【4135】文字に色がついて見えます
Q: 28歳、女です。
28年間生きていて、はじめて、周りの人達には字に色がついて見えてないことを知りました。
きっかけは、仕事中に誤字脱字を見つけた事でした。
「よく見つけたね」と言われ、
私は「だって色が違うじゃないですか(笑)」と答えました。
すごく驚かれました。
私は驚かれたことに驚きました。はじめて周りの人には文字に色がついて見えてないことを知りました。
例えば、分かりやすく言いますと、
沖縄県
沖縄県
起縄県
沖縄県
というリストがあるとします。
青
青
黄色
青
と見えるので、「あ、間違ってる」となります。
逆にそれを説明するのが大変でした。
ご飯を食べて味がするのが当たり前なように、字に色はついて見えるもんだと思っていました。 思っていましたというか、当たり前すぎて気づきもしませんでした。
例えば、誰か人の名前を思い出そうとする時は、「緑っぽかったな、なんだっけ」という感じになります。
ですが、私自身誤字脱字があったり、間違ったりする事はあります。
ご飯食べる時は、意識して一つ一つ味を噛み締めて食べないですよね?
そんな感じでいちいち意識してないから、色がついて見えてても、私は字を間違えるのだと思います。
私は何かの病気なのでしょうか?
精神科を受診した方が良いのでしょうか。
お手数ですが、ご回答いただけると嬉しいです。
林: これは共感覚 (シネステージア synesthesia, synaesthesia) です。共感覚とは、知覚としての入力(たとえば文字)に、普通の人は異なる知覚(たとえば色)が主観的に体験されることを指します。この【4135】のケースのように、「文字→色」(文字に色がついて見える)が共感覚としては最も頻度が高いパターンですが、それ以外にも、「音→色」(音を聞くと色が見える)、「音→形」など、様々な種類の共感覚があります。
私は何かの病気なのでしょうか?
共感覚は病気ではありません。ひとつの「能力」と呼ぶのが適切だと思います。共感覚という能力を持っている人は芸術家の中に多く、たとえばフランツ・リストFranz Liszt、パウル・クレーPaul Klee、そして現代ではデイヴィッド・ホックニーDavid Hockney、レイディ・ガガLady Gaga、ビリー・ジョエルBilly Joelなど、多くの名前を挙げることができます。日本では宮澤賢治がこの能力を持っていたようで、いくつものエピソードが残されており、また、作品の中にも現れています。『銀河鉄道の夜』のこの部分は「音→色」あるいは「音→形」の共感覚の描写であるとみることができます。
森の中からはオーケストラやジロフォンにまじって何とも云へずきれいな音いろが、とけるやうに侵みるやうに風につれて流れて来るのでした。
青年はぞくってしてからだをふるふやうにしました。
だまってその譜を聞いてゐると、そこらにいちめん黄いろやうすい緑の明るい野原か敷物かがひろがり、またまっ白な蠟のやうな露が太陽の面を擦めて行くやうに思はれました。
共感覚は病気ではありませんが、普通の人にはない感覚であることは確かです。そして感覚とは脳内にあるメカニズムによって生まれるものである以上、普通の人とは違うメカニズムが脳内にあるということになります。普通の人とは違うメカニズムの結果として、生きていくうえで何かデメリットがあれば病気(または障害)と呼ばれ、逆にメリットがあれば能力と呼ばれる、言葉の使い方としてはそのようになると言えるでしょう。
共感覚は、その脳内メカニズムを含め、人間の主観的体験というものを考えるうえでとても貴重で興味深い能力です。このあとの説明は少々長くなりますので、林の奥 の共感覚 — 目で聞く人。耳で見る人。に場を移すことにしました。
この【4135】の質問者には、林の奥 に行く前に、以下の質問への答えを是非ご自分の中でお考えください。林の奥 の解説は、これらの質問にそって進めますので、あらかじめお考えになっておかれると理解がスムースになると思います。質問数は多いですが、大部分は一瞬でお答えになれるはずです。なお、後の説明の都合上、すでに【4135】の質問文の中に記されている内容も一部含まれています。
(とりあえず以下では、「共感覚」という言葉を、【4135】の質問者の「文字に色がついて見える」という能力を指すものとして使います。)
Q1 共感覚は生まれつきですか。つまり、もの心ついたときにすでに共感覚がありましたか。
Q2 右利きですか左利きですか。
Q3 家族や親戚に共感覚を持つ人がいますか。
Q4 違法ドラッグやその類の薬を使用したことがありますか。
Q5 頭を強く打ったり、頭に大きな怪我をしたり、または脳出血などの脳の病気をしたことがありますか。
<質問者の共感覚についてもう少し詳しく教えてください>
Q6 文字のフォントが違っても同じように色がついて見えますか。手書きの文字ではどうですか。また、似た文字、たとえば「沖」に似た「冲」はどうですか。
Q7 沖縄県 / おきなわけん / オキナワケン / Okinawaken これらはそれぞれどう見えますか。
Q8 沖 / おき / オキ / Oki これらはそれぞれどう見えますか。
Q9 沖 という文字を思い浮かべたときはどう見えますか。もし色が見える場合、それはどこに見えますか。文字そのものでしょうか。文字以外の空間でしょうか。また、沖縄県 という単語を思い浮かべたときはどう見えますか。
Q10 他の県名はどう見えますか。たとえば岡山県、長野県など。京都府、東京都、北海道はどうですか。
Q11 次の物が書かれた文字はどう見えますか: 曜日。月。季節。国名。都市名。
Q12 色がついた文字はどう見えますか。たとえば 沖 あるいは 沖縄県 が青で書かれていたらどう見えますか。また、沖縄県 を含む文章がすべて青で書かれていたらどう見えますか。
Q13 色を表す文字はどう見えますか。たとえば 青 という文字とか 赤 という文字など。
Q14 見える色は実際の色と違いがありますか。あるとすればどう違いますか。たとえば沖縄県の沖の青は、どういう青ですか。できるだけ具体的に教えてください。
Q15 色が見えるまでの時間は? 文字を見た瞬間に色が見えますか。また、いったん見えた色が消えることはありますか。
Q16 色はどこに見えますか。文字そのものに色がついて見えますか、それとも文字そのものとは別の位置や空間に見えますか。
Q17 文字の色が本当は黒であることはわかっていますか。
Q18 もし本当は黒であることがわかっている場合、自分の意志で色(沖なら青い色)がついていない文字として見ることはできますか。
Q19 逆に、色を見たときに文字が見えることはありますか。たとえば 青色を見ると 沖 または 沖縄県 という文字が見えるとか、あるいは 沖 または 沖縄県 という文字が思い浮かぶなどはありますか。
Q20 沖縄県(の沖?)は青、起縄県(の起?)は黄色 という実例を示していただいていますが、そのほかの実例をできるだけたくさん教えてください。
Q21 見える色が変わることがありましたか。たとえばある文字(たとえば沖縄県)が、ある時は青に見え、ある時は赤に見える。または、たとえば15歳までは緑に見えていたがその後は青に変わったなど。
<「文字に色がついて見える」という【4135】の能力を、「文字→色」というふうに記すとしたら、次のような能力はありますか>
Q22 「単語→色」 (あるいは【4135】の共感覚はこちらかもしれませんが、一応「文字→色」であると仮定して話を進めています)
Q23 「色→単語」
Q24 「音→色」 特に、沖 または 沖縄県 を音で聞いたときはどうですか。
Q25 「色→音」
Q26 「音→形」
Q27 「形→音」
Q28 「色→形」
Q29 「形→色」
Q30 「数字→色」
Q31 「色→数字」
Q32 「数字→音」
Q33 「音→数字」
Q34 「文字→位置」 (文字が特定の位置に配列されて見えるという意味です)
Q35 「数字→位置」 (数字が特定の位置に配列されて見えるという意味です)
Q36 「単語→位置」 (単語が特定の位置に配列されて見えるという意味です)
Q37 上記のいずれかの組み合わせ。たとえば、数字に色がついて、かつ、特定の位置に配列されて見えるなど。
Q38 そのほかの組み合わせ。たとえば「文字→におい」など。
<共感覚以外のことについて教えてください>
Q39 記憶力はどうですか。人より優れているとか、特定のものの記憶だけは優れているというようなことがありますか。
Q40 人の顔は普通に覚えられますか。また、見分けられますか。
Q41 地図は普通に読めますか。いわゆる方向音痴で道に迷いやすいというようなことはありますか。
Q42 左右は普通にわかりますか。
Q43 計算はどうですか。特に苦手とか、逆に特に得意ということはありますか。
Q44 絵を描く能力はどうですか。特に優れていますか。
Q45 音楽能力はどうですか。特に優れていますか。
Q46 そのほかに、特に得意とか苦手というものはありますか。
Q47 そのほかに、ほかの人と自分は少し違うのではないかと感じているものはありますか
Q48 これまで何か大きな病気をしたり、または精神科関連の診断の疑いを指摘されたことがありますか。たとえばアスペルガーの傾向があるとか。
Q49 ご家族や親戚に、精神科関連の病気の方はいらっしゃいますか。
Q50 どういう夢を見ますか。特に人と違う夢を見ているというようなことはありますか。
この回答は林の奥 の共感覚 — 目で聞く人。耳で見る人。に続きます。
(2020.10.5.)