【4461】統合失調症等の妄想はその人の論理的思考力によって形態が変わるのでしょうか

Q: 20代男性です。
統合失調症などで、第三者から見れば到底辻褄の合っていない妄想を本当のことだと信じ込んでしまう例は数多いと思います。
このような妄想の飛躍具合は、もとの論理的思考力やIQといったものと相関があるのでしょうか?
また、臨床の現場で、元々非常に論理的な方と非常に迷信深い人の妄想の診断はどのようにつけるのでしょうか?
(例えば、元々全く迷信深くない人が「死んだ母親が靴下を左右違うものを履けと言っている」、というような支離滅裂な主張をする場合と、普段から霊感があると主張する人が「死んだ母親が靴下を左右違うものを履けと言っている」と言った場合で異常度(?)がかなり異なる気がします……例えが下手で申し訳ありません)

他にも子供が「思考を読まれた」と主張するのと大人が「思考を読まれた」と主張するのは意味が違う気がするのですが、そのような元々の論理的思考力の推測なども統合失調症等の診断には重要な指標となるのでしょうか?

あるいは、話が飛びますが、陰謀論を信じている方の中には到底論理的でないことを主張する人もいます。ワクチンを打てば5Gに接続するとか、地底には爬虫類人がいて世界を征服しようとしているだとか、本気で信じ込んでいる集団もいます。このような信じ込みと、精神病からくる妄想症状との違いはなんなのでしょうか?

元からこのような信じ込みを主張している方が統合失調に罹患した場合、精神科医の方々はどのように診断するのでしょうか

まとまりのない質問で恐縮ですが、お答えいただければ幸いです

 

林: 妄想というものの本質にかかわる重要なご質問だと思います。
この【4461】の質問者の各ご質問は、それぞれが別々の重要なテーマを含んでいますが、質問者自身の関心は「論理的思考力」をめぐる事項が中心であることが読み取れます。それについての回答はシンプルで、妄想の成立・発展は論理的思考力とは無関係 というものになります。以下、各ご質問に順にお答えいたします。

(1)
統合失調症などで、第三者から見れば到底辻褄の合っていない妄想を本当のことだと信じ込んでしまう例は数多いと思います。
このような妄想の飛躍具合は、もとの論理的思考力やIQといったものと相関があるのでしょうか?

相関はありません。妄想の内容(テーマ)については、病前の論理的思考力やIQといったいわゆる知的能力とある程度の関係はありますが、飛躍具合は関係ありません。「あんなに論理的思考ができる人がなぜこんなことを信じ込むのか」という驚きが、しばしば妄想という診断の大きな根拠になります。

(2)
また、臨床の現場で、元々非常に論理的な方と非常に迷信深い人の妄想の診断はどのようにつけるのでしょうか?

上の(1)の通りですので、妄想の診断は、「元々非常に論理的な方」の場合は比較的容易で、「非常に迷信深い人」の場合は難しい場合があります。但し、抽象的に考えればそうなりますが、実際にその人に会って話を聞けば、精神病症状である「妄想」と、非常に迷信深い人の「迷信」あるいは「妄信」とは、明らかに異なることが多いものです。もっともそれは逆に言えば、明らかに異ならない場合は区別が非常に難しいということになります。
ではそのように難しい場合はどう考えるか。これは妄想という症状の本質にかかわる議論になりますが、妄想とは、単に「事実と違う」とか「確信を曲げない」というものではなく、「客観的事実から判断すべき内容を、主観的体験と同一のレベルで判断する」が、最も本質をついた定義です。この定義にあてはまるかどうかが妄想の究極的な診断方法であると私は考えています。
なおさらに言えば、実際のケースでは、妄想以外の精神病症状を伴うことがはるかに多いので、妄想の定義にまで遡るまでもなく、妄想であると診断できることが圧倒的に多いものです。

(3)
他にも子供が「思考を読まれた」と主張するのと大人が「思考を読まれた」と主張するのは意味が違う気がするのですが、そのような元々の論理的思考力の推測なども統合失調症等の診断には重要な指標となるのでしょうか?

子供といってもその年代によって大きく事情は異なりますが、小さい子供の場合は(「小さい」というのは曖昧ですが、明確に線を引くことはできませんのであえて曖昧な表現をとっています)、迷信的・非科学的思考や推論をするのはむしろ健全な場合がしばしばありますので、話は別になります。そしてこの場合は、大人でいうところの「論理的思考力」とは意味が異なります。すなわち、大人として形成された論理的思考力と、子供から大人に成長していく過程での論理的思考力の成長段階とは意味が異なるからです。

(4)
あるいは、話が飛びますが、陰謀論を信じている方の中には到底論理的でないことを主張する人もいます。ワクチンを打てば5Gに接続するとか、地底には爬虫類人がいて世界を征服しようとしているだとか、本気で信じ込んでいる集団もいます。このような信じ込みと、精神病からくる妄想症状との違いはなんなのでしょうか?

このご質問は、「このような信じ込み」は「精神病からくる妄想症状」とは異なるという前提に立っています。しかしこのようにご質問にお答えするにあたって最初に指摘しなければならない重要な点は、「このような信じ込み」をしている人の中には、その「信じ込み」が「精神病からくる妄想症状」であるケースがかなりあるということです。この事実が見落とされている、あるいはなぜかこの事実の可能性を無意識に除外している人が非常に多いというのが現実です(この質問をされている質問者もご自分がその一人ではないか、振り返ってみていただければと思います)。それが精神病への理解や、精神病について考える姿勢を阻んでいると言えます。
この事実を認識したうえではじめて、「精神病からくる妄想症状」とは異なる「信じ込み」の存在について考える必要が出てきます。実はこれはインターネットの発達した現代における重要な問題で、妄想と区別がつかないくらいのレベルの迷信を信じる集団の存在は、ずっと昔からあったこととはいえ、現代ではかつてないほど増大しているとみることができます。そしてそれは、ときに真の精神病の妄想を強化する要因になっている場合があります。その悲惨な実例としてね2015年3月9日に兵庫県洲本市で発生した淡路島5人殺害事件があります。これは、強い被害妄想に基づき、被害妄想の対象者を殺害したという事件ですが、被告人は、インターネットを検索して自分と同じような被害を受けている人が全国に多数存在すると確信し、それによって自分の被害は事実であるという確信を強めたというケースでした。【4461】の質問者のテーマからは外れますが、

陰謀論を信じている方の中には到底論理的でないことを主張する人もいます。

という問題は、ずっと昔からある問題ではあるものの、現代、そして近未来には、人類の歴史上かつてなかったほど深刻な問題になっていると言えるでしょう。

(2022.3.5.)

05. 3月 2022 by Hayashi
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