【4297】患者が病名を知らずとも適切な薬を飲み症状が落ち着いていたらそれで治療としては成功でしょうか (【4081】のその後)

Q: 【4081】双極性障害と診断されているが統合失調症ではないかで質問した30代女性です。ご回答いただきありがとうございました。
これまで一年ほどいろいろな薬を試しましたが、現在は薬も同じものに決まりました。セロクエル25mg錠を1日3回、朝と昼に2錠ずつ、夜に4錠を服薬しています。今ある症状は私の頭に浮かんだ言葉や、目についたテキストを私が読んだ後に、男性の低い声が遅れて読み上げてくるというもので、医師からは考想化声と言われています。夜、お風呂上がりくらいから寝るまでの時間に聴こえています。しかし、経緯は【4081】に書いた通りですが、入院前の「キチガイ」などの暴言が聞こえることは今は全くありません。男性の声が聴こえてきても「現実の声ではない。これは考想化声。」と考えてパニックになるようなことはありません。私の症状は今、安定しています。仕事も週5日勤務できており、業務も支障なく行えています。

医師に「私は統合失調症ではないか?」と聞いても双極性障害だと断定されてしまい、本や地元の家族会で学んだ知識程度では医師に論破されて統合失調症と認めてもらえなかったという話を過去にしました。今は「統合失調症ではなく双極性障害と医師は強く言っているが、薬は統合失調症のものだし症状も落ち着いているので治療としては問題ない、わたしの治療は成功しているのではないか。」と考えています。もっと言うと、「患者が病名を知らずとも適切な薬を飲み症状が落ち着いていたらそれで治療としては成功している。」ということになります。要するに私は何も知らずにただ薬を指示通り飲んでいれば良い。ということです。私が閉鎖病棟に入院中は統合失調症の患者も複数人おり、私の担当医と同じ医師が担当されていたので、私がかかっている医師は全ての患者を統合失調症と認めない方針であるわけではありません。なぜか、私に関しては一貫して統合失調症を認めないということです。私の知らない事情があるかもしれません。予想でしかありませんが、父が統合失調症に強い偏見を持っているため、統合失調症と私に告げると父親が通院などを妨害する可能性があり便宜的に双極性障害にしているのかもしれません。まとまりのない文章となりました。とにかく私は何も考えることなく定期的に通院し、指示通り服薬する。病名は気にしない。これが最善策でしょうか。医師の説明がデタラメだからと言って、治療が効果が出ているのに別の医師にかかるのはせっかく安定している現状を壊すことになると考えています。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。【4081】の回答に記した通り、この質問者は統合失調症だと思います。主治医の先生が統合失調症と診断していない理由は不明です。考えられる理由としては、【4081】の回答に記した内容に加え、

父が統合失調症に強い偏見を持っているため、統合失調症と私に告げると父親が通院などを妨害する可能性があり便宜的に双極性障害にしているのかもしれません。

そのような事情も考えられるとは思います。
ご家族やご本人が、統合失調症という診断名を告げられるとそれだけで治療を拒否されるというケースは相当数ありますので、医療という場面では「適切な治療によって回復する」ことが「正しい診断を告げる」ことに優先しますので、現実としては統合失調症以外の診断名を告げるということはしばしば行われています。これは統合失調症という病気についての正しい知識の流布を著しく妨げる大きな原因のひとつですが、現実にはやむを得ないと言えるでしょう。(精神科Q&A は医療相談ではなく、事実を回答することを第一の方針とし、回答の結果が質問者にとってプラスになるかマイナスになるかについては一切考慮しませんので臨床とは全く異なります)

したがって、この【4297】の質問者の治療は基本的には成功していると思います。つまり、

「わたしの治療は成功しているのではないか。」と考えています。

そう言えると思います。
しかし、一般論として、

もっと言うと、「患者が病名を知らずとも適切な薬を飲み症状が落ち着いていたらそれで治療としては成功している。」ということになります。

と言うことはできません。つまり、中には「患者が病名を知らずとも適切な薬を飲み症状が落ち着いていたらそれで治療としては成功している。」と言える場合はありますが、それは患者さんご本人が正しい病名を知ることで治療が不可能あるいは著しく困難になるケースについてはそう言えるということで、この【4297】はそういうケースにはあたらないでしょう。
したがって、

要するに私は何も知らずにただ薬を指示通り飲んでいれば良い。ということです。

そうは言えません。

以上のポイントだけをまとめますと、

・現実の医療は治療の成功が第一。
・治療の成功のためには正しくない診断名を告げることもやむを得ない場合がある。
・ただしそれは「やむを得ない場合」であって、この【4297】はその「やむを得ない場合」にはあたらない。

ということになります。

(2021.4.5.)

その後の経過 (2021.8.5.)

05. 4月 2021 by Hayashi
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