【4004】自傷他害もあるのになぜ統合失調症と診断されず入院にもならなかったのか
Q: 20代男性です。同僚の女性が以前ハウスキーパーをしていた家の男性についての質問です。
その男性はピントのズレた受け答えが多く、また年齢に知的水準がそぐわなないこと、識字機能の問題が伺えることから、発達障害ではないかと友人は考えていたそうです。
しかし話をよく聞いたところ
・業務を断念せざるを得ない程の叫び声を上げる
・机に突っ伏し顔面負傷。流血する。
・脈絡のない発語
・被害妄想(医者は薬で自分を殺そうとしている、誰かが物を盗んだ、他人は自分を馬鹿にしている)
・言葉が通らず意思疎通が困難な場合がある
・筆記が著しく苦手(友人曰く『文章の構成が崩壊している』)
・意味のわからない独り言
といった症状があることが分かり、個人的に鬱や発達障害ではなく統合失調症ではないかとの懸念を抱きました。
そこで統合失調症と仮定した上で、上司と共に想像と知識の及ぶ範囲で対処できる体制を整えました。(妄想に対し否定も肯定もしない、隣室で家人を待機させる、許可を得ての録音、部屋の中で逃げ道を塞がせない、同じ空間では目を離さない、事前に緊急時の対応を取り決める、関連法制の伝達など)
また統合失調症という病名は友人・上司含め誰にも指摘せず「症状から危惧される事態を避けるため」という体で取り行いました。
間もなく本部によって指導続行不可能と判断され契約解除の流れとなり、その後は本部と家庭とのやり取りになったため一切連絡を取っていません。ただあまり穏やかとは言えない結末になったと聞いています。
前置きが長くなりましたが本題に入ります。
以前より家庭内での他害行為、自傷行為があり、家族が警察に通報したこともあると聞きました。しかし当時診察をした医師は「これくらいなら入院するほどではない」と判断しているそうです。またそれ以来精神科に通院して薬を処方されているらしいのですが、少なくとも前述の出来事があるまでは「うつ病」と診断されているとのことです。
当時の診察が措置診察であったかはわかりません。しかし素人の目から見れば23条通報となってもおかしくないインシデントが発生しており、そして他害を含む様々な症状が継続している中で入院措置を取らないというのは不思議ですし、加えて現在に至るまで診断が「うつ病」であるというのはさらに理解し難く感じます。少なくともその結果として「穏やかとは言えない結末」が起きています。
つまるところ私の疑問は
(1) 統合失調症と判断した対応は妥当か
(2) 診断名がどうあれ、このような病態にあるクライエントでも措置入院は行われないものなのか
(3) 上記の症状から見て「うつ病」という診断は妥当か
という3点になります。
又聞きのため詳細不明であったり、推測せざるを得ない部分もあるため分かりにくいと思いますが、どうかよろしくお願いします。
林:
(1) 統合失調症と判断した対応は妥当か
「判断した対応」という表現は意味が曖昧ですが、「統合失調症だと判断したこと」「その結果としての対応」の二つが妥当だったかというご質問だと一応は解釈することにします。その解釈にそってお答えすると、「その結果としての対応」については妥当だったと思います。「統合失調症だと判断したこと」については、正しい判断である可能性が高いとは思いますが、発達障害の一部の方はこの【4004】のような症状を呈することもありますので、発達障害も否定できません。
(2) 診断名がどうあれ、このような病態にあるクライエントでも措置入院は行われないものなのか
措置入院の要件はご承知のとおり「自傷他害のおそれ」ですので、その「おそれ」があれば、法文上は措置入院可能ということになりますが、実務上は、何らかの他害行為が現にないうちは、行われにくいというのが実情です。この【4004】のようなケースを目の当たりにしている質問者は、そのような実情には強い疑問をお持ちになると思いますが、逆に「おそれ」という幅のある言葉にそって措置入院を行うのが普通になって、「おそれ」がどんどん拡大解釈されていくのも不合理、時には恐ろしい事態であることも否定できないでしょう。
また、いま私が記した「何らかの他害行為」も曖昧な表現で、「何らかの」とはどの程度からを指すかも、判断する医師によってまちまちです。そうは言っても、一定以上の他害行為があれば措置入院の適応と考えるのが自然ですが、このケースでは、
家庭内での他害行為、自傷行為があり、
と記されているのみで、他害行為の具体的な内容が不明ですので、診察した医師の、
「これくらいなら入院するほどではない」
という判断が、一般的な範囲のものと言えるかどうかはわかりません。
ただし、この方にはご家族がいらっしゃって、そのご家族が警察に通報などされているわけですから、医療保護入院の適応であったとまではかなり確実に言えると思います。にもかかわらず入院にならなかったのは、ご家族が医療保護入院を拒否されたか、診察した医師が特異な医師であったかのどちらかであると考えられます。
(3) 上記の症状から見て「うつ病」という診断は妥当か
妥当ではありません。ただし現代では「うつ病」という病名は拡大解釈されて用いられる傾向にあり、原因が何であれうつ状態が認められれば「うつ病」と診断することは誤りではないことになっていますので、その意味では妥当という立場もあり得ます。私はその立場には賛同しませんが。
(2020.3.5.)