【4125】母の躁うつ病の経過が思わしくありません
Q: 私は20代男性です。 今年で56歳になる母が長年躁うつ病(と主治医に診断されています。)にかかり続けています。
母は4人姉弟の3番目で、幼少期は貧しい家庭で育ったそうです。本人曰く、3つのトラウマを抱えていると言います。
1 : 貧しさの余り自分が里子に出されそうになった時、実の母親(祖母)がいの一番にそれを止めてくれなかった。
2 : 2番目の姉が自殺未遂を図った時、当時同居していた母が前兆に気づけなかった事を親戚中から責められた。
3 : 亡くなった祖母(母の母親)が火葬された時、父が父方の祖父母を迎えて行ってしまい、傍にいてくれなかった。 その他にも、姑に長年虐げられてきた事や、幼少期の貧困を理由としたいじめ等、事細かに記憶していると言います。 ここ7~8年に渡る母の病状については以下の通りです。
(1) 1ヶ月起きて1ヶ月寝込むというパターンの繰り返し。
(2)1年~2年に一度酷い躁状態になる。
・この状態の時は、3~4日の間平気で睡眠をとらない。
・上記のトラウマについて何度も父や自分の姉に対してわめき散らす。その後気を失ったように数十分眠る。
・「死ね」「逃げられると思うな」等という汚い言葉を平気で使う。
・父や自分の姉を時間にかかわらず呼びつけ(又は電話をし)罵声を浴びせ続ける。
・自分の言動は覚えており、後になって自己嫌悪に陥る。
(3) 躁の状態が治まると、続いて酷い鬱状態となり、「自分では死ねないから殺して欲しい」等と家族に懇願する。
(4) かかりつけの医者に不定期に通院はしているが、自分の状態が良い時には処方された薬の量を自分で調整してしまう。
・睡眠導入剤(特にサイレース)に抵抗感が強く、「副作用が怖い」「アヘン中毒のようになりたくない」等と言う。
・自分は歯科衛生士の資格を持っており(事実持っています。)、薬学には精通しているから、副作用の恐ろしさを知っていると言う。
・リーマス パキシル については処方どおり飲んでいる。
父は3年前にそれまでの仕事を辞め、現在は深夜の警備員の仕事をしています。そして特に3番目のトラウマについて母から聞かされた際、ひどく後悔し、償いの意味も含めて生涯母を守ると誓いました。休日には母親を病院に連れて行き、母が罵声を浴びせかけても甘んじてそれを受け入れています。 私は母の壊れた姿を見ると、感情的にならずにはいられないのです。トラウマについても、何とか話せば解ってもられえるはずだと思い込み、感情的に訴えかけてしまいます。私の訴えかけに対し、母はその場では涙を流して理解したと言ってくれても、翌日にはまた同じ内容でわめき散らしているといった事が何度と無く繰り返されてきました。 私は、不定期の通院と、処方された薬を飲み続けない事がこの状況を長引かせているのだと思っています。もちろんトラウマを抱えている本人に対して、自分の思いをぶつけたり、カウンセリングによるケアも必要ではあると思いますが、まずは定期的に通院をし、薬を飲み、睡眠をとる事をしなければ、どんな心理的な治療も無意味であると思っています。薬を拒否するのであれば、口をこじ開けてでも飲ませなければならないと思っています。しかし実際は、私が結婚して実家を離れている事もあり、四六時中監視し続けることはできていません。 正直申し上げて、私や父がいかに甘い考えであるのか、、この内容のメールを書いている時点で何となく解っています。しかしながら、通院を含め正しい対処というものがどういうものなのか、恥ずかしながら解らないのです。 先生のHPに、躁うつ病は治る病気だとありました。定期的な通院と、薬物療法を続ける事で、この状況は改善されるのでしょうか。もし本当にそのトラウマが引き金になっていたとしても、治るものなのでしょうか。アドバイスをいただければ幸いです。
林:
もし本当にそのトラウマが引き金になっていたとしても、治るものなのでしょうか。
トラウマは、仮に本当にあったとしても、双極性障害(躁うつ病)との関係については、引き金に過ぎませんので、治る・治らないとは無関係です。
また、本人の回想のみでは、そのトラウマが本当にあったかどうか不明です。「本人がトラウマがあったと信じている」とまでしか言えません。
この【4125】のケースの双極性障害の経過が不良なのは、治療を適切に受けていないことが主たる理由であることは明らかです。
かかりつけの医者に不定期に通院はしているが、自分の状態が良い時には処方された薬の量を自分で調整してしまう。
不定期な通院、自己調整の服薬が常態化していれば、経過が不良になるのは当然です。
まずは定期的に通院をし、薬を飲み、睡眠をとる事をしなければ、どんな心理的な治療も無意味であると思っています。
その通りです。 「どんな心理的な治療も無意味である」とまで100%断言できるかどうかは何とも言えませんが、そのような姿勢は基本的に正しいと言えます。
薬を拒否するのであれば、口をこじ開けてでも飲ませなければならないと思っています。
そのような場合も存在します。しかしこの【4125】のケースでは、まだまだその前にすべきことがあると思います。
・リーマス パキシル については処方どおり飲んでいる。
というように、ご自身が納得された薬は飲んでいるということであれば、その範囲内において処方を調整することで、適切な薬物療法を継続できる可能性があります。そしてリーマスはこのケースで最も必要な薬ですので(パキシルに関してはこのメールからは必要・不要の判断はできません)、症状の改善・安定は期待できます。もっとも、リーマスを処方通り飲んでいるのによくならないとすれば、リーマスの処方量が足りないか、他の薬を追加する必要があると考えられます。
・自分は歯科衛生士の資格を持っており(事実持っています。)、薬学には精通しているから、副作用の恐ろしさを知っていると言う。
これは不合理な主張ですが、すべての薬を拒否するのでない限りにおいては、聞き流しておくのがよいでしょう。
・睡眠導入剤(特にサイレース)に抵抗感が強く、「副作用が怖い」「アヘン中毒のようになりたくない」等と言う。
これも不合理な主張ですが、サイレースはこのケースで必ず必要な薬とは考えられず、また、サイレースにはそれなりの依存性があることも事実ですので、これに関してはご本人の意向を尊重していいと思います。
(2020.9.5.)