【4051】サトラレ。自分が自分を動かしているという実感がない。

Q: 23歳の女性です。
精神科Q&Aを読んでいて、初めてサトラレ症状が普通のことでないと知りました。
今はこういった症状は一切ありませんが、昔はずっとこの症状があったので、勝手に思春期には誰でもなるものなのかと思っていたからです。
私は中学生~高校生の時、同じグループの人たちに嫌われている気がして、その内のひとりの携帯メールを勝手に見てしまいました。
それ以外でもいつも他人に嫌われていると思っていました。
その後グループの関係は破綻、メンバーに無視されたり悪口を言われるようになりました。
(関係が破綻した後のいじめについては、当時のクラスメイトも言っていて、幻聴ではない、と思います。多分…。)
今となってはそこまでひどく嫌われていたとは思いませんし、なぜ他人の携帯を勝手に見るといったモラルのないことをしたのか自分でも分かりません。
(この後9ヶ月ほど不登校と保健室登校を繰り返していて、その後も大学4年生になるまで何度も短期間の不登校や保健室登校を繰り返していました。)
悪口の内容が聞こえる時もあったのですが、幻聴ではないとは言い切れません。
この時期からサトラレ症状が出るようになりました。
クラスメイトに思考がバレていると思い怖く、頭の中で「思考を読むな!」と叫んだりしていました。
また、生きている感覚、自分が自分を動かしている感覚というのが無く、本当の私は存在しなくて、別の世界の誰かが動かしている物なのに生きていると思い込んでいるのかも、とよく思っていました。想像するだけでなく、それを実感として感じていました。
(私はこの症状も中二病だと思っていたので、当時は気にしていませんでした。)
このころから大学2年生くらいまではいつも他人の笑い声はいつも自分の悪口に聞こえていましたし、街を歩く時に人の視線を感じると私が気持ち悪いから見ていると思い込み、外出が辛かったです。

統合失調症でないのにこういった症状がある、また適応障害やうつ傾向、自律神経失調症といった診断なのにエビリファイが処方されることはあるのでしょうか?
(エビリファイを飲んでいたのは1ヶ月ほどで、その後2~3年精神科のお薬は飲んでいませんでした。また、エビリファイの前はソラナックスを長いこと飲んでいました。)
また、勝手にこういった症状が治った場合、統合失調症ではないと考えて良いのでしょうか?
本当に今は上記の症状は全てありません。むしろなぜ昔そう確信し悩んでいたのか意味が分からないほどなのです。
幻覚は一度も見たことがない、と思います。今となっては分かりませんが…。

関係があるかは分かりませんが、いとこに統合失調症の姉弟がいます。
また、祖父がアルコール依存症で祖母にDVをしておりました。
私の父はある程度高収入ではあるのですがギャンブル依存症で家に借金があり、家 (特に母)はお金にいつも困っていました。
叔母がパニック障害です。

私自身は現在は社交不安症と診断され、セルトラリン(ジェイゾロフト)を飲んでいます。
また、辛い時期の記憶がはっきりとしておらず、時系列も分かりません。
時系列も内容もある程度はっきりした記憶があるのはここ2年程度です。

本当に気になっているので、私が統合失調症の可能性があるのかどうかだけでもご回答いただけたら嬉しいです。

 

林: 統合失調症の可能性は十分にあります。
質問者が サトラレ と呼んでいる思考伝播は統合失調症にかなり特異的な症状ですし、幻聴もしくはそれに近い体験があったと思われること、また、

大学2年生くらいまではいつも他人の笑い声はいつも自分の悪口に聞こえていましたし、街を歩く時に人の視線を感じると私が気持ち悪いから見ていると思い込み、外出が辛かったです。

これも統合失調症に見られる典型的な体験です。
さらには、

生きている感覚、自分が自分を動かしている感覚というのが無く、本当の私は存在しなくて、別の世界の誰かが動かしている物なのに生きていると思い込んでいるのかも、とよく思っていました。想像するだけでなく、それを実感として感じていました。

これは自我障害と呼ばれる症状です。【4049】もご参照ください。

エビリファイの前はソラナックスを長いこと飲んでいました。

当初は漠然とした症状のため統合失調症とは診断されず(たとえば【4050】では当初は適応障害と診断されています)、ある時点から統合失調症らしさがはっきりしてくるという経過はよくあり、すると当初は抗不安薬(この【4051】ではソラナックス)、ある時点から抗精神病薬(この【4051】ではエビリファイ)が処方されるということも少なからずあります。これに関連して、

私自身は現在は社交不安症と診断され、セルトラリン(ジェイゾロフト)を飲んでいます。

とのことですが、社交不安障害は誤診でしょう。このケースにセルトラリンを処方することには賛成できません。

関係があるかは分かりませんが、いとこに統合失調症の姉弟がいます。

関係あります。統合失調症に似ているが統合失調症とまでは診断し難いときに、統合失調症の家族歴があることは、診断の有力な根拠になります。もっともこの【4051】は、「統合失調症に似ているが統合失調症とまでは診断し難い」というレベルではなく、統合失調症と診断することが妥当なケースですので、家族歴はその診断を強化する情報ということになります。

また、勝手にこういった症状が治った場合、統合失調症ではないと考えて良いのでしょうか?

これは統合失調症という病気の概念をどう考えるかによります。古典的には統合失調症は必ず進行する病気ですから、自然寛解はありえないということになります。現在では統合失調症を「必ず進行する病気」とは考えないのが普通ですが、ではどういった条件を満たしたときに統合失調症と診断できるかは明確ではありません。DSMのような診断基準を満たせば統合失調症と診断する、というのは一つの標準的な考え方ですが、実際には診断基準を満たさなくても、脳内で発生している事象は統合失調症であって、抗精神病薬が有効というケースは多々あります。【4046】統合失調症の因子を持っている人は、一生統合失調症なのではないでしょうか もご参照ください。

また、この【4051】の回答ではあえて言及しませんでしたが、ARMSという概念による説明も可能です。ARMSについてはこちら をご参照ください。

(2020.6.5.)

05. 6月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症