【4498】慢性疼痛に抗うつ剤ばかりすすめないで欲しいです‏

Q: 39歳の専業主婦です。平凡な暮らしをしていましたが1年半ほど前、長年通い続け心から信頼しきっていた歯科医によるオペが失敗し、彼の態度が急変した事をきっかけに非定型歯痛→口腔顔面痛→線維筋痛症と瞬く間に全身の疼痛地獄に転がり落ちていきました。ありがたい事に耐えがたい状態は長く続かず、現在は投薬なしで寛解しています。

疼痛が死ぬほど辛かった頃、どうにかしたいとネットをさまよい、先生の【0600】【0643】にたどり着きました。他の疼痛情報のサイトや、「口腔顔面痛をなおす」という本にも抗うつ剤、特にトリプタノールに劇的な効果が期待できるとあり、私の思考回路は「疼痛は抗うつ剤で治るかも」からいつしか「抗うつ剤を飲まないと治らない」となっていきました。

が、口腔顔面痛をよく診ているという大学病院の歯科医は、抗うつ剤の処方を断ったのです。印刷した【0600】を見せるなどして抗うつ剤が欲しい理由を詳しく説明しても「あなたのような人に出すと自殺など悪い副作用が出かねない。あなたが思っているほど抗うつ剤は万能な薬ではない。私は口腔顔面痛の患者に抗うつ剤を出す事はあるが、あなたには絶対に出さない」とまで言われてしまいました。処方されたのはカロナール。これでダメならリリカにしようとの事で、私はネットの情報でリリカは悪い薬だと信じ切っていたためこの歯科医に見切りを付けました。

次に頭痛治療でとても有名な神経内科医に同じ話をしたところ、今度は抗うつ剤を出してもらえました。希望したトリプタノールではなくサインバルタでしたが私は嬉々としていました。初めて飲み、サインバルタが喉を通っていくのを感じた瞬間、すべての疼痛から解放されて幸福感に満たされた事を今でもよく覚えています。今思うとこれは完全に「プラセボ効果」で、その後私が「慢性疼痛はひどくなるのも良くなるのも脳次第」と考えるようになったきっかけのひとつとなりました。

サインバルタは2度目からは頭が割れるような激しい頭痛や全身のかゆみをもたらし3度しか飲めませんでした。副作用の辛さを切々と伝えても「体を慣らして」と言い張る神経内科医に幻滅し、今度は慢性疼痛治療で非常に有名な整形外科医をみつけ、診察を受けました。

この整形外科医からも私は抗うつ剤が向いてないタイプだからリリカにしようと診断され、仕方なくリリカを飲む事にしました。すると私にはてきめんに効果がありすぐに痛みが軽減されていきました。また「運動すると痛みが減るんだよ」と説明されリハビリにも通いました。発症して間もない事もあったのかどんどん疼痛はなくなっていきました。

が、激しい疼痛から解放されると改めて、私を地獄に突き落とした歯科医への恨みがこみ上げてきたのです。また、再発を恐れる不安にもひどく苦しめられ、この歯科医のクリニックの軒先で首を吊って死ぬ私の姿を何度もイメージしていました。今思うとこれは「再発を恐れる日々から解放されたい、どうせならただ死ぬのではなくあの歯科医への復讐を兼ねて死にたい」という気持ちだったのでしょう。当時の私はそんな本心に気付く事もなく、不安に圧倒され続けており、せっかく激しい疼痛がない状態になったのに苦しみに苦しみぬいていたのです。この事がその後「脳は私を精神の苦しみから解放させるために疼痛を与えた」という理論を信じるきっかけのひとつとなりました。

やっといい先生に会えたと整形外科医に感謝しつつも、自分に自殺願望があるとは話せずもんもんとしていた私ですが、ある日線維筋痛症患者のためのサイトを見ていたら自律訓練というものが紹介されていて、半信半疑ながらネットでこれに詳しいというカウンセラーを見つけ訪ねてみました。すると「(私)さんは、精神の苦しみが身体の苦しみに変換される、身体表現性障害という病気になったんじゃないかと思います」と言われました。そして「ヒーリング・バックペイン」という本をすすめられたので読んでみたところ「精神の苦しみが限界に近付くと、脳は身体に痛みを与えて精神の破たんを避けようとする」といった理論が書いてあり、私はすんなりと受け入れました。カウンセラーからは他にもいろいろ本を紹介されましたが、中でも森田療法の創始者の森田正馬の本は本当に素晴らしかったです。自律訓練は受ける前に、目的はリラクゼーションであるなどといった説明を長々と聞いてから受けたのですが、私にはとても合っていて、不安や恨みを感じる時間が減っていきました。

こうして私は心身が落ち着き、リリカを断薬して寛解した状態が4ヶ月ほど続いています。再発の不安がないわけではありません。が、不安でいい、不安であるのは当然なのだと思っていると気持ちが楽です。カウンセリングは続けていて現在は認知療法をしてもらってます。また、いい事あればラッキー、な気持ちで始めた気功が驚くほど多くの癒しを与えてくれています。

落ち着くと私が病気の元凶の歯科医を人生でこの上ないほどひどく恨み制裁を与えたいと考えている事、以前の私はこの気持ちを「人として許されない」と抑圧していた事に気付きました。で、手段については話せないのですが結果的に歯科医からまとまったお金を受け取りましたのでこれは私の心の支えとなっています。そして、疼痛が出てからは歯科治療を放置していましたが、私に抗うつ剤を出さないと断言した大学病院の歯科医に「先生が正しかった、私は頭が狂ってました」と無礼を詫びたところ私の寛解を喜んでくれ、心よく今後の治療を引き受けてくださいました。

寛解を1年以上キープしたらいつか、林先生にメールしようと思っていました。が、【2772】で「慢性疼痛には抗うつ剤」の回答をされていたのでこの度メールさせていただきました。

私が言いたいのは・・・
慢性疼痛に抗うつ剤が効果があるとはいっても、それは対症療法にすぎないという事です。だから、当面の激しい疼痛は薬を使って抑えるとしても、症状が治まってきたら

・カウンセリングや読書を通して、慢性疼痛の元凶である「自分のものの考え方」を理解する(これは決して、改善しろという事ではなくあくまで「知る」だけです)

・慢性疼痛は自分を苦しめているが、実は精神の病(解離など)にかかる事から自分を守ってくれていると理解する

・意識して呼吸を整える練習をする(自律訓練、気功、ヨガ、瞑想、何でもいい)

・運動をする(ちょっと汗ばむくらい)

・ビタミンなどの栄養が取れているか食生活を見直す

などに取り組めば、やがて薬なしでも疼痛から解放される可能性があることも、紹介して欲しいなと思いました。

先生に言っていいのかわかりませんが・・・医師や薬に出来る事には限界ある、と考えています。不快にさせてしまいましたらすみません。

長くなりました。読んでくださりありがとうございました。

 

林:
貴重な体験を詳しくお伝えいただいたことに感謝申し上げます。
ただし、あなたの個人的な体験を一般化することは誤りです。慢性疼痛には、抗うつ薬がよく効く人もいれば、そうでない人もいます。抗うつ薬でなければ治らない人もいれば、抗うつ薬では決して治らない人もいます。あなたの体験談は貴重ですが、それを一般化しようとした瞬間に、逆に有害なものに転じることになります。

(2022.5.5.)

05. 5月 2022 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A