【4300】私は陰性症状のみの統合失調症でしょうか

Q: 22歳、大学4年生の女性です。
昨年の年末頃から、生活が充実しているときも、そしてそうでないときも、常に心の中で(死にたい、死にたい)と思い続けてしまっています。自分の声で同じテンポで(死にたい)という声が頭の中にずっと響いています。きっかけも全く思い当たることがありません。傍から見れば普通の大学生活のはずなのに、何をしてもすべてが空虚で現実感がなく、靄がかかったようで、心が動かされることがなく、淡々と死にたいとこだまします。

死にたいとずっと思っていることからうつ病かもしれないとも思いましたが、うつ病のようでは全くないと思いました。眠れているし、体重の増減もありませんし、身体が動かないということもありませんし、涙が溢れることもありません。趣味(スポーツ)を楽しめなくなりましたが(やっても楽しめない、喜びがない、趣味に限らずあらゆることが非現実に思われる)、単に喜びの感情だけが失われたのではなく、あらゆる感情を喪失したためなのだと思います。感情の起伏が良くも悪くもなくなりました。死については、周囲に迷惑をかけるし、悲しませてしまうし、色々な出来事があり、自殺しないと決意しているのですが、四六時中、死にたい感覚と自殺しては決していけないという決意で頭の中がごちゃごちゃしていつか破裂しそうな気がします。

死にたいという感覚が中心的にあり、うるさい伴奏のように常に響いています。それと並行して本来旋律となるべき日常的な思考や感情が霞んでいます。思考がまとまらなくなりました。本を読んでも活字をなぞっているだけで内容が頭に入らないし、入っても記憶に留めることができません。勉強が思うように進まないのがとてもストレスになっています。また、ちゃんと読めていないためか、熟語の読みを間違えたり、漢字を書けなくなったりしました。
原因を考えた時に、まず第一に不勉強なせいなのではないかと思いました。しかし私は大学生で、毎日学ぶべきことが多く、勉強していないわけではないと思いました。
それから認知症を疑いました。認知症かもしれないと思いつつ、インターネットで、本が読めなくなり思考がまとまらない病気があるのかと検索すると、認知症に関する記述は全く無く、統合失調症の記事ばかりがヒットしました。統合失調症の陽性症状は自分には全く無いもの の、陰性症状の「意欲や集中力の低下、感情表現が少なくなる、周囲に無関心になるなどといった症状」は当てはまっていると思いました。また別のサイトで記憶力の低下も記載されていましたがこれも当てはまっていると思いました。しかし、統合失調症の患者には病識がないことで有名なので私は統合失調症ではないような気もします。
陰性症状のみの統合失調症はあるのでしょうか?そして、私は統合失調症でしょうか?

自殺しないと決意しているのに、ある夜に橋を通った時、川の流れる音に吸い込まれそうになり、はっと気づくまで自分が橋から身を乗り出し過ぎていて川に落ちそうになっていたことに気づかなかったことがありました。それを帰省した時に母に話すと、母は普段、どんなことがあっても死にたいと思ったことはないし、私のそうした考えや無意識的な行動は理解の範疇を超えていると言われ、学生相談室を利用することを勧められました。しかし私は、精神をかなり病んでいるようには思えないし、かなりの人間は死にたいと思っても葛藤しながら生きているのではないかと私は思うし(母は死にたいとは思ったことがないそうですが)、単なる不勉強が諸問題の根源ならこれからもっと勉強することでしか改善しない気がします。

事実を教えていただきたく思います。

私は何らかの精神的な病気(あるいは問題)を抱えていると思われますか?そしてそれはどのような病気(問題)ですか?

学生相談室を利用したほうがいいと思いますか。

 

林: うつ病の可能性が高いと思います。第一歩としては学生相談室利用は適切かもしれませんが、精神科を受診して治療を受けることが必要でしょう。適切に治療を受ければ今の精神状態は改善すると思います。

質問者は、ご自分がうつ病かもしれないと思う一方で、次のような理由によりそれを否定しておられます:

眠れているし、体重の増減もありませんし、身体が動かないということもありませんし、涙が溢れることもありません。趣味(スポーツ)を楽しめなくなりましたが(やっても楽しめない、喜びがない、趣味に限らずあらゆることが非現実に思われる)、単に喜びの感情だけが失われたのではなく、あらゆる感情を喪失したためなのだと思います。

このうち、

眠れているし、体重の増減もありませんし、身体が動かないということもありませんし、涙が溢れることもありません。

ここまでは確かに典型的なうつ病とは異なると言えますが、うつ病を否定する根拠にはなりません。うつ病だからといって必ず睡眠障害が出るとは限りませんし、必ず体重の増減があるとは限りません。
そして、

趣味(スポーツ)を楽しめなくなりましたが(やっても楽しめない、喜びがない、趣味に限らずあらゆることが非現実に思われる)、単に喜びの感情だけが失われたのではなく、あらゆる感情を喪失したためなのだと思います。

これについては、質問者の認識とは逆に、うつ病に最も典型的といえる症状です。「喜びの感情が失われ」ることが一般には典型的なうつ病の症状と考えられており、それ自体は間違いないのですが、さらに重症化すると、「あらゆる感情を喪失した」という体験が現れるのがうつ病という病気です。
また、

感情の起伏が良くも悪くもなくなりました。死については、周囲に迷惑をかけるし、悲しませてしまうし、色々な出来事があり、自殺しないと決意しているのですが、四六時中、死にたい感覚と自殺しては決していけないという決意で頭の中がごちゃごちゃしていつか破裂しそうな気がします。

これもまた、うつ病の症状として矛盾はありません。

自殺しないと決意しているのに、ある夜に橋を通った時、川の流れる音に吸い込まれそうになり、はっと気づくまで自分が橋から身を乗り出し過ぎていて川に落ちそうになっていたことに気づかなかったことがありました。

これも同様です。このような形での自殺も、うつ病では少なからずあるものです。

以上の通り、この【4300】の質問者の症状はうつ病として矛盾はなく、また、特にきっかけなく発症していることとあわせ、うつ病という診断はかなり確定的です。

他方、統合失調症の可能性も捨て切れません。統合失調症の前駆期にはうつ病とかなり似た症状が現れることがあるからです。

いずれにせよ精神科の受診が必要です。早目の受診を強くお勧めします。

(2021.5.5.)

05. 5月 2021 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A, 統合失調症, 自殺 タグ: |