症状である可能性が浮上してきます。それが最後のご質問、
また現在の母の状態とこの記憶障害は関係あるのでしょうか?
への回答になります。すなわち、意欲低下と記憶障害は、どちらも認知症というひとつの疾患の症状であるという可能性です。といってもこれは現時点では可能性にすぎません。認知症の検査を受けることをお勧めします。